1.25 変わった日本~2030年のヒストリアンとビジョナリスト(新25)

 

(「変わらない日本」の裏側は「変わった日本」です。何が、変わったか検討します)

 

「変わらない日本」は、比較対象を国内だけにとった場合の理解です。

 

例えば、次の例は、既にあげてあります。

 

2020年の日本の一人当たりGDPは、4万ドルで、24位です。

2010年の日本の一人当たりGDPは、4万5千ドルで、18位です。

 

日本以外の世界がかわって、日本が変わらなければ、相対的に、日本の地位は変化します。

 

第1章では、ビジョンの欠如が「変わらない日本」の本質であること、年功型雇用が、変化を阻害して、生産性の向上を阻んで、日本人の給与が上がらない原因であると論じてきました。

成果主義が取り入れられていますので、年功型雇用を、今後も続けることは難しいと考えている組織が多いと思います。

 

1)融和策の課題

 

しかし、現実には、未だ、年功型雇用を採用している企業が多くあります。こうした企業の幹部は、年功型雇用のルールで高い給与をもらっています。

もしも、明日から成果主義と言われれば、幹部の中には、給与が10倍になる人も、10分の1になる人も出て来るでしょう。それは、耐えられないというので、幹部は、年功型雇用を温存しながら、ジョブ型雇用に移行したいと考えているのでしょう。

 

年功型雇用は、働いた分に比例して給与を払うという成果主義からみれば、無法のルールです。努力しても、給与に反映されず、歳をとれば、給与が上がるというルールを採択すれば、努力すれば、給与が上がるわけではないので、努力する人はいなくなり、生産性の向上が止まります。ですから、年功型雇用は無法のルールです。

 

しかし、現在、多くの企業では、年功型雇用が行われていますので、このルールと融和を図りながら、ジョブ型雇用に移行する計画をたてています。

 

融和策は有効でしょうか。

 

ウクライナ危機の前に、EU、特にドイツは、独裁体制で、人権問題を抱えているロシアから、天然ガスと石油を輸入していましたが、これは、人権問題を無視して、当面の利益を優先するロシアとの融和政策でした。人権問題はあるが、ある程度までは、許容して、経済的な利益を優先する政策です。

 

ウクライナ危機は、人権問題が、ある程度までにおさまるという淡い期待を、打ち砕きました。

 

2022/03/24のNewsweekで、コリン・ジョイス氏は、ここ20年ほどのプーチンのロシアに対する各国の融和政策は、ネビル・チェンバレン元英首相と、彼のヒトラーに対する「宥和政策」の焼き直しになっていると指摘します。

 

日本には、ロシアなどの人権問題を抱える国と取引をしたり、店舗や工場を所有している企業もあります。こうした企業でも、今までは、ロシアとの融和政策が採用されてきました。

 

一方、日本には、年功型雇用というモンスターに対しても、同じような融和政策をとっている企業が多くあります。

 

こうした企業が、雇用問題もおいても、融和策をとっていることは、同じような意思決定メカニズムが機能しているためと思われます。



2)富士通の事例

 

2022/03/24の日経新聞の「富士通、9割ジョブ型に」の記事に従って、富士通のジョブ型雇用対策をまとめると以下になります。

 

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富士通は2022年4月をめどに「ジョブ型雇用」を国内外のグループ企業の11万人で導入します。

 

2022年3月には、50歳以上の幹部社員の3031人が早期退職します。

 

富士通は社員毎に異なる詳細な職務内容については、今後作成します。

 

新卒で入社する社員は、大学院を除き、一定期間は一律で処遇する方針です。

 

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ジョブコンサルタント城繁幸氏は、1997年に富士通に入社し、人事部に勤務し、成果主義を導入した新人事制度導入直後から運営に携わっています。2004年に退社し、富士通が行った成果主義の問題点や日本型成果主義の矛盾点を自著で主張しています。

 

これから、富士通成果主義改革は、25年以上続いて、未だに出口に達していないことがわかります。あるいは、「9割ジョブ型」ですから、あと1割で、出口に達するのでしょう。

 

しかし、「幹部社員の3031人が早期退職」をみれば、ソフトランディングに失敗していると思われます。あるいは、ジョブマーケットには、「早期退職」という単語はありませんので、この表記は、依然として、年功型雇用の視点で、記述されていることがわかります。

 

