国際労働市場と日本の大学の再編~2030年のヒストリアンとビジョナリスト

 

(日本国内における国際労働市場の拡大は、大学の再編を引き起こします)

 

前回、労働市場の再編に伴い大学が変化すると申し上げたので補足しておきます。

 

原則は、資本主義では、給与は労働市場で決まるということです。

 

1)役員報酬

 

1-1)トヨタ

 

 2022/05/23の読売新聞によれば、トヨタ役員報酬は次になっています。

 

ー----------------------



トヨタ役員報酬は、営業利益と株式の時価総額の変動率などから算出され、社外取締役らによる会議で同意を得て決められる。さらに今回から、役員ごとに成果を評価する個人別査定を社長らにも適用した。

 

トヨタ自動車が23日公表した2022年3月期の有価証券報告書によると、豊田章男社長の役員報酬は前年(4億4200万円)の約1・5倍となる6億8500万円だった。トヨタの歴代社長で最高額となった。同期の連結決算(国際会計基準)で営業利益が2兆9956億円と日本企業として最高を更新した業績などを反映した。

 

ー----------------------

 

要するに役員報酬は、営業利益と株式の時価総額の変動率などから算出された原資を、役員ごとに成果を評価する個人別査定で重みをつけて、役員で配分するルールになっています。

 

1-2)ソフトバンク

 

2022/01/28のKYODOによれば、次のようになっています。

 

ー-------------------

 

ソフトバンクグループ(SBG)は28日、副社長で最高執行責任者(COO)のマルセロ・クラウレ氏(51)が27日付で退任したと発表した。詳しい理由は明らかにしていない。高額な報酬を巡り、クラウレ氏と会社側が対立していたとの見方が出ている。

 

 クラウレ氏は、2018年に副社長に就任。佐護勝紀副社長らとともに、孫正義会長兼社長の後継者候補と目された。佐護氏も21年3月末に辞任しており、SBGの副社長はラジーブ・ミスラ氏のみとなる。

 

クラウレ氏の2021年3月期の役員報酬は17億9500万円。ロイター通信は関係者の話として、より高額な報酬を望んでいたと伝えた。

 

ー-----------

クラウレ氏の2021年3月期の役員報酬は17億9500万円でしたが、クラウレ氏は、これを安すぎると、不満でした。これは、クラウレ氏が転職すれば、より高い報酬を払う企業があることを意味します。

 

 2022/06/25のJIJI.COMは、次のように伝えています。

 

ー----------------------------

 

SBGが同日公表した2022年3月期の有価証券報告書で、クラウレ氏の退任関連費用として約45億円の支払いが確定していることが明らかになった。さらに、中南米地域に投資するファンドの業績に連動する同氏に対する長期報酬の見積額として約80億円を計上した。長期報酬は退職した役員も支払い対象となるが、今後の業績次第で増減する可能性があるという。 

 

ー-------

 

というわけで、クラウレ氏には、それなりの退職金が支払われます。

 

ウィキペディアによれば、マルセロ・クラウレ氏は、次のような経歴の持ち主です。

 

ー----  

 

1970年12月9日に、国連に勤めるボリビア人ルネ・マルセロ・クラウレの長男として赴任先のグアテマラで産まれ、幼少期はモロッコドミニカ共和国で過ごし、高校時代はボリビアのラパスで過ごす。

 

1989年に進学のために渡米し、当初はローウェル大学に進学するがベントレー大学へ転学して1993年に卒業した。学生時代に航空会社のマイレージを転売するベンチャーを立ち上げ、飛行機内でボリビアサッカー連盟副会長の知己を得ると、卒業後にラパスへ戻り、ボリビア代表チームが1994 FIFAワールドカップ出場時にビジネスマネージャーとして務めた時期がある。

 

1995年に再度渡米してボストンで業績不振の携帯電話小売店を引き継ぎ、携帯電話を車で届けるサービスで成功した。1997年9月23日にパートナーのデイブ・ピーターソンと共にマイアミでブライトスター社を立ち上げて中古携帯電話の再販で成功し、2014年8月までCEOを務める。2013年10月にソフトバンクへブライトスターを売却し、2014年8月11日からスプリント社のCEOに就任した。2018年5月にソフトバンクグループCOO、2019年2月にソフトバンクイノベーション・ファンドCEO、2019年10月にWeWork会長、それぞれに就いた。2022年1月28日にソフトバンクグループ株式会社を退社した。 

 

ー----

 

クラウレ氏は、有名ビジネススクールの卒業生でなく、ベンチャーや、携帯電話会社の建て直しで実績を積んだ人のようです。

 

