焼き芋マニュアル作成のために、実験を繰り返す必要があった理由は、加熱の最適温度が、不明なためです。ここでは、今までの理論のどこに問題があったかを明らかにして、加熱の最適温度の設計法を説明します。
最初に、既存の知識の復習から始めます。
1)βーアミラーゼの反応特性
ナガセケムテックスという会社が、βーアミラーゼを「βーアミラーゼ #1500S」という商品名で、販売しています。その商品説明の資料に、βーアミラーゼの性能が載っています。
左図を見ると、相対活性が一番高いのは60度です。
右図を見ると70度で活性が失効します。
酵素はタンパク質でできており、この失効は、タンパク質の変質によって起こります。
つまり、いったん、失効が起こると、温度を下げても、再び、活性が回復することはありません。
これから、予想される加熱ベストな方法は、70度以下の温度で、長時間加熱することになります。
上の図は、反応時間と麦芽糖(マルトース)生成量の関係を示します。
左図は、酵素量と加熱時間の関係です。
また、加熱時間が20時間と44時間を比べると、後者の方が、麦芽糖の生成量が2%高くなっています。しかし、2%の差は、小さいので、通常は最大でも、20時間加熱すればよいと思われます。
右図は、酵素量と反応時間の関係を示しています。
酵素量が十分あっても、6から9時間まで、反応が大きく進んで、その後の反応は緩やかです。
つまり、仮に、酵素量が十分であるとした場合、60度で、6から9時間加熱するとよいことになります。
2)低温加熱の問題点
βーアミラーゼの反応特性を頭に入れれば、70度以下の低温で、長時間加熱すればよいと考えられます。
70度は、熱めのお湯です。70度の温度一定のお湯を作るには、ANOVA(アノーバ)のような低温調理器が便利です。これは、お湯にスティック状の調理器を差し込んでおくと、お湯の温度が設定値になるように自動的に加熱してくれるヒーターです。
炊飯器の保温機能により維持できる温度は、約60度~約75度が一般的なので、精度は悪いですが、これで、代替も可能です。
なお、JISの規定は67〜78度ですが、実際は上限は、74度以下で、保温モードが選べる場合には、60度をサポートしています。
実は、70度以下の低温で、長時間加熱すると、甘い焼き芋ができません。
いっきゅう氏が、温度と糖度測定をしていますので、その事例を引用します。
いっきゅう氏は、βーアミラーゼの失効温度を75度と仮定して、「できるだけ70度前後の温度帯の時間が長くなること」を試みています。
タイプ1.オーブンで、200度45分加熱する。
タイプ2.ANOVAを使い70度60分する。その後、オーブンで、200度45分加熱する。
タイプ2では、水を吸わないよう(ゆで芋にならないよう)サツマイモを真空パックにした上で、ANOVAで70度の温水に60分浸します。
測定すると、1時間後にサツマイモの中心温度が67.9度でした。
糖度計で糖度を計測した結果は、以下です。
タイプ1.28.6
タイプ2.21.6
つまり、「できるだけ70度前後の温度帯の時間が長くなること」によって、糖度が落ちています。
エビデンスは、「できるだけ70度前後の温度帯の時間が長くなること」は、間違っていることをさしています。
β-アミラーゼ #1500S ナガセケムテックス
https://search.cosmobio.co.jp/cosmo_search_p/search_gate2/docs/NBL_/86296.20120308.pdf
やきいものおいしい 作り方を徹底調査 その1 2017/11/24 いっきゅう’s QOL Topics http://ikkyu-qol.info/%E3%82%84%E3%81%8D%E3%81%84%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%8A%E3%81%84%E3%81%97%E3%81%84%E4%BD%9C%E3%82%8A%E6%96%B9%E3%82%92%E5%BE%B9%E5%BA%95%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E3%80%80%E3%81%9D%E3%81%AE1/