エコシステムの理論~2030年のヒストリアンとビジョナリスト

(エコシスステムの最大の課題は、エコシステムの入れ替え問題です)

 

エコシステムについて、もう少し検討します。

 

1)家電製品のエコシステム

 

1990年には、自動車と並んで、日本の家電製品メーカーは世界的なシェアを得ていました。

 

30年たった2020年には、日本の家電製品メーカーで、国際的競争力のあるところはありません。

 

ソニーの業績は良いですが、これは、ゲームなどのソフトウエアと画像センサーの業績に支えられています。スマホ、テレビといったコンシューマー・プロダクトでは、全く競争力がありません。

 

1990年には、秋葉原は、家電のメッカでした。何かを試作したいときに、秋葉原にいけば、必要部品を直ぐに調達して、家電の試作品をつくることができます。秋葉原は、日本の家電のエコシステムの一部でした。

 

2020年に、かつての秋葉原と同じ位置を占めているのは、中国の深圳です。深圳では、多様な家電製品の部品を安価に入手して、試作品をつくることができます。深圳は、中国の家電のエコシステムの一部になっています。



日本の100円ショップで販売している家電製品の中国での価格は、ネットで調べることができます。その価格は、大抵は30円以下で、20円を切ることもあります。

 

ここまで、エコシステムが異なると、個人や単独の企業努力でできることは限られます。

 

シリコンバレーも、地価が高騰していますが、多くのIT企業が、オフィスをおいているのは、エコシステムが形成されているためと思われます。

 

エコシステムは、補助金などの企業に対する政策誘導では形成されません。

 

深圳は経済特区でしたので、エコシステムの形成に、経済特区は効果があると思われます。

 

2)エコシステムと生物多様性

 

エコシステムは、生態学の概念のアナロジーです。

 

これを単なるアナロジーと限定して考えるか、生態学のエコシステムとビジネスのエコシステムには、アナロジーを超えた共通の性質があると考えるかは、意見が分かれます。

 

後者は、花壇の種をまくと植物が育って、昆虫や、鳥が飛んでくるような状態がエコシステムです。時間と共に、エコシステムは遷移します。風で種が飛んできて、雑草が生えることもあります。システムの全ては制御できません。

 

日比谷公園の花壇のように、植物はバックヤードで育てて、花が開いたら、アレンジすれば、全てを制御できますが、これはエコシステムではありません。日比谷公園の花壇では、人間が介入して常に植え替えが必要になります。ここでは、継続的に公的資金が投入されることでシステムが維持されています。資金の投入がなくなると花(成果)を楽しむことができなくなります。

 

後者の立場に立てば、エコシステムの安定性と多様性は、切り離せません。

 

多様性を受け入れないエコシステムは、持続可能ではありません。

 

エコシステムが持続するにつれて、多様性は増加し、エントロピーが増加します。

 

これは、単なるアナロジーにすぎないかもしれませんが、創造的な企業では、人材の多様性の確保に心がけていますので、筆者は、アナロジーにすぎないとは言えないと感じています。

 

3)エコシステムの切り替え問題

 

変わらない日本を後にして、変わった日本を想像します。

 

経済が発展して、賃金が上がっている世界を想像します。

 

これは、「変わらない日本のエコシステム」から、「変わった日本のエコシステム」への切り替えです。

 

これは、「プレ・デジタル・シフトのエコシステム」から、「ポスト・デジタル・シフトのエコシステム」への切り替え問題である可能性が高いです。

 

その時、変わる要素は、複数あります。

 

エコシステムは、複数の要素の集合体が相互依存して成立しています。

 

「変わらない日本」問題は、複数のサブシステムが相互作用をするエコシステムとして、モデル化して理解する必要があります。

 

エコシステムが入れ替わるパラダイム・シフトが起こる場合、古いエコシステムに属している個別の専門家の知識は、ほとんど役にたちませんので、注意が必要です。

 

エコシステムの最大の課題は、エコシステムの入れ替えが可能かということです。

 

問題の難易度は、エコシステムのサイズに依存します。

 

家電のエコシステムでも入れ替えは難しいです。

 

プレ・デジタル・シフトとポスト・デジタル・シフトのエコシステムは、サイズが巨大なので、入れ替えは不可能に感じられます。



4)中国で起こったこと

 

家電のエコシステムのゲームチャンジャ―は中国でした。

 

深圳は経済特区で始まりました。しかし、経済特区をエコシステムとして見ると、違った世界が見えて来ます。

 

日本でも経済特区を作る試みが行われています。日本の経済特区は、中国と同じように成功するでしょうか。

 

筆者には、中国の経済特区と日本の経済特区は、別物に見えます。

 

中国は、社会主義経済でした。経済特区は、社会主義のエコシステムとは別に、特区の中に、資本主義のエコシステムを構築する試みでした。恐らく、経済特区を作る時には、社会主義経済に、部分的に資本主義のシステムを取り込むことは考えていなかったと思います。特区の中に、資本主義のエコシステムを育てることが目標だったと考えます。

 

資本主義のエコシステムを深圳に持ち込むときに、モデルとなったのは香港です。深圳は、香港に追いつき、そして現在は経済規模で、香港を追い越しています。

 

中国は、社会主義の中でも、特区には、資本主義のエコシステムを構築しつつあると信頼されたことが、外資が中国に投資できた理由です。そして、最近では、その信頼が揺らぎつつあります。

 

日本で経済特区を作った場合に、独自の経済のエコシステムを作ることは難しいのではないでしょうか。

 

たとえば、現在日本の各地でも建設が進められているスマートシティのひとつに、ウーブン・シティがあります。ウーブン・シティの周囲は、深圳のように社会主義ではありません。理想的には、ウーブン・シティの中は、ポスト・デジタル・シフトのエコシステムが成り立ち、ウーブン・シティの外は、プレ・デジタル・シフトのエコシステムが成り立てば良いのですが、相互作用が大きすぎる気がします。

 

中国と異なり、ソ連崩壊後のロシアは、社会主義はやめて、全ての経済のエコシステムを資本主義に切り替えようとして、失敗しています。

 

経済特区が、独立した経済のエコシステムを形成できなければ、経済特区は、免税措置などの単なる優遇政策に終わってしまうように思われます。

 

深圳の例を考えれば、特区をつかって、エコシステムの部分的な改善を目指すことはすすめられません。特区の中では、プレ・デジタル・シフトのエコシステムは禁止する位のエコシステムに対する働きかけが必要だと思います。