SF受難の時代

5月に筆者が公開した「ゼロリセット物語」は、5年後くらいの間に、現在の社会の問題が解決するというアンパンマン小説です。アンパンマン小説というのは、問題が解決された後の世界を描くという意味です。実際には、問題解決のプロセスが重要ですが、それを正面切って対象とすると先に進みません。そこで、問題解決後の世界が描ければ、賛同者が出て、世の中は変わるだろうと考えるわけです。

2番目のテーマに取り上げているのは、自治体の財政問題です。現在は、3分の1くらいの進捗です。少子化とともに税収は減ります。政治家は、次々と新しい箱物を作りたがりますが、今のままで行くと維持管理はできなくなります。

トレンド推定は、既に出されていますが、その結果は、自治体が倒産するというものです。こうしたら問題解決ができるというものではありません。こうした予測は、オブジェクト・ヒストリカルでしかないと割り切っています。これは、既に論じたように、数学史の専門家は、数学の問題を解けないことを一般化したルールです。数学者を見たときに、その人は、問題が解ける数学者なのか、数学史の専門家かを判定します。数学史の専門家は、問題が解けないので、意見を求めても役に立たないのです。トレンド推定で、未来が破綻するという予測は、今までの方法では、問題解決ができないことを意味しているだけです。必要なことは、新しい解決法を見つける、あるいは、創ることです。オブジェクト・ヒストリカルを排除するという、この判定ルールは有益です。書店で本を購入する時に、このルールを使って、本を見ると、9割の本は、購入に値しないことがわかります。新聞の記事も、9割は読むに値しないことがわかります。

問題解決後の世界を描くのは、SFの基本ですが、非常に、難しいです。20年したら、全てEVになるのでしょうか。自動運転は、普及するのでしょうか。パラリンピックで、トヨタの自動運転車は事故を起こしました。これから、分かったことは、トヨタの自動運転車は、決定的にデータ不足だということです。テスラのようにデープラーニングで自動運転するのであれば、学習データがないと勝負になりません。少なくとも、自動運転については、トヨタがテスラに勝てる見込みは今の所ありません。事故を起こしたことよりも、事故の学習データが不足していたことが問題です。アルファ碁は、過去の対戦成績の譜面なしに、自分と自分を対戦させて、学習データを作って自己学習しました。ルールが守られる範囲であれば、ドライビングシミュレータで、複数の自動車を走らせて、学習データを作りながら、学習するとは可能です。しかし、想定ルール外については、実績データがないとどうにもなりません。テスラは、EVの価格を1000万円、700万円、300万円と急激に下げることに成功しています。トヨタの水素自動車の価格は、700万円から下がりません。20年後の覇者が誰で、どのような交通システムになっているのか、見通せません。

自治体の財政は、人が動かないことが原則です。住民税も、そのことが前提です。もちろん、現在でも、埼玉都民と呼ばれるように職住分離はあります。しかし、例外です。アフリカの国の場合、国境は、植民地を分けた分割線に過ぎません。国境に関係なく生活している遊牧民もいる一方で、部族が生活単位のグループもいます。リモートワークが進むと日本の自治体もアフリカの国のようになる可能性もあります。実際に、政治でも、無党派層が増えていますが、これは、無党派というグループがいるわけではなく、従来の利益誘導型の政党のカテゴリーに合わないことを意味しています。大企業の労働団体をバックにした政党もありますが、例えば、トヨタのような大企業でも、20年後は、わかりません。これは、かつてのGMをみれば当然の予測です。そうすると、利益誘導型のカテゴリーの政党は、社会変化が大きい場合には、意味がなくなります。ドイツでは、緑の党が伸びましたが、同じ政党でも、カテゴリーが違います。日本も、無党派層が多いので、政党のカテゴリーの切り替え時期にあると思われます。こうした時には、オブジェクト・ヒストリカルは、役に立ちません。例えば、過去に、官房長官の経験者が首相になったケースが多いと言った説明は、オブジェクト・ヒストリカルです。このルールを使うと、首相は年寄りになりますが、国際情勢が流動的で、外交の力の強い首相を考えれば、英語のできる若い人が首相にならないと勝負になりません。過去の事例を知っていることは、害があるだけです。その先には、破綻があるだけです。

科学的な背景のない変身小説には、こうした悩みはないと思われますが、伝統的なSF小説のルールを守って、小説を書くことは難しくなっています。オーウェル1984は、その時期を過ぎましたが、支配者と被支配者の対立がある限りは、読むことができます。侍女の物語も同様です。しかし、ネットの商品購入が、お薦めに左右されるように、自由意志は幻想の可能性もあります。

時代の変化がSFの先をいっているように思われます。

 

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