ポストクラウドのISO戦争とリープフロッグ~2030年のヒストリアンとビジョナリスト

(DXのポイントは、共通モジュール化とISOです。個別分野のDXが生き残ることはありません)

 

1)最近の傾向

 

最近では、マイナンバーカードの利用を拡大するとか、一部の裁判をネットでできるようにするといった今まで、文書やハンコを使っていた手順を電子化する動きが進んでいます。

 

マスコミは、電子化が進むことはよいことだという判断で、全般に好意的な記事が多くなっています。

 

しかし、そこには、ロードマップとビジョンがありませんので、筆者は、こうした活動を評価しません。

 

評価しない理由は、ロードマップのないDXは、やりなおしになり、最悪のシナリオでは、みずほ銀行のシステムのように、維持管理不能になるからです。

 

システムのデータの流れは、大まかに言えば次のようになります。

 

窓口での健康保険の確認ー->中継点(病院)ー->健康保険データベース

 

末端センサーー>中継点(病院)ー->医療データベース

 

上は、マイナンバーカードを保険証代わりにつかった場合で、下は、カルテデータです。

健康保険の点数も同じ情報の流れになります。

 

このような場合には、モジュールの共用化が可能です。

 

共用できるモジュールは、右側が決めます。

 

つまり、システム設計は、左から右ではなく、右から左に行うことができます。

 

最初からすべての場合を考慮して、システム設計を行うことは、困難なうえに、時間がかかってしまいます。

 

そこで、取り敢えず特殊なシステムを作っておいて、後で一般化する方法が考えられます。

 

この手法は、古くからあったアイデアですが、オブジェクト指向プログラミング言語が出てくるまで、実装は困難でした。

 

オブジェクト指向プログラミング言語は1990年頃から提案されて、試作されましたが、最初は、速度が遅く、学習用には使えても、実用にはなりませんでした。

 

2000年頃、コンピュータの性能があがり、オブジェクト指向のプログラム言語が実用化します。

 

こうなれば、新規にシステムを構築するより、既に、類似のシステムを持っている方が有利です。

 

さて、そこで、クイズです。

 

マイナンバーカードのシステムが、今後、汎用化したイメージを考えてみてください。

 

つぎに、このイメージにもっとも近い現在あるシステムの例をあげてみてください。

 

これは、ビジョンをつくる練習です。

 

病院で電子カルテを作るシステムを販売している会社があります。

 

アップルはiウォッチを売っています。

 

恐らく、マイナンバーカードの健康保険証、電子カルテシステム、アップルウォッチの健康管理システムは、あるところまでDXが進むと、融合してしまうと思われます。患者が3種類のシステムを使い分けるのは、馬鹿げています。

 

例えば、アップルウォッチの健康管理システムが、健康保険証とリンクしていれば、アップルウォッチをつけたまま病院に入れば、健康保険証のチェックは終わってしまいます。

 

病院では、患者のとり間違えをしないように、名前を呼んで確認しています。これも、アップルウォッチを使うか、網膜認証を使えば済んでしまいます。

 

つまり、答えは、融合したシステムで、現在はありませんが、一番のりに最短の位置につけているのが、アップルウォッチだと思われます。

 

現在、無理をして、すこしだけDXにトンデモない税金を投入していますが、そのシステムは、5年もたたないうちに、ガラゲーと同じ運命をたどる可能性が高いです。

 

2)ISO競争

 

このように、システムの融合が起こる場合や、システムの世代交代が起こる場合には、古いシステムをスキップして、新しいシステムに移行することが可能です。

 

いわゆるリープフロッグです。

 

4Gが、5Gに交代するのは、その例です。このように、数字で規格が明確になっている場合もありますが、そうえない場合もあります。

 

マイナンバーカードとアップルウォッチを比べてみれば、どちらが、古い世代の技術であるかは、言うまでもありません。

 

マイナンバーカードに技術投資するのは、スマホ普及している世界で、ガラゲーに技術投資をしているようなものに見えます。

 

健康保険証、電子カルテ、アップルウォッチなどの健康端末の融合を図る(健康融合システム)ためには、規格の統一が欠かせません。基本は、ISO、IEEEなどになります。

 

ISOの規格は、民間で決めるもので、政府が関与するものではありません。

 

デファクトスタンダードをもっている企業が有利になりますが、規格を公開した時点で、追い上げのスピードが加速します。

 

4Gの時には、日本企業が特許を持っていて、参画した規格もかなりありましたが、5Gでは、ほぼ全滅になりました。

 

健康融合システムについても、5Gと同じようなレベルの規格が出てくるのは、時間の問題です。

 

このとき、恐ろしいのは、法律が、健康融合システムを阻害することです。

 

自動運転車については、米国では、人間が同乗していれば、基本は、自動運転ができます。

 

テスラやGoogleは、膨大な運転データを既に収集しています。

 

日本のメーカーは、データを少ししか持っていませんので、勝負になりません。

 

米国のデジタル資本主義の利益の源泉は、データです。

 

例えば、健康融合システムを作るには、データが必要です。

 

日本では、データがありません(法律で紙媒体を要求しているなど問題が多い)ので、他の国に先行して、健康融合システムを作ることはできません。

 

まとめます。

 

新しい資本主義を含めて、現在の政策には、どうして他の国に先行して、DXシステムを構築するのか、リープフロッグを起こすのかというビジョンがみえません。遅れているから、税金を投入するのはまったく無駄です。

 

法律などの遅れている原因を取り除く必要があります。



3)データが全て

 

問題を解決するには、PDCAなど、エビデンスを測定して、問題点を改善していく、ループが必要です。

 

医学の世界では、冲中 重雄教授が、1963年東京大学退官時の最終講義で、臨床診断と病理解剖の結果を比較し、自身の教授在任中の誤診率を「14.2%」と発表したことが知られています。

 

このことが引用されるのは、1963年には、情報公開が進んでいなかったからです。

 

現在は、ガンについては、主な病院の5年間生存率、手術数などのデータが公開されています。

 

公的機関のPDCAとはこのようなものです。

 

同じことを政治に当てはめれば、各政策、各事業について、目標、達成度、問題点、問題点の改善などのデータの公開ができるはずです。

 

最初から、全ての政策、事業は難しいかも知れませんが、取り敢えず手を付けて、少しずつ数を増やすことは可能です。

 

科学的に、政策を進め、問題を解決するためには、データを公開すること、不足するデータを計測することが、全ての基本になります。




終戦直後の1945年(昭和20年)11月9日、政府は閣議で「緊急開拓事業実施要領」を決定しています。要するに、食べ物がなくて、飢え死にしそうだったのです。本当は、農地に適した土地がどれだけあって、優先順位をつけて、どこから開拓するのかをきめるべきだったのですが、データはありませんので、霞が関のテーブルの上だけで、適当に計画を作りました。その結果、生活できない開拓集落が相次ぐことになります。

 

その後も、1960年代は、まだ、発展途上国でした。資金がなにより、不足していましたし、道路や、鉄道などの社会資本も不足していました。

 

黒部ダムは、1956年(昭和31年)に着工し、171人の殉職者を出し7年の歳月をかけて、1961年1月に送電を開始し、1963年(昭和38年)に完成しています。

 

ダムができるまでは、関西電力では、停電が頻発していました。

 

しかし、1980年代になって、日本は、先進国になります。余裕ができたので、科学的に、政策を進め、問題を解決することができたはずでした。

 

でも、科学的に、政策を進めなかったので、問題を解決できず、失われた30年になりました。

 

もう一度、そのことを冷静に振り返る必要があります。