ビジョンとビジョンもどき~2030年のヒストリアンとビジョナリスト(15)

都市計画法では、自治体に都市計画のビジョンを作ることを求めていて、コンサルタントが仕事を請け負って、「ビジョン」という表紙のついたレポートを作成します。

 

こうした、「ビジョン」と書かれたレポートを見慣れていると、これがビジョンだと思っている人が多いと思いますが、これは、ビジョンもどきであって、ビジョンではないと思います。ビジョンもどきのつくり方は以下です。

 

過去の計画、ビジョンの歴史を取りまとめる。

住民アンケートを行い、要望を吸い上げる。

過去の計画を一部修正して、新しいビジョンと名前をつける

 

これは、ビジョンの歴史を調べて、その延長線を引く、フォーキャスト作業であり、ヒストリアンの手法です。つまり、ビジョナリストの手法ではありません。



フェースブックは、社名をメタに変え、メタバースを新しいターゲットにしました。

その結果、「メタバース」が、フェイスブックの新しいビジョンの名前であることは、広く知れ渡りました。

しかし、知れ渡ったのは、ビジョンの名前であって、ビジョンではありません。メタ―バーズのビジョンは、ザッカーバーグの頭の中にあります。ザッカーバーグ以外はだれも、その全容はわかりません。

 

ビジョンを推定するヒントはあります。なので、「メタバース」の3割くらいは、こんなものかと推定している人はいます。

 

ビジョンは、バックキャストして、ビジョンを実現するための手順を含みます。手順を伴わないものは、ビジョンではありません。

 

アップルが、アップルカーを作るという話は、以前からあります。ビジョンは、ティム・クックの頭の中にあります。おそらく、ティム・クックは、テスラより、競争優位なEVをつくることができるという明確なビジョンを探していると思われます。それが、明確なビジョンになった時点で、アップルカーがスタートすると思われます。

 

アップルは、アップルウォッチを作って売っています。ウェアラブル・コンピュータの時代が来るとは、10年以上前から言われていました。「ウェアラブル・コンピュータの時代が来る」というのは、ビジョンではありません。それは、どのようなエコシステムの製品にまとめれば、競争優位にたてられるかというビジョンがあって、初めて、市場のシェアをえることができます。

 

このように、ビジョンの名前と中身を区することは重要です。「ウェアラブル・コンピュータ」という名前を唱えても、問題は解決しません。アップル・ウォッチの成功は、iPhoneで構築したクラウドネットワークのエコシステムに大きく依存しています。スマホの無線システムなしには、アップル・ウォッチの機能は実現しません。「ウェアラブル・コンピュータ」を聞いたときに、それを実装するために、必要なエコシステムのビジョンを描いて、階段をのぼることができた企業だけが生き残ります。



ビジョンは、過去の歴史から作ることはできません。過去の歴史は、ヒントになることもありますが、ビジョン作成の阻害要因になることもあります。

 

コンピュータのシステムが、人間の作業を代替する時代は、10年前に終わっています。コンピュータは、新しいエコシステムで、そこに、人間や企業が移住する時代です。エコシステムが変わる場合には、ヒストリアンの手法は、ぼぼ、全滅します。

 

あまりに、この条件に当てはまる事例が多すぎて、列挙することもはばかられます。

 

現在は、ヒストリアンのつくったビジョンの歴史や、ビジョンの名前を振り回して、本来、検討すべき、ビジョンがないがしろにされています。

 

この方向が行き詰まるのは、時間の問題です。