また、シリコンバレーで多用されているOODAループ(1.21参照)の視点では、25年もかかっていれば、100%撃ち落とされていると判断するでしょう。

 

富士通は、ジョブ雇用問題に融和策をとった事例と考えられます。

 

富士通のジョブ型雇用改革には、ビジョンがありません。

 

「詳細な職務内容については、今後作成」はとりあえず、ジョブ型に移すだけです。

 

「新卒で入社する社員は、大学院を除き、一定期間は一律で処遇」も、同様です。

 

1.10では、ジョブ型雇用は、サッカーのチームのようなものだと申し上げました。

 

サッカーチームは、1部リーグでトップを争っているチーム以外は、問題にされません。

 

2部リーグ以下のより弱いチームもありますが、ほとんど表にはでません。

 

サービス経済でジョブ型雇用をすることは、1部リーグでトップを争っているチームを作り上げるような問題です。

 

書かれていないだけかもしれませんが、富士通の改革には、ドリームチームをつくるビジョンが見当たりません。

 

ここに、ヒストリアンのディストレーニング(1.8参照)が作用していないことを願っています。

 

3)日本型空洞化

 

ジョブ型雇用は、サッカーチームに似ていると言いましたが、サッカーのJリーグが始まってから、多くの外国人の監督が就任しています。

 

最近では、大企業のCEOや幹部を務める外国人も増えています。

 

外国人のCEOや幹部は、新卒一括採用で就職した訳ではありませんから、年功型雇用をとっている企業でも、幹部については、ジョブ型を採用している企業が増えていることがわかります。

 

企業の役員をみれば、日本は変わっています。

 

大企業で、株式の多くを海外のファンドが所有する場合には、日本企業を特別扱いするわけでないので、世界標準のジョブ型雇用のルールが適用されます。

 

これは、当然なのですが、問題は、このルールでは、日本の大学を卒業して、新卒一括採用された人材は、誰も、幹部になれない可能性が高いことです。

 

マスコミは、旧帝大、特に、東京大学への入学を、将来の幹部候補生になり、高い給与を期待できるルートであるとみなした記事を書いています。

 

しかし、大企業の幹部になりたいのであれば、アメリカの有名大学のビジネススクールを卒業して、ベンチャーや大企業の経営に携わるべきです。これは、海外の企業だけでなく、日本企業にも当てはまります。

 

ビジョナリストとしてのスキルを磨けるキャリアを目指さないと、将来のレイオフ予備軍になってしまいます。

 

2022/03/23のNewsweekで、冷泉彰彦氏が、日本型空洞化について、次の様に説明しています。(一部編集要約)



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トヨタをはじめ、多くの日本の最終組み立てメーカーは、国内販売比率が10%前後まで低下し、海外販売のほとんどは現地生産になっています。さらに。研究開発、デザイン、マーケティングなど主要な高付加価値部門も海外に出している企業が多くなっています。(中略)

 

日本の空洞化は、人件費の低い国に生産拠点を移し、市場に近いところで生産し、設計や研究開発など知的で高付加価値な部分を「本国に残す」クラシックなスタイルではありません。自動車産業をはじめ日本の多くの製造業の場合は、利幅の薄い部品と素材の一部だけと、生産性の低い事務部門だけが国内に残って、その他の高度な部分はどんどん海外に出す「日本形の空洞化」が進んでいます。

 

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「利幅の薄い部品と素材の一部と生産性の低い事務部門」は今までの仕事を繰り返すヒストリアンの世界です。

 

「設計や研究開発など知的で高付加価値な部分」は、ビジョナリストの世界です。

 

年功型雇用のディストレーニングで、日本国内では、ビジョナリストが淘汰されてしまった結果、「設計や研究開発など知的で高付加価値な部分」が、海外に移転したと考えられます。

 

「変わらない日本」は、鎖国型企業には当てはまりますが、それ以外では、既に、日本型空洞化という変化が起こっていると考えられます。




プーチンで思い返す対ヒトラー「宥和政策」の歴史 2022/03/24 Newsweek コリン・ジョイス

https://www.newsweekjapan.jp/joyce/2022/03/post-239.php



半導体不足、電力不足......日本の自動車産業は崖っぷち? 2022/03/23 Newsweek 冷泉彰彦

https://www.newsweekjapan.jp/reizei/2022/03/post-1265_1.php

 

富士通、9割ジョブ型に 2022/03/24 日経新聞  19面