5)会社は誰のものか
アメリカでは、西暦2000年頃から、DXやデータサイエンスが経営に反映され、そうした脳能力の高い人が、高給で、企業に雇用され、一部は、幹部として、経営にタッチするようになります。こうした人たちの中には、インド、台湾の出身者が多く含まれています。
日本では、西暦2000年にアンシャンレジームが起こり、経営者は、最大限の利潤をあげて、株主に還元することがルールが守られなかったと指摘しました。
海外投資家の日本への直接投資(FDI)は、第1に、企業買収の形で行われます。
杉之原真子氏の解説を要約します。
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2003年1月、当時の小泉首相は対日直接投資(FDI)投資累積額を5年間で2倍にすると宣言しました 。
しかし、産業界が外資規制の強化を求めました。その動機には、安全保障の他に、個別企業のより一般的な買収防衛の強化要請も含まれていました。2005 年は、ライブドアによるニッポン放送への敵対的買収、夢真ホールディングスによる日本技術開発への敵対的 TOB など、M&A に関する事件が起き、敵対的買収への関心が強まります。2005年5月、経済産業省と法務省は共同で買収防衛策の導入原則に関する指針を発表しています 。多くの企業は買収防衛策を導入します。産業界では、外国投資家からの敵対的買収に対抗する十分な手段がないと懸念します。
経済産業省は、 2006 年 12 月に「グローバル経済下における国際投資環境を考える研究会」を設置します。研究会を受けて、2007 年9月、16 年ぶりに安全保障関連業種に外資規制の強化が実施されました。
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この頃、アンシャンレジーム派は、会社は誰のものかというカルトな議論を引き起こします。
経済学的には、会社の存在理由は利潤の最大化で、利潤は最終的には株主に帰属します。
これに対して、「会社は社員や顧客のもの」という主張がなされます。
欧米でも、会社は従業員やその会社の商品やサービスが必要だったり愛用したりしている取引先や消費者など、会社に関わる全ての人のためにあり、会社はその人たちのものだという「ステークホルダー(利害関係者)主権」の考え方があります。
しかし、「会社は社員や顧客のもの」と「ステークホルダー(利害関係者)主権」は異質だと思います。「ステークホルダー(利害関係者)主権」では、レイオフがあるからです。ただし、この2つは同じと考えられることが多いので、日本の「会社は社員や顧客のもの」を広義のステークホルダー主権と呼ぶことにします。
年功型組織では、「会社は社員や顧客のもの」と言いながら、じつは、会社は社長のものであると考えているフシがあります。
国分 さやか氏は、2021年に「法律はさておき、日本では、これまで(広義の)ステークホルダー主権の考え方が主流でした。最近では日本の会社も ROE を重視した株主主権の考え方に変わってきています」と書いていますので、広義のステークホルダー主権が、最近まで根強かったことがわかります。
広義のステークホルダー主権は、年功型雇用と結びついて、アンシャンレジームを構成します。IT企業であれば、年収2000から5000万円払って、優秀な人材を確保すれば利益があがります。アメリカの企業ではこれをしない社長は、株主総会で首になりますので、人材確保に奔走します。
日本の企業で、優秀な人材を確保すれば、自分が追放されかねません。なので、人材確保はしません。勤めている企業が、M&Aで、外資の参加に入るとまずいので、外資は強欲資本主義というキャンペーンを張ります。
その結果、GDP比率のFDIは、北朝鮮の後の最下位になっています。
最近、政府は、小泉政権時の繰り返しで、FDIの増加を計画していますが、年功型雇用がなくならなければ無理でしょう。
「会社は社員や顧客のもの」は、強欲資本主義より良かったのでしょうか。
2022/08/08のPresident onlineで、池上 彰氏は、佐藤 優氏との対談で、次のようにいっています。
【池上】周囲が挙げて忠誠心の競い合いをしているような組織も、違う意味で心配です。そういうところでは、往々にして首脳陣の覚えはめでたいけれど、能力がイマイチの人物にポストが禅譲される結果、どこかの国の大企業のように、次々に組織が劣化して駄目になっていく。自分のいるのがそういう場所だと気づいたら、真剣に転職を考えた方がいいかもしれません。
年功型組織では、企業は利潤を上げるのではなく、「忠誠心の競い合い」をしています。池上氏のいう「能力がイマイチでない人物」は、年功型組織にいる人で、これを排除していますから、外部から優秀な人材をスカウトすることは頭にありません。
「周囲が挙げて忠誠心の競い合いをしているような組織」は、江戸時代と変わりませんので、アンシャンレジームになります。これが、強欲資本主義でない日本型経営の実態ですから、筆者は、カルトではないかと思います。
政府が、忖度を言い出した場合には、「周囲が挙げて忠誠心の競い合いをしているような組織」ですので、これも、アンシャンレジームです。政府は企業ではないので、赤字でつぶれることはありませんが、いつまで経っても問題の解決が進まなくなります。
給与は、企業であれば利益を、政府であれば、解決した問題を反映すべきです。
引用文献
対内直接投資の政治学 2017 杉之原真子
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nenpouseijigaku/68/1/68_1_36/_pdf/-char/ja
会社は誰のものか REIT 小林 慶一郎(2005年4月25日 「朝日新聞」に掲載)
https://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/debate/01.html
日本の魅力は最下位? 2020/12/14 REIT 清田 耕造
https://www.rieti.go.jp/jp/columns/s21_0008.html
会社はだれのものか 岩井克人 (2005/6/25 平凡社 )
https://www.works-i.com/works/item/w72-book.pdf
強欲資本主義 ウォール街の自爆 神谷秀樹(2008年10月20日 文芸春秋)
会社って誰のもの? 2021/01/14 国分 さやか
https://www.jsda.or.jp/gakusyu/edu/web_curriculum/images/mailmagazine/Vol.160_20210114.pdf
ステークホルダー主義の幻想、実態は株主優先 2022/02/01 The Wall Street Journal James Mackintosh
https://jp.wsj.com/articles/shareholders-reign-supreme-despite-ceo-promises-to-society-11645422313
なぜ晩年の田中角栄は「寂しい老人」だったのか…池上彰と佐藤優が考える「田中軍団」を支えていた残酷な力学 2022/08/08 President online 池上 彰 佐藤 優
https://president.jp/articles/-/60080