金融政策の基本は、利子率の変更と、国債の売買による公開市場操作です。
利子率の変更が、良い悪いは、別にして、効果があることは確かです。
わからないのは、公開市場操作です。
ここ10年の日銀の公開市場操作には、効果があったというエビデンスはありません。公開市場操作に効果があれば、インフレになるはずです。
公開市場操作は、市場にあるマネーストックを調整することで、インフレを調整できるとします。しかし、理解できないのはマネーストックです。
経済学では、伝統的に、ストックとフローを分けて考えます。
しかし、微分方程式では、この2つはセットです。フローの速度が一定であれば、ストックの量で、フローの制御ができます。しかし、フローの速度は一定ではありません。
工場で自動車などのものを作る場合であれば、フローの速度には目に見える上限があります。
一方、情報の経済であれば、フローの速度の上限はほとんどありません。
クラウド上のゲームソフトを考えれば、わかりますが、一度ソフトを作ってしまえば、ユーザーが増えても、製造に関わるコストも時間も、ほぼゼロです。ユーザーが増えるとクラウドに負荷がかかりますので、サーバーの能力を増す必要がありますが、これは、ユーザーが増える前に対処する固定経費です。ソフトウェアの販売に関するフローの速度は、カード決済や、ネット決済であれば、すぐでき、上限は、ありません。
つまり、情報の経済においては、マネーストックで、フローを制御できるとは思われません。(注1)
映画が、映画館で見るモノから、ネットフリックスで見るものに変わると、販売の速度が大きくなります。ネットフリックスには、上映館数の上限はありません。
公開市場操作に対するもう一つの疑問は、公開市場操作に対する国債発行量の影響です。公開市場操作では、市場に出回っている国債と日銀が持っている国債を分けて考え、その比率で、マネーストックが調整できると考えます。そうすると、公開市場操作は、国債発行量の独立変数には、なり難いです。現在の国債発行量は、戦時国債を除けば、歴史的な水準になっていて、過去の実績の範囲を逸脱しています。つまり、この水準でも、公開市場操作が有効であるというエビデンスはありません。
マネーストックは、紙幣をイメージすれば、理解できます。しかし、現在使われているマネーは、紙幣ではなく、電子通貨です。日銀は、正式な電子通貨をまだ発行していませんが、お金の流れは、銀行口座間の電子取引です。つまり、マネーストックは、日銀が、保証している信用の量です。
各社のポイントや、ビットコインも私的電子通貨です。ポイントは、紙幣と同じように使えます。これは、日銀以外が、保証している信用の量です。
おそらく、マネーストックが、マクロ経済に、効く部分は、事業に伴う資金調達なので、制御可能と考えていると思います。しかし、クラウドファンディングを使えば、調達時間は短くなります。
このように考えますと、フローの速度変化を考えない公開市場政策の有効性には、疑問符が付きます。
注1:
情報経済の遅れが、日本の経済の停滞の原因である可能性があります。その場合には、問題は、DXより、深刻です。