比較という手法(4)~株式の勉強(5)

1)教育の問題

ウクライナと日本のDXを比べた場合、あるいは、韓国、中国、シンガポール、台湾、香港でも同じですが、一番大きな違いは、IT人材にあります。

日本以外の場合:次のようなサイクルになっています。 ITスキルがあれば、高収入が期待できる。 大学のITコースの人気とレベルが高まる。 優秀なIT人材が多数生まれる。 ITベンチャーが育つ。

日本の場合:次のようなサイクルになっています。 ITスキルがあっても、年功型、専門に関係ない給与で、高収入は期待できない。 大学のITコースの人気とレベルは低い。 優秀なIT人材は出てこない。 ITベンチャーなどの、ベンチャー企業は育たない。

根本の問題は、次の2点です。 1)給与が出来払いではなく、身分制度になっている。これは、正規と非正規、男性と女性の賃金格差を見れば明確です。 2)年功による認知バイアスがあって、仕事の出来を評価できない。

現在の高等教育の結果は、少なくとも5年から10年先までの経済成長を決定しています。 この負のループから抜けだせない限り、経済の復活はあり得ません。

2021/01/20の日経新聞に、「女性活躍模範企業も停滞」という記事が1面に出ていました。女性の役員比率が上がらないという問題です。記事は、女性活躍は、2013年の安倍政権の看板政策で、保育の受け皿に2000億円を毎年投入し、2016年に、女性活躍促進法ができ、数値目標を含む行動計画の公表を求めていますが、成果の公表は義務づけられていません。

男女間の同一労働、同一賃金は実現していません。これは、政策にロードマップをつくって実現するつもりがないからです。女性活躍促進法には、ロードマップはありません。差別があっても、そのままにしてかまわないのです。これが、フランスであれば、差別を取り締まる役所があって、チェックしています。日本にも、労働基準監督署はありますが、極めて、限定的な活動しかしていません。例えば、勤務時間管理がないと、タイムレコーダをつけさせるといった前時代的な活動をしています。現在は、スマホの位置情報でタイムレコーダの代わりになりますから、ボットで、常に監視することも容易です。しかし、こうしたIT化には全く対応できていません。

また、2021/01/20の日経新聞に、大学10兆円基金の記事ものっていました。これも、ロードマップはありませんので、政策評価はなされず、お金のばら撒きに終わる可能性が高いです。なぜなら、負のループから抜け出せないからです。形式的には、専門家会議でお祓いをしますが、それで、上手くいくのであれば、ここまで、研究水準が落ち込まなかったと思われます。

1995年の科学技術基本法から、科学技術予算は伸びています。しかし、そこでは、選択と集中が行われ、基礎研究費をけずって、競争的資金を増やしています。今回の10兆円も、支援要件として、成功が見込まれることをつける予定です。

しかし、エビデンスから見れば、選択と集中を行い、基礎研究費をけずって、競争的資金を増やした結果、研究レベルが落ちています。これは、応用研究が不毛で、基礎研究が大事といった高尚理念の問題ではありません。研究は、すべからく失敗するからです。ユニクロの柳井氏も、新規事業の成功率は10%程度といっています。GoogleのGoogleXも、失敗をしてもよいから、ひたすら新しいことをする組織です。つまり、事前に、選択をすることは不可能なのです。もちろん、基礎的な能力が不足している場合には、研究はできませんので、研究に参加するには、ある程度高いハードルが必要です。そして、いったん研究者として登録したあとは、研究の自由度が高くないと始まりません。

科学技術基本法は、予定調和の改良型の研究を増殖させましたが、ブレークスルーとなる研究を淘汰しています。

国が、競争的資金を増やす必要はありません。現在は、モノになる研究であれば、ファンディングで資金を調達できます。

トロント大学のジェフリー・ヒントン教授は「AIのゴッドファーザー」として称賛を浴び、2019年3月にコンピュータサイエンス界のノーベル賞と呼ばれる、チューリング賞を受賞していますが、する。ヒントン氏は、「DNNリサーチ」をGoogleに、4400万ドル(50億)で売却して資金調達しています。

国が、モノになる研究を選択し、そこに、潤沢な資金を調達することで、研究をプッシュすることはできません。

それよりも、基礎的な教育のカリキュラムに手を入れるべきです。投資したお金がリターンを生むのであれば、民間から資金調達できます。それは、仮に、成功率が10%であっても可能です。

2)世界のデジタル競争力ランキング

IMDの世界のデジタル競争力ランキングを引用します。

デジタル競争力ランキングは、労働生産性に直結します。 つまり、一人たりGDPの長期的には、この順番に収束するはずです。 この図から、韓国と台湾の一人当たりGDPが、日本を上回ることは、必須です。 日本は、豊かにならなくても良いという人もいますが、日本は、食料を輸入に頼っていますので、労働生産性の低下は、飢えに繋がります。そのリスクは、覚悟しておく必要があります。 米騒動が起こる可能性があります。

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図1 IMDの世界のデジタル競争力ランキング

World Digital Competitiveness Ranking 2021 https://www.imd.org/centers/world-competitiveness-center/rankings/world-digital-competitiveness/