1・26 垂直統合と水平分業2030年のヒストリアンとビジョナリスト(新26)

垂直統合と水平分業の間には、国際分業の問題がある)

 

垂直統合と水平分業という言葉は、調べてみると、時代によって、異なったニュアンスで使われています。ここでは、混乱を避けるために、最初に、定義を示します。

 

垂直統合は「製品の開発から生産、販売にいたるプロセスをすべて一社で統合したビジネスモデル」です。

 

水平分業は「製品の核となる部分の開発・販売は自社で行い、それ以外の開発・製造・販売を外部委託するビジネスモデル」です。

 

1)企業の経営判断

 

1980年以降、安くて豊富な労働力を持つアジアの発展途上国に、先進国の大企業が次々と工場を移転しましたが、海外の向上が自社工場であれば、これは、垂直統合です。

 

アップルのiPhoneは、水平分業の成功例と言われます。



垂直統合と水平分業は、ビジネスモデルの違いとして、比較される場合が多いです。

 

そして多くの場合、トヨタのような日本の企業には、垂直統合が多いが、アップルのようなアメリカの企業には、水平分業が多いといったような説明がなされます。

 

ここで問題は、「日本の企業」と「アメリカの企業」という表現です。

 

1980年代まで、発展途上国が原材料を輸出し、先進国がその原材料を元に工業製品をつくって輸出する「垂直分業」が行われ、付加価値の高い工業製品を輸出する先進国が多くの利益を得ていました。つまり、工業製品のモノづくりができる国が、先進国でした。

 

1990年代に、工場は海外の発展途上国、特に、中国に移転し、モノづくりは、国内からなくなりました。工業製品は付加価値が高くなくなり、相対的に高価な工業製品を作っていた日本企業は淘汰されます。つまり、日本国内には、主な製造業はなくなります。Made in

Japanでも部品を全て国内生産している場合はなくなります。

 

垂直統合には、自社の海外工場で作られた海外生産の部品が含まれるようになります。

 

ここで、「自社の海外工場」が、「他社の海外工場」に入れ替わると、水平分業になります。

海外工場の移転している生産ラインは、特殊なノウハウが必要なものではありません。そのような特殊な製造法が必要なことがなければ、「自社の海外工場」と「他社の海外工場」の間に大きな差はありません。

 

こうなると、製品の国籍に、各段の意味はありません。海外工場の利用が始まった当初は、海外工場の製品管理がずさんで、問題が発生したこともありますが、現在では、品質管理が行き届いています。iPhoneは部品が、中国製か、台湾製でも、品質に問題はありません。

 

さて、「垂直分業」が始まった時には、先進国は、「付加価値の高い工業製品」を作っていましたので、発展途上国より高い賃金を支払うことができました。つまり、「高い付加価値」を付与できるか否かが先進国を続けられるか否かのポイントになります。

 

コロナウィルス前には、インバウンドで海外からの観光客が増えていました。それには、円安の効果がありました。しかし、円安で増えるレベルの観光客が落とすお金は、特に高い訳ではありません。ですから、インバウンドが増えても、日本人の賃金はあがりません。買い物で落とすお金は、検討対象外ですが、インバウンドが、増え始めたころは、大きな金額でしたが、一段落した後では、減ってしまいました。「高い付加価値」に対するビジョンがないと、オーバーツーリズムで、観光地が疲弊するだけで、賃上げになる経済効果は期待できません。

 

さて、アップルは、iPhoneの製造において、水平分業を達成した訳ですが、だからと言って、水平分業を目指して、ビジネスモデルを構築した訳ではないと思います。

 

水平分業を行うには、分業のできるレベルの企業や工場が海外にあることが前提です。2000年代に入って、中国では、企業や工場のクラスターが形成されました。つまり、国際分業の受け入れ先が出来たわけです。

 

リカードは国際貿易において、比較優位の法則が成立するといいます。

 

国際分業の受け入れ先が出来きれば、比較優位の法則を使って分業することが、生産性をあげる基本です。競合する企業もありますから、国際分業しなければ、企業は傾いてしまいます。ですから、アップルは、iPhoneで国際分業をしたのだと考えます。

 

日本企業は、工場を海外に移転しましたが、「自社の海外工場」にこだわり、「他社の海外工場」を使わなかったわけです。しかし、「自社の海外工場」か、「他社の海外工場」かは、価格と品質のバランスで決まるだけの話です。フォックスコンの工場のような大規模工場になれば、「自社の海外工場」では価格的に太刀打ちできないことは明白です。

 

こう考えると、問題は、垂直統合か、水平分業かではなく、どうして日本の企業には経済合理性に基づいた経営判断ができなかったのかという点にあると考えられます。経済合理性に基づかない経営判断をすれば、競合企業に比べて、競争力がなくなるので、企業は傾きます。それは、必然の結果です。

 

以上、企業について考えました。

 

2)個人の働き方

 

2022/03/25のNewsweekで、加谷珪一氏は、日本の「賃金停滞」をわかりやすいグラフで整理しています。

 

そこには、2000年から2020年の各国の平均賃金(年収)の推移がグラフ化されています。

グラフには、アメリカ、ドイツ、フランス、スウェーデン、韓国、日本の平均賃金がプロットされています。この中で、20年間平均賃金が上がらなかったのは、日本だけです。

経済合理性に従って、経営内容を見直していけば、毎年労働生産性は、必ず上がります。

 

このことから、日本は、経済合理性に従った経営判断が出来なかったことがわかります。

 

日本と韓国は、地理的に離れているので、ひとまず、除外して考えます。

 

賃金が一番高いのはアメリカですが、アメリカ、ドイツ、フランス、スウェーデンの間では、労働者の移動があります。アメリカの賃金は、一番高いので、アメリカは、年収の高いポストを一番多く提供していると思われます。アメリカ以外に住んでいた高度人材で、アメリカに移住した人も多いと思われます。最近では、テレワークも増えましたので、必ずしも移住しなくとも、高い年収を得る機会もあると思われます。

 

つまり言いたいことは、労働者も経済合理性に従って、企業を移動する、場合によっては、国をまたいで企業を移動するという現実です。

 

読者が、日本にいる高校生であれば、アメリカの大学を卒業して、アメリカの企業で働く選択も可能です。

 

読者が、日本にいる大学生であれば、Kaggle等で評価が得られれば、アメリカの企業で働く選択も可能です。

 

日本の賃金は安いので、高度人材が、海外から来ることは稀です。最近では、日本から中国に出稼ぎにいくアニメーターもいると言われています。

 

日本でも、ジョブマーケットに参入する人は、次第に、増えてきています。

 

3)まとめ

 

まとめると、日本の「賃金停滞」には、2つの原因が考えられます。

 

(1)企業の経営に経済合理性が欠けているため、労働生産性が上がらない。

(2)個人の働き方に、経済合理性が欠けているため、賃金の高いポストに移動しない。



もちろん、日本だけの年功型雇用という経済合理性に反する慣習は、この2つを阻害する要因になっています。

 

そして、ヒストリアンは、エビデンスにもとづく根拠なし慣習の継続を主張します。

 

それが、以下に、悲惨な結果をもたらすかは、「日本『賃金停滞』の根深い原因をはっきり示す4つのグラフ」に現れています。



日本「賃金停滞」の根深い原因をはっきり示す4つのグラフ 2022/03/25 Newsweek 加谷珪一

https://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2022/03/4-166.php