最低賃金と変化の起こし方(7)

朝三暮四と10万円給付

朝三暮四を、小学館大辞泉は次のように説明しています。


《中国、宋の狙公 (そこう) が、飼っている猿にトチの実を与えるのに、朝に三つ、暮れに四つやると言うと猿が少ないと怒ったため、朝に四つ、暮れに三つやると言うと、たいそう喜んだという「荘子」斉物論などに見える故事から》


18歳以下に10万円の給付の財源では、税収ですから、これは、朝三暮四政策であり、有権者の民意は、そのレベルと判断されていることになります。

どうして、不合理な政策が実施されるのかという点について、2021/11/10のニューズウィークで、小幡績氏は、「まっとうなことをせずに、すぐにばら撒こうとするのは、選挙のため。1割を救うよりも、9割に配ったほうが、有権者に広くいきわたる。そして、われわれがやった政策だと主張できる。みなさんのために働いています、がんばってます、と主張できる」からだといっています。

2021/11/09のデイリー新潮のインタビューで、元公明党参議院議員で党副幹事長も務めた福本潤一氏は、「自民党は連立維持のために、公明党は婦人部のために、バラまきをやってきたわけです。こうした婦人部からの要求が常態化し、いくつかの給付が行われてきました。今回の“18歳以下に一律10万円”もその延長上にある話」と答えています。

どちらも選挙対策という説明です。

2021/11/10のニューズウィークに、舞田敏彦は、厚労省国民生活基礎調査』(2019年)の世帯数を所得階級と貯蓄階級のマトリクスに集計した表を引いて、次の様に説明しています。「所得300万未満、貯蓄200万未満の世帯は全体の15.1%に当たる。(マトリックスのマス目で)「日本で一番多い世帯は」所得100万円台・貯蓄ゼロの世帯になる」と指摘しています。

「18歳以下に10万円の給付」では、この15.1%の貧困層の一部も、切り捨てられています。

岸田首相は、阿川佐和子氏とのインタビューで、官僚は「政府の結論が出てから『自分の意見はこうだから』と言うのでは、政府としてけじめがつかない。最後に結論が出たら従ってもらえると、私は信じております」といっています。

しかし、選挙対策を優先して、15.1%の貧困層の一部を切り捨てた政策が「結論」ですから、従うことには、倫理的な苦痛がともないます。

この倫理問題は、2020/03/25の朝日新聞論座で、田中均氏が論じていますので、公務員の希望者は一読することをお勧めします。

野党の役割

それにしても、野党も15.1%の貧困層問題を取り上げません。

野党は何をすべきでしょうか。

2018/07/19に荻上チキ氏は、「野党の役割は『代案』を出すことではない。反対すればよい」といっています。

しかし、2018/07/18の現代ビジネスで、野口 雅弘氏は、次の様にいっています。


野党への支持率が絶望的に低い。特に若者世代ではその傾向が顕著だ。そうした「野党ぎらい」の背景には、若者世代が「コミュ力」を重視している事実があるのではないか。コミュ力を大切にし、波風の立たない関係を優先していれば、当然、野党の行う批判や対立を作り出す姿勢は、嫌悪の対象となる。摩擦のない優しい関係が社会に広がるなか、野党の置かれた立場は難しいものになっている。


 

つまり、反対中心で、「コミュ力」がないことは、若者世代からは、嫌悪され、支持率が伸びない原因であると分析しています。

 

2021/10/18の週刊プレNEWS で、モーリー・ロバートソンは、次のように、言っています。


近年、なぜ日本の左派野党に対する期待はこれほどまでにしぼんでいるのか。旧民主党政権の失敗が尾を引いているとか、離合集散の連続で頼りないとか、いろいろな指摘はあると思いますが、最大の要因は「自民党がボロを出すのを待ち、それを追及することが最大の仕事になっているから」だと僕は考えています。


2021/06/09のPresident onlineで、岡本 純子氏は、野党議員は、「ワーワーわめくだけで議員給与2200万円」もらえることに安住して、政権をとるつもりはないと切り捨てています。

議員給与2200万円は、普通の人にとっては、魅力的なので、世の中を変えたいのではなく、議員給与2200万円をもらうために、政治家になりたい人が出てきます。

出典は、思い出せませんが、前回衆議院選挙では、日本維新の会の松井代表は、(議員給与2200万円をもらうために、筆者注)議員になりたい人は大勢いるが、候補者として、推薦できる人は少ないといっていました。

今回の衆議院選挙で、立憲民主党は、議席を減らしましたが、その原因に、候補者の数をそろえるだけで、手いっぱいで、質が伴わなかったという意見も聞かれました。

2021/10/18のFRIDAY DIGITALは、大島新監督の映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」の被写体であり、香川1区で自民党平井卓也・前デジタル担当相に挑む立憲民主党小川淳也議員に、インタビューしています。


