エコシステムの概念~2030年のヒストリアンとビジョナリスト

(エコシステムの交替の概念を振り返ります)

 

1)1776年7月4日のフィラデルフィア

 

1776年7月4日のフィラデルフィアは、アメリカ合衆国の独立宣言の日です。

 

このころ、北アメリカ大陸には、欧州の科学技術と社会システムが導入されました。

 

1764年には、ハーグリーブズのジェニー紡績機が誕生していますので、この時期は、産業革命の黎明期と重なります。

 

それまで、アメリカには、ネイティブ・アメリカンが住んでいて、独自のエコシステム(NAエコシステム)を構築して生活していました。

 

メイフラワー号に始まるヨーロッパ移民は、全く異なったエコシステム(EPエコシステム)を作って生活を始めます。

 

移民当初は、EPエコシステムは、北アメリカの自然に適応していないので、飢餓が発生します。この時点では、NAエコシステムが、EPエコシステムより、生産性が高かったのです。

 

その後、2つのエコシステムは、土地を巡って、争奪を始めます。西部劇の世界です。

 

そして、最終的には、EPエコシステムが、NAエコシステムを淘汰します。

 

西部劇で展開される争奪の過程は、一方的な契約破棄の繰り返しであり、倫理的にも多くの問題を抱えています。この点をひとまず、わきにおいて、生産性から見れば、技術革新によって、EPエコシステムが、NAエコシステムを上回っていたといえます。

 

NAエコシステムも技術革新を行っています。

 

西部劇に出てくるネイティブ・アメリカンは、馬に乗って、ライフル銃を持っていますが、これは、ヨーロッパの技術を導入したものです。西部劇に見られるように、この2つは、大きな軍事的効果がありました。しかし、ネイティブ・アメリカンは、銃を作ることはできませんでした。また、経済規模の違いが、軍事力の差になりました。

 

2)エコシステムの世界観

 

歴史を技術革新で整理する世界観があります。

 

(1)狩猟

(2)農業革命

(3)工業革命(産業革命

(4)情報革命

 

技術革命は、技術システムの入れ替えと考えることもできます。

 

エコシステムは、生態学の概念です。これは、複数の生物などの要素が相互依存で、一つの系を構成している場合を指します。エコシステムAとエコシステムBがあった場合、エコシステムAでは、繁栄する生物種が、エコシステムBでは絶滅することもあります。

 

自動車は、工業革命の製品ですが、部品の点数が多く、全てを内製できません。また、自動車を利用するには、ドライバー、ガソリンスタンド、自動車用道路、修理工場といった複数の要素が相互に依存していますので、自動車エコシスエムとみなすことができます。

 

自動車が、EVに入れ替わると、EVのエコシステムが形成されます。ガソリンスタンドは、なくなり、ドライバーの大部分が自動運転に置き換わっているでしょう。

 

生物種の繁栄が、エコシステムによって異なるように、ビジネスの繁栄もエコシステムによって異なります。たとえば、EVが売れるか、自動運転が売れるかといった課題はエコシステムによります。ビジネスのエコシステムも、生態系のエコシステムと同じように、遷移しています。全く同じものを売り出しても、エコシステムの遷移の状態によって、売れる場合と売れない場合が分かれます。言い換えれば、もっとも、成功が期待できる売り出しタイミングは、一度しかありません。(注1)

 

ヒストリアンは、過去の成功体験をコピーして繰り返し利用しようとします。これは、エコシステムが、定常で、遷移がない場合のみ有効な戦略です。遷移が発生して、その変化速度が加速度的に大きくなっている場合には、ヒストリアンは、ほぼ100%失敗します。ビジョナリストの成功率も、10%程度以下と思われますが、それでも、ヒストリアンよりはましです。

 

3)2タイプのエコシステム

 

自動車やEVのエコシステムは、技術革新のエコシステムです。

 

自動車のエコシステムは、工業革命の時代のエコシステムである、EVのエコシステムは、情報革命の時代のエコシステムです。

 

情報革命になってから、技術変化の速度が加速化しているため、情報革命は、更に細分化する場合もあります。

 

一方のEPエコシステムとNAエコシステムは、社会システムのエコシステムです。

 

技術革新のエコシステムと社会システムのエコシステムは交差しています。



例えば、情報革命の時代には、技術のエコシステムは、農業、工業、情報の3つのレベルがあります。農業も工業のエコシステムに取り込まれ、機械化が進んでいますが、工業のように、天候の影響を受けないレベルのエコシステムが構築されているわけではありません。

 

この状況を、社会システムのエコシステムから見れば、分業化が進んでいますので、労働者の単位でみれば、農業、工業、情報の3つのどれかの分野で働いています。

 

通常は、この2種類のエコシステムは交差しています。そして、農業、工業、情報の産業間の労働者移動によって、大きな摩擦が避けられています。

 

EPエコシステムとNAエコシステムの場合には、労働者移動がありませんでした。また、「NAエコシステム=狩猟エコシステム」、「EPエコシステム=農業エコシステム」と交差が少ない状態でした。このようにエコシステムが固定化されると、エコシステムの間の淘汰が起こってしまいます。

 

4)まとめ

 

ここでは、強引に結論を出すつもりはありません。

 

リマークは、次の2点です。

(1)エコシステムが形成されている場合には、要素間の相互作用がありますので、一つの要素だけを取り出して議論ができません。特定の技術を単独では考えられません。

 

(2)エコシステムの交替においては、労働者移動が、重要な要素になります。労働者移動が出来ない場合には、エコシステムの交替がスムーズにいきません。ウクライナ紛争で、ウクライナ人とロシア人の高度人材が国外へ流出しています。イスラエルは、こうした人材の取り入れに熱心に対応しています。日本の状況を見ると、労働者移動には疑問符がつきます。(注2)



注1、注2:

高度人材に国内に来て働いてもらうという戦略があります。「エコシステムの遷移の状態」から考えれば、ウクライナ紛争という遷移状態が、高度人材の国外流出を招いています。つまり、チャンスは数少ないです。今回は、日本は、高度人材の労働者移動に失敗しています。