円安対策とデータサイエンス~2030年のヒストリアンとビジョナリスト

(経営や政策に、科学的方法を使えないことが、変わらない日本問題に中心にあります)

2022/06/15のダイヤモンドオンラインで、野口悠紀雄氏が、円安にもかからわず、日銀が利上げをしない理由を書いています。利上げすると国債の利子払いができないので、利上げができないそうです。

 

もっとも、これは、出口戦略のない財政政策では、身動きがとれなくなると以前から、野口氏が指摘してきたことそのままです。

 

結局、今考えられる選択肢は、インフレが進んでから、利上げをすることになりそうです。

 

2022/06/16の毎日新聞に、中島岳志氏が、「岸田首相には、哲学がない」といっています。

中島岳志氏は、東京工業大学教授で、専門は、専門は近代日本政治思想、南アジア地域研究で、著書に「親鸞と日本主義」「『リベラル保守』宣言」「保守と立憲」などがあるそうです。

毎日新聞は、中島岳志氏のアプローチを認めていると思われます。

筆者は、「岸田首相に哲学がなく」ても、経済が元気になれば、構わないと思います。

ただし、今の日本経済が元気にならない原因は、経営者や政府が、科学的方法を使わないからだと考えています。

本書のタイトルは、ヒストリアンとビジョナリストです。このビジョンには、科学の仮説が含まれます。仮説が提出されても、科学者は、だれも、仮説が正しいかわかりません。しかし、仮説はエビデンスに基づき、検証され、あるいは、修正されます。アダム・グラント氏のいう「THINK AGAIN」をエビデンスに基づいて常に行います。

この手続き、つまり、科学的方法によって、ビジョンは、ヒストリーに勝ります。

科学が、大きな成功をおさめてきた理由はここにあります。

エビデンスで検証されない仮説にこだわったり、自分だけが、正しい答えを知っているという姿勢をとれば、科学者の世界からは、追放されます。

よく、政治家や官僚は正解を知っている自分に任せておけば大丈夫だという印象を与えるような発言をしがちです。

たとえば、2022/06/15の岸田内閣総理大臣記者会見は、「自分にまかせておけば、大丈夫だ。自分は、経済を活性化する方法を知っている。それを行っている」という印象を与えようとしているように見えます。

岸田氏に限らず、歴代の内閣総理大臣はこうしたタイプの会見がお好みです。しかし、30年たっても、経済がよくなりません。岸田氏は例外かもしれませんが、歴代の総理大臣は、本当は、経済を活性化する方法を知らなかったのに、知っているふりをしていた可能性が高いです。

ここでの問題は、歴代の総理大臣が、経済を活性化する方法を知らなかったことではありません。

正解はだれも知らないのです。ですから、「ビジョン(仮説)をたてて、エビデンスを見ながら、ビジョンを修正していきますという発言」が、科学的に正しい発言です。

自然科学の世界で、誰かが、自分は実験をしなくとも、正しい問題解決方法を知っていると発言すれば、その人は、宗教家か、オカルトだと判断されて、誰も口を聞いてくれなくなります。

さて、円安問題は、日銀が行った経済政策です。筆者は、経済学の専門家ではありませんので、日銀の政策の良し悪しの判断はできません。しかし、日銀の政策が、データをとって、エビデンスに基づいて、「THINK AGAIN」する科学的方法に従っていないことはわかります。筆者にとっては、科学的方法に従っていないことだけで、日銀の政策に期待は持てないと考える理由になります。

科学的方法によらない弊害は次の2つです。

(1)解決方法(ビジョン)の見直しと変更が行われない。

(2)間違った解決方法が選択される。

変わらない日本の原因は、科学的方法の欠如にあると考えます。

しかし、1990年までは、日本はヒストリアンの手法をとってきて成長できたのに、なぜ、科学的な方法が必要なのかと、疑問を持たれるかもしれません。

その疑問の解答は、次の2点です。

(1)知識の変化が加速しています。

「THINK AGAIN」(日本語版、p.36)によれば、医療の知識は、1900年から1950年の50年で倍増しましたが、1980年までには、7年のペースで、2010年までには、3.5年のペースで倍増しています。IT関係では、知識の半減期は7年と言われて来ましたが、3.5年は、これに対応します。更に、AI関係では、1年で、知識の半分が使えなくなるとも言われています。IT関係では、先を読んで、先手を打たないと生き残れません。5Gが普及する前に、5Gを前提としたビジネスを立ち上げるような方法です。

ヒストリアンと知識を更新していない年寄りには、問題解決法を提案できません。

(2)2000年頃から、データサイエンスの進歩が本格化しました。

データサイエンスが実用化するまでは、物理学以外では、サイエンスの方法は、あまり有効ではありませんでした。データサイエンスによって、現在では、科学的方法が、どの分野でも、データがあれば適用できます。

この点では、DXは、電信(電報)が、電話に替わった変化とは違います。ガラケーが、スマホに、変わった変化も、DXとデータサイエンスがなければ、ここまで、圧倒的な違いにならなかったと思われます。

 

引用文献

 

岸田内閣総理大臣記者会見 2022/06/15

https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2022/0615kaiken.html

 

円安135円まで急加速、円安・物価上昇でも日銀が利上げしない「国民軽視」の理由 2022/06/15 ダイヤモンドオンライン 野口悠紀雄

https://diamond.jp/articles/-/304853

 

哲学のない岸田首相 「聞く力」とは言えない 2022/06/16 毎日新聞 中島岳志

https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20220615/pol/00m/010/014000c?inb=ys