「無私の姿勢」「政権時代の反省と総括」「その上に新しい時代に合わせた政策体系」という3拍子が揃わないと、野党が政権勢力として認知されることはなかなか難しいと思っていて。もし本当に各党がみんなで無私の姿勢を徹底すれば当然、野党の大同団結だって視野に入るはずですし、現状小党分裂している時点で十分な迫力は生まれません。


小川淳也は、今回の衆議院選挙で、平井卓也氏を破って当選しました。

小川淳也は、今回の立憲民主党の代表選挙に、出馬の意向です。

前回のブログで、筆者は、岸田首相は、「アベノミクスで経済が伸びたが、トリクルダウンが不十分」と発言したことに対して、「アベノミクスで経済が伸びた」というエビデンスはないと、申し上げました。

2021/10/23のFINDERSで、倉本圭造氏は、この点を詳細に論じています。

倉本圭造氏は、更に、次のように、言っています。


(野党は、筆者注)「既得権益をぶっ壊せ!」と20年間言い続けて結局「岩盤」に跳ね返され続けたんですから、今までとは別のやり方で味方を募って変えていくべき時期が来ているのではないでしょうか。

この記事などで最近何度も書いている私のクライアント企業で10年で150万円平均給与を上げられた例では、結果的に見れば「改革」自体はすごく進んでいますけど、それは「抵抗勢力を悪魔化してぶっ壊すと騒ぐ」ことで実現したわけではありません。むしろ「横から見ていて歯がゆいほど守旧勢力に敬意を払いながら変えた」ことが成功要因だった。


 

大前研一氏は、政策は優先順位をつけて、1つに絞ることが大切で、あれも、これも、並べると、実現ができなくなるといっています。

アベノミクスも、3本の矢といって、金融政策、財政政策、成長戦略をかかげましたが、3つ目はダメで、経済成長は実現していません。

倉本圭造氏は、野党は、「別のやり方で味方を募って変えていくべき時期」といいます。

しかし、野党が、大前研一氏の指摘する「政策は優先順位をつけて、1つに絞る」をしていたとは思えません。政権与党でも、2つしか、実現できなかったわけですから、野党が、キーとなる政策を1つに絞れなかったことが、「既得権益をぶっ壊せ!」なかった原因と思われます。

倉本圭造氏は、「クライアント企業で10年で150万円平均給与を上げられた例」をあげていますが、このことは、給与を上げることがポイントであることを暗示しています。

筆者は、「最低賃金を上げる」とすべての問題が解決するとは思いませんが、経済が閉塞している現状のを打破するために、もっとも優先順位の高い政策として、「最低賃金を上げる」ことは、有望な選択肢と考えます。

 

  • 【速報】自公で正式合意 “10万円相当の給付”に「年収960万円」の所得制限導入 2021/11/10 TBS NEWS

https://news.yahoo.co.jp/articles/ec503e9015880a843060ba19e6d6987bfaed874d

  • 岸田総理が“財政破綻論文”矢野次官について明言「処分は全く考えていません」2021/11/10 文春オンライン

https://news.yahoo.co.jp/articles/a39678b3909c3fb0a0684999dc0073a1548ef881

  • goo 朝三暮四 の意味・使い方

https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E6%9C%9D%E4%B8%89%E6%9A%AE%E5%9B%9B/

  • 公明党は「10万円給付」をなぜゴリ押しする? 元公明党議員が解説する「内部事情」と「野中発言」 2021/11/09 デイリー新潮 

https://news.yahoo.co.jp/articles/b24153b75a1a5691e2ad661375da4ddde28ad35b

https://www.newsweekjapan.jp/obata/

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/11/post-97431.php

  • 野党の役割は「代案」を出すことではない 2018/07/19 荻上チキ

https://diamond.jp/articles/-/174929

https://news.yahoo.co.jp/articles/a1e22f6a16c59df40d0c554f8415ebffda66e0f4

  • コミュ力重視」の若者世代はこうして「野党ぎらい」になっていく 2018/07/18 現代ビジネス  野口 雅弘

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56509

  • 「ワーワーわめくだけで議員給与2200万円」自民がコロナ失政でも野党の支持率が上がらない根本理由  2021/06/09 Preident online 岡本 純子

    https://president.jp/articles/-/46548

  • 立憲民主は本当に与党になる気があるの…?小川議員に聞いてみた 2021/10/18 FRIDAY DIGITAL

https://news.yahoo.co.jp/articles/8c2862d1bb3c9d1b9b375df703c3038f129ece5c

  • 野党がこのままでは日本は「決して政権交代できない国」になりそうだが、それはそれでいいのかもしれない【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(23) 2021/10/23 FINDERS 倉本圭造

https://finders.me/articles.php?id=3090

https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=36760

 

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