日本の大学を出て、新卒一括採用で、日本企業にはいった場合には、役員になるまでに、時間がかかりすぎること、単一業種のノウハウしか蓄積できないことから、クラウレ氏のような成功をおさめることはできません。

 

つまり、スキルを磨くうえでは、日本の大学を出て、新卒一括採用で、日本企業にはいることは、トンデモないリスクになります。

 

クラウレ氏のように、英語圏の国際労働市場で、成功をおさめれば、大きな収入が期待できます。

 

日本の大学を出て、新卒一括採用で、日本企業にはいることは、日本語のローカル労働市場から抜け出せないことを意味します。その場合には、大きな収入は期待できません。

年功型賃金では、企業幹部になるまでに、企業が傾いたり、つぶれた場合には、若いときに安い賃金で働いたツケを取り返すことが出来なくなります。また、大企業では、幹部は、国際労働市場から有能な人材をスカウトするようになってきています。年功型でポストが上がるまで待つと、そのうちに、日本人の幹部ポストがなくなってしまう可能性もあります。待つことは、全く不合理な選択になります。

 

こうして若年層が逃げ出してしまえば、年功型雇用体系は維持できなくなります。

 

年功型雇用体系をもっとも厳密に維持しているのは、公務員ですが、公務員のなり手がいなくなっていることは、有能な若手が逃げ出していることを示しています。

 

現在は、公務員試験のレベルを落として、数だけうめていますが、公務員のレイオフは、企業以上に困難なので、この方法は、持続可能ではなく、時間の問題で、破綻します。問題の先送りは、ヒストリアンの好きな手法で、非正規雇用と円安でも、用いられました。

 

なお、クラウレ氏のような大企業の幹部の所得が高すぎると批判する人がいますが、基本的に、出来高払いです。米国のように、黒字の時には、多額の役員報酬をもらって、赤字になると税金をつぎ込むのは、モラルハザードだという人もいます。今後、何らかの調整が入っていく可能性はありますが、営業利益と株式の時価総額の変動率などから算出された原資の計算値が10分の1になるような極端な変動はないでしょう。ただし、幹部は、業績が悪ければ、すぐに、クビになります。

 

2)大学の再編

 

大学の再編で、考慮すべき点は、国際労働市場で、卒業する価値があるかという基準で、受験生と大学が動くだろうということです。簡単に言えば、専門の区分とその内容が、米国の大学と比べて、余り見劣りしない条件を満たせる国際水準の大学の学会とそれ以外の国内労働市場でしか通用しない水準の大学の学科に2分されます。前者は、受験生を確保でき、カリキュラムを改善すれば、存続できるでしょう。

後者の存続は困難です。後者は、大学である必要がありません。例えば、ITについていえば、某大学の某学科の卒業資格より、マイクロソフトのエキスパート資格を取得しておく方が、収入が増える可能性があります。そうなれば、授業料を払う価値のない大学と学科の入学希望者が激減します。大学教員の失業者も出るはずです。

 

労働市場の再編の影響は、最初に高等教育に伝播しますが、その後は、義務教育にまで、影響が及ぶでしょう。

 

3)選挙とデータサイエンスの時代

 

データサイエンスは、科学です。科学には、権威はありません。あるのは正しい科学的手順を踏んだか否かです。

 

もうすぐ、参議院選挙があります。選挙に臨んで、候補者は、公約を掲げています。

 

しかし、公約の多くは、科学的手順からすれば、呪術に近いと思われるものが多くあります。

 

また、候補の99%は、労働市場の再編と大量の転職者を前提としていません。

 

候補者の99%は、ヒストリアンなので、これは、致し方ない点ではありますが、溜息が出ます。

 

有権者労働市場の再編が始まっていると認識するまでは、旧態依然の利権中心の政治が続くと思われますが、残された時間は少ないでしょう。



引用文献



トヨタ豊田章男社長の報酬、1・5倍の6億8500万円…カフナー取締役は9億600万円  2022/05/23 読売新聞

https://www.yomiuri.co.jp/economy/20220623-OYT1T50223/

 

副社長の退職金45億円 孫氏の元右腕、クラウレ氏―ソフトバンクG 2022/06/25 JIJI.COM

https://www.jiji.com/jc/article?k=2022062500011&g=eco

 

SBG、クラウレ副社長が退任 高額報酬巡り対立か 2022/01/28 KYODO

https://nordot.app/859671102555488256



マルセロ・クラウレ  ウィキペディア

https://en.wikipedia.org/wiki/Marcelo_Claure