システム・チェンジがどうして必要か~シシャモ漁獲の例から

はじめに

2021/11/21の読売新聞は、2021/11/01に、北海道の鵡川漁協の今年のシシャモ漁が終わり、漁獲量は過去最少の約1.4トンで、2020年の3.1トンの半分だったと伝えています。読売新聞は、「2017年に約72.6トンと一時的に資源が回復した時期もあった」と書いています。

胆振(いぶり)地方には、鵡川と苫小牧漁協があります。日高地方には、ひだか漁協があります。

シシャモの統計は、

  • 北海道全体

  • 胆振と日高地方の合計(鵡川、苫小牧、ひだか漁協の合計)

  • 胆振地方の合計(鵡川と苫小牧漁協の合計)と日高地方の合計(ひだか漁協)

  • 鵡川漁協

に分けて論じられます。

シシャモの漁獲量の問題は、中小企業や農業の生産性といった他の分野と共通する問題を持っています。

ここで、共通する問題と言うのは、システムを変える必要があると言うことです。

そこで、今回は、シシャモの問題を取り上げてみます。

シシャモの漁獲と漁獲量規制

図1は、「近年のシシャモ不漁の原因が少しずつ分かってきました」からとっています。

図2は、「2015年のシシャモの資源量」からとっています。

図3は、北海道の水産統計からとっています。

図1をみると、最近の漁獲量は、1991から1994年の禁漁時期と変わらないレベルです。

1990年の漁獲量は、7トンで、それが、きっかけで、1991年から禁漁に入っています。

鵡川漁協は、次の対策をしているとHPで、書いています。

1)人工ふ化事業(2022年から)

2)漁の自主規制(禁漁は1991から1994年)

3)森を育てる

3)は、よくわかりませんが、国土交通省は、「シシャモの生息状況等については継続してモニタリングを 行うとともに、頭首工については関係機関と調整の上、可動堰への改築など必要な措置を講ずる」と書いていますので、堰によって、魚の移動が妨げられているようです。

「近年のシシャモ不漁の原因が少しずつ分かってきました」は、「鵡川系シシャモ資源の資源量変動機構解明に向けた基礎的研究 2014~2018 年」の一部のようです。

図2には、20トンのレベルに水色の線を入れてあります。

これを、見れば、2011年ころから、禁漁をかけても、不思議ではありません。

図1を見ると、2010年ころから、2歳魚はいないので、過剰漁獲であることがわかります。

片野歩氏は、カラフトシシャモについて、「3年〜4年で成熟して、ノルウェーアイスランドの沿岸で産卵をして一生を終えます。それぞれ別の資源ですが、ノルウェーではロシアと共同で管理していて、卵を産む資源量(産卵親魚量)を95%の確率で20万トン残すルール」としているといっています。

日本のシシャモも、2歳では、成熟が十分でない可能性が高いです。

片野歩氏は、漁獲枠の管理、特に、個別割当制度(IQ,ITQ,IVQ)の欠如が問題であると指摘しています。

また、 片野歩氏は、人工ふ化事業について、効果は疑わしいとしています。

生態学の視点

人工ふ化事業の効果が疑わしいことは、生態学の常識です。

家庭菜園をしてみれば、わかりますが、種を沢山まいても、沢山収穫できる訳ではありません。成長量は、エネルギー収支で決まっています。つまり、シシャモの餌の量以上に、資源量が増える訳ではありません。

水産資源量は、食物連鎖のエネルギー収支で決まります。

最近では、「生物体量は微生物からクジラまであらゆる体サイズでほぼ同じ」という「シェルドン・スペクトラム」仮説が唱えられています。そして、産業革命以降、この法則が、崩れていると言われています。

あるいは、「クジラは森林並みに大量の炭素を『除去』していた」という論文も出てきています。

大切なことは、生態学のエネルギー収支、物質収支の視点で、全体をとらえることです。

北海道では、赤潮被害も拡大しています。

2021/11/21の北海道新聞は、「西日本以外で大規模な赤潮が発生するのは初めてで研究の蓄積がない。道はサケの稚魚放流など生産回復に向けた方策を探るが、魚がどの程度のプランクトン濃度で死ぬのかなど『解明がこれからなので対策の立てようがない』といっています。

しかし、生態学で考えれば、栄養塩類、プランクトン、複数の魚種の関連を、微分方程式で、記載して解析する必要があります。それは、まるで、地球の温暖化予測と同じ作業です。

そして、その作業が可能な、データがなければ、研究しても、原因の究明ができないことが、事前にわかっています。

つまり、言いたいことは、シシャモの漁獲量を考えるという従来のアプローチは無効だということです。

漁獲量制限をきっちりかけることは、もちろんですが、シシャモの生態系のデータを整備しないと、問題解決はできないということです。

お気づきと思いますが、これは、データサイエンスの課題、そのものです。

問題解決のためには、解決に向けたシステム・チェンジが必要です。

漁獲量が減ったので、陳情して、補助金を増額してもらう方法では、問題は解決できません。

ビジネスのやり方を変える必要があります。

評価関数も問題になります。

禁漁すれば、その年の収入にはゼロになります。

しかし、資源回復して、将来の漁獲量が増えれば、評価機関を5年から10年程度にとれば、禁漁は、経済的にはプラスになるはずです。

このように、システム・チェンジするためには、フォーキャストではだめで、バックキャストできることが必須の条件になります。

 

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 図3 北海道のシシャモの漁獲量(トン)

 

  • 水産統計(北海道水産現勢)

https://www.pref.hokkaido.lg.jp/sr/sum/03kanrig/sui-toukei/suitoukei.html

  • 海水温が原因?シシャモ激減、価格高騰…産直通販も一時は「やめるか検討した」 2021/11/21 読売新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/4f48329744f93501827acc7fbd47c3c46186531d

https://news.yahoo.co.jp/articles/88f179a3bc949c9ec5d7fc42228a582bfddd7d88

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/11/post-97474.php

  • クジラは森林並みに大量の炭素を「除去」していた──米調査 2021/11/05 ニューズウィーク ハナ・オズボーン

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/11/post-97409.php

  • 2015年のシシャモの資源量

http://www.fishexp.hro.or.jp/exp/central/kanri/SigenHyoka/Kokai/DLFILES/2016hyouka/23_shisyamo_hspac_2016.pdf

  • 近年のシシャモ不漁の原因が少しずつ分かってきました

https://www.hro.or.jp/list/fisheries/marine/att/ima836.pdf

  • 魚類の生息環境等への配慮について 鵡川水系 H18

https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/shaseishin/kasenbunkakai/shouiinkai/kihonhoushin/070731/pdf/s1-1.pdf

  • シシャモ資源が大復活! でもそれは北欧の話のわけ 2021/10/17 片野歩

https://suisanshigen.com/2021/10/17/article51/

  • 北欧のシシャモ資源が必ず戻るわけ 2020/03/11 片野歩

https://suisanshigen.com/2020/03/

  • むかわの宝「ししゃも」を守る取り組み

https://www.jf-mukawa.jp/mainmenu_3_2.php

https://www.jfa.maff.go.jp/j/kanri/other/pdf/2data3-1.pdf