1.21 OODAループとビジョン~2030年のヒストリアンとビジョナリスト(新21)

(OODAには、ビジョン作成のノウハウが含まれています)

 

PDCAサイクルの話をしたので、ウィキペディアを引用して、類似の概念のOODAループにも言及しておきます。



1)OODAループの概要

OODAループは、航空戦に臨むパイロットの意思決定を対象に、アメリカ空軍のジョン・ボイド大佐により提唱されました。最近では、あらゆる分野に適用できる一般理論 (Grand theory) とみなされています。



OODAループは、観察(Observe)- 情勢への適応(Orient)- 意思決定(Decide)- 行動(Act)- ループ(Implicit Guidance & Control, Feedforward / Feedback Loop)によって、健全な意思決定を実現します。

 

(1)観察 (Observe)

自分以外の外部状況に関する「生のデータ」 (Raw data) を収集します。

 

(2)情勢への適応 (Orient)

「生のデータ」をもとに情勢を認識し、意思決定者は、5つの要素から構成される「判断のための装置」をつかって「価値判断を含んだインフォメーション」として生成します。

 

OO-OO-OOスタック

組織のレベルで、複数の意思決定者が存在する場合、各人の「判断のための装置」の違いにより、「価値判断を含んだインフォメーション」の間に齟齬が発生し、OODAループがこの段階で止まってしまい、次の「D」に入れない場合を指します。

 

(3)意思決定 (Decide)

「情勢への適応」段階で判断された情勢をもとに、行動として具体化するための方策・手段を選択し、方針・計画を策定します。

 

(4)行動(Act)

「意思決定」段階で採択された方針に基づいて、指揮官の意図・命令を踏まえて、実際の行動に移ります。

 

(5)暗黙の誘導・統制とループ(Implicit Guidance & Control, Feedforward / Feedback Loop)

ひとつのOODAプロセスの最後にあたる「行動」(Act)の結果は、直ちに次の「観察」(Observe)の段階で評価され、次の意思決定に反映されることで、ループを描くこととなります。

 

コメント:OO-OO-OOスタックの説明は、組織に複数の意思決定者が存在する場合には、各人が、「情勢への適応 (Orient)」を行うことを前提としています。つまり、国会答弁で、「専門家の委員会に図って検討してからお答えします」という反応の対極にあります。OODAループは、航空戦を基に、開発されていますので、「専門家の委員会に図って」いたら、撃墜されてしまうということと思われます。



2)システム1とシステム2

 

ボイドのOODAループの最終版では「暗黙の誘導・統制」により「意思決定」を飛ばして進むことが理想的とされており、順序通り進められるのは、暗黙的な指示が十分でないときに限られます。これは、大部分の意思決定は暗黙的になされており、またそうあるべきであることを意味します。多くの場合、明示的な意思決定の必要はなく、情勢判断が直接行動を統制します。ビジネススクールで典型的に教えられるタイプのフォーマルな意思決定は、経験が浅いときにのみ必要とされるにすぎません。

 

コメント:上記の記載から、OODAループは基本的に、システム1を前提としていることがわかります。「ビジネススクールで典型的に教えられるタイプのフォーマルな意思決定は、経験が浅い」というより問題が複雑で、システム2を使わざるを得ないためと思われます。言い換えれば、OODAループはシステム2でも使えると思われます。

もうひとつの留意点は、OODAループは朝鮮戦争の航空戦を元に作られていることです。このころは、大量のデジタルデータを保存して、解析することができませんでしたので、エビデンスに基づく解析結果ではなく、経験に基づく直感(システム1)を使わざるを得ませんでした。データサイエンスの進歩を反映して、この部分は再構築すべきです。



3)ループの速度

 

OODAループのテンポが速いということは、彼我の状況に即応し、迅速に行動を修正できるというだけでなく、敵との関係で主導権を握ることにもつながります。主導権を握り、自己のOODAループを高速回転させ、更なる行動を繰り出すことで、敵はその対応に忙殺されて本来あるべきOODAループを作動することができなくなり、心理的に追い詰められることになります。

 

コメント:これも、国会答弁で、「専門家の委員会に図って検討してからお答えします」という反応の対極と思われます。OODAループは、今ではシリコンバレーをはじめとする欧米のビジネス界でも基本戦略として採用されています。これは、シリコンバレーでは、OODAループのテンポの速さが決定的な意味を持つからと思われます。

 

4)まとめ

OODAループから、システム1とシステム2の区分は、今まで論じてきたより、複雑だと思われます。ただし、OODAループで問題にしているシステム1は、航空戦で瞬時に行うレベルのもので、ヒストリアンの前例主義とは、反応速度が違いますので、今までの検討を覆すものではないと考えます。

ボイドは、日本のトヨタ生産方式はOODAループだと言ったようですが、EVへの対応をみていると、OODAループのテンポが速いとは思えません。

 

いずれにしても、第1章では、OODAループのような迅速な意思決定の問題は、扱ってきませんでした。それは、「変わらない日本」問題では、変化の速度より、ともかく、動き出すことを優先して考えたからです。国際競争に生き残るには、動きだすだけではダメで、次のステップに進むための要件も考える必要があるでしょう。





OODAループ ウィキペディア

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/OODA%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%97