ここでは、ヒストリアンとビジョナリストを話題にしています。
この2つの用語は、次の2点で、複雑なので、順次、解説して見たいと思います。
1)コンテテクストで意味の変化する多義語である
2)一般に、誤用法が流布している。特に、ビジョン。
3)用語は、他の要素の組合せで意味をもつ性質がある。
最初に、3)を補足しておきます。
ビジョンは、対象Aに関するビジョンです。
ヒストリーは、対象Bに関するヒストリーです。
ビジョンやヒストリーが単独で存在する訳ではありません。
さて、次のスキームは、ビジョンを前提としています。
仮説3G:(t=0の状態量)+(t>0の介入量)ー>結果
例をあげましょう。
2022/02/17の ニューズウィークで、小宮信夫氏は、犯罪の発生原因に、「犯罪機会」と「犯罪者要因」があるといいます。
用語が混乱しやすいので、図で書きます。
仮説3G:(犯罪の起こる場所と時間:犯罪機会)+犯罪者の介入(犯罪者要因)ー>犯罪の発生
犯罪者が、例えば凶器を振り回せば、犯罪が起こります。しかし、犯罪を犯す可能性のある人がいても凶器を振り回さなければ、犯罪はおきません。
ここで、効いてくるのが、(t=0の状態量)に相当する(犯罪の起こる場所と時間)です。例えば、昼間の交番の前で、犯罪者が凶器を振り回す確率は高くありません。
つまり、(犯罪の起こる場所と時間)に、注目することで、犯罪を防止できます。
それでは、どの場所の何時くらいが、一番危険でしょうか。
実は、(犯罪の起こる場所と時間)のリスクを直接計測することは出来ません。
過去に犯罪が起こった結果データから、原因のリスクを逆推定するベイズアプローチを使えば、(犯罪の起こる場所と時間)のリスク推定ができます。
これには、仮説3Gのような犯罪のモデルスキーム(ビジョン)が必須です。
ビジョンなしに、過去の歴史でデータを集めると、犯罪を犯した人と犯された犯罪のデータセットが集まります。そして、犯罪者がいなければ、犯罪は防げるという帰納がヒストリアンによって行われます。
小宮信夫氏は、その結果、日本では、「不審者」対策が犯罪対策として取り上げられるが、日本以外では、「不審者」という単語がないといいます。
ドラマでは、サングラスとマスクで顔を隠した不審者が登場しますが、そのようなスタイルは、自分が犯罪者候補であると宣伝していることに他なりませんから、実際に犯罪を侵す人が、そのようなスタイルで登場することはありません。
なので、「不審者」対策は、全く効果がない訳です。
日本特有の「不審者」対策が、続いていることは、次の2つの問題点を示しています。
1)専門家と呼ばれる人が、海外の文献を読んでいない場合があり、国際水準の知見から取り残されていることがあります。最近、日本は、DXが遅れていると言われていますが、よく見れば、DXと同等、あるいは、それ以上に、国際水準から取り残されている分野が多くあります。
2)帰納法の誤謬や、ヒストリアンの誤謬から、抜け出せていない分野が多くあります。
なお、仮説3Gのモデルスキームは、ITを前提としています。これには、次の2つの理由があります。
1)ベイズ統計のような(t=0の状態量)を推定する逆問題を解くには、コンピュータが必須です。
2)人間の能力の原型をカバーするためにITが必要です。人工知能は人間を越えるかといった不毛な質問を設定する人がいますが、人間の頭は、マジックナンバーの7を越えません。
(t=0の状態量)が原因のひとつだとして、人間が、(t=0の状態量)のリスクをどの程度まで識別できるかというと、7段階くらいが限界です。有効数字は1桁の2桁には達しません。これを越えるには、IT機器を併用するしか手段はありません。
なお、お気づきと思いますが、「不審者」対策から抜け出せないことは、不祥事対策から抜け出せないことに共通します。不祥事が起こると、誰かをスケープゴートにして、謝罪会見が行われますが、これは、(t=0の状態量)を改善しませんので、不祥事は、高い確率で繰り返されます。これは、既に、アサリの産地偽装で、見てきた通りです。
日本特有の「不審者」対策がもたらした負の影響 2022/02/17 ニューズウィーク 小宮信夫
https://www.newsweekjapan.jp/komiya/2022/02/post_1.php