レジームシフトと生物多様性条約~水と生物多様性の未来(6)

(EMBと生態系復元プロジェクトにおいて、レジームシフトは基本的な課題です)

 

LevinとMo ̈llmannは、レジームシフトという概念を使って、生物多様性の変化を説明しています。

 

今回は、レジームシフトの説明を目指しましたが、挫折しましたので、簡単な説明に止めます。

 

和文で、英文にもっとも近い門脇浩明氏の説明を一部引用しレジームシフトを説明します。

 

ジームシフトとは、自然が、何らかの出来事をきっかけに突発的かつ劇的に変化することです。湖沼に住んでいた魚や水草が大量に死亡して消えてしまったり、森林の草花がシカによって食べつくされてしまったりするのが、レジームシフトです。

このレジームシフトは、人間活動によって生態系の自己修復能力が失われ、崩壊への一途を辿る現象と考えられます。

 

補足しておきます。

 

古くから、水産では、レジームシフトという単語が、突発的かつ劇的な変化に対して使われています。簡単に言えば非線形現象をさします。しかし、レジームシフトを引き起こす原因が、漁業を含む人間活動であるという視点はありません。

 

2015年以降問題になっているのは、「Using the ‘regime shift’ concept in addressing social–ecological change」であって、古いレジームシフトとは区別すべきだと思います。

 

門脇浩明氏は、次のように書いています。

「しかし、生態系の崩壊は、どこまで耐えられるのかは明確ではなく、閾値を伴う非線形な反応であるため、環境変化の追跡から崩壊を予測することが難しいのです」

 

このことから、門脇浩明氏は、崩壊の予測に関心があることがわかります。

 

しかし、英文を見ると、関心のありかは違います。

 

第1の関心事は、レジームシフトの原因である変えるべき人間活動を明らかにすることです。

EBMでは、社会システムも環境システムと同じレベルで、取り扱われます。

つまり、環境復元をするには、生態系だけでなく、社会システムも変える必要があります。これは、最近の例で言えば、エコバッグを使うような事例です。

EBMでは、自然資本にも配慮しますが、その方法は、レジームシフトを止めないといけない訳です。

 

第2の関心は、レジームシフトに向かって悪化しつつある生態系の劣化を止めることです。

 

地球温暖化では、毎年温暖化が進んでいるので、それを止めるために、ゼロエミッションを目指します。

 

生物多様性では、生態系サービスの低下を止める必要があります。

このときに、ゼロエミッションと同じように、エコバッグを使う回数を増やせばよいかというとそうはなりません。なぜなら、生態系の変化は、レジームシフトを伴うからです。

一度、レジームシフトが起こると、膨大な投資をしても容易に環境復元はしません。

これは、簡単に言えば、環境復元の基準に、レッドデータブックは使えないことを意味します。多くの場合、レッドデータブックに載る前に対策をするれば、低コストで、大きな生態系サービスを得ることができますが、その段階を過ぎれば、膨大な投資でも、環境復元はできません。典型的な例は、トキを考えればわかります。

 

ヒストリアンでレジームシフトが起こってから対策をとるとの、ビジョナリストで、レジームシフトの前に手を打つのでは、コストが大きく異なります。

 

参考文献

 

  • 生物個体数のわずかな変化から生態系崩壊の兆しを予測、理論を提案 2017 門脇浩明

https://academist-cf.com/journal/?p=6675

 

  • Levin PS, Mo ̈llmann C. 2015 Marine ecosystem regime shifts: challenges and opportunities for ecosystem-based management. Phil. Trans. R. Soc. B 370: 20130275

https://www.researchgate.net/profile/Christian-Moellmann/publication/312390731_Marine_ecosystem_regime_shifts_challenges_and_opportunities_for_ecosystem-based_management/links/59856804aca27266ad9b9d31/Marine-ecosystem-regime-shifts-challenges-and-opportunities-for-ecosystem-based-management.pdf?origin=publication_detail

 

  • Christian Möllmann, Carl Folke, Martin Edwards and Alessandra Conversi:Marine regime shifts around the globe: theory, drivers and impacts,Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci. 2015 Jan 5; 370(1659): 20130260. 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4247398/

 

  • Social-ecological systems contain various tipping points or thresholds that can trigger large-scale reorganization SEI

https://www.stockholmresilience.org/download/18.3e9bddec1373daf16fa438/1459560363336/Insights_regimeshifts_120111-2.pdf

 

  • Rocha JC, R Biggs, G Peterson. 2014. Regime shifts: what are they and why do they matter? Regime Shifts Database, www.regimeshifts.org

https://zahachtah.github.io/ItSS/assets/images/Regime_Shifts_Intro1.pdf

 

  • Using the ‘regime shift’ concept in addressing social–ecological change 2018 Kull et. al.

https://scholar.sun.ac.za/bitstream/handle/10019.1/116868/Richardson_GeoRes_2018.pdf

 

  • regime shift

https://www.resalliance.org/regime-shifts

 

  • What is a regime shift? 

https://www.regimeshifts.org/what-is-a-regime-shift