楢﨑 浩一氏の発言記事

楢﨑 浩一氏は、元SOMPOホールディングス グループCDO執行役常務で、2020年11月に、SOMPOホールディングスと米国パランティアが出資して設立されたパランティア日本法人のCEOを務めておられます。

今回の記事の発端は、2021/08/15の読売新聞の記事「【独自】不審船特定、AIで衛星データ分析し瞬時に…政府が監視システム構築へ 」を読んだことです。


政府は、人工知能(AI)と衛星を組み合わせた新たな不審船監視システムの運用に向けて、来年度に実証実験を行い、2024年度にも開始する方針を固めた。

政府は20年度第3次補正予算で、システム開発費として4億5000万円を計上し、開発事業者を選定する方針だ。


ずいぶん間の抜けた記事だったので、不審に思いました。

この手の解析では、2003年にピーター・ティール氏が立ち上げたデータ分析企業「パランティア」が知られています。もう、20年近い実績があり、米軍、国防総省、FBI、CIAといった機関が顧客です。これに比べれば、これから始めて、不審船監視システムを来年度に実証実験をというのは、考えられません。

開発がパランティアに内定しているのであれば、理解できる記事です。調べたら、富士通とPalantir Technologies Inc.が戦略的提携しています。

さらに、「パランティア」を検索した結果、2020/11/01のJIJI.comの記事「政策判断、AIで迅速化 米データ解析大手と協議―安保、コロナで活用視野・政府」が、みつかりパランティア日本が発足していることがわかりました。記事の要点は以下です。


 政策判断の迅速化を狙い、政府内で米企業の先端ビッグデータ解析システムの導入を探る動きがあることが10月31日、分かった。複数の政府関係者が明らかにした。人工知能(AI)技術の発展と菅政権のデジタル化推進を背景に、政府は防衛・安全保障関連部局などでの導入の可否について基礎的な検討に入った。


このあと、パランティア日本、パランティア、AIで検索をかけました。

翌日の2020/11/02のJIJI Financial Solutionsの記事では、より具体的に、 楢﨑 浩一氏が答えています。


―(パランティアの)システムの特徴は。

 データの解析と人工知能(AI)を使った機械学習、統合に強みを持ち、膨大なデータや業務プロセスを持つ顧客に大きなメリットがある。

 ビッグデータを蓄える「データレイク」(データの湖の意)が注視されるが、パランティアのシステムを導入すれば、データレイクを構築しなくても同様の効果を1週間程度で出すことができる。一般的にデータレイクを構築するには数年単位の時間と多大の資金、手間がかかるが、パランティアは組織内のシステムに散らばったデータを統合し解析する。その結果、極めて短期間に収益向上や戦略的な課題の解決を実現できる。

 顧客にシステムを提供する際の問い掛けは一つだけだ。それは「御社の最大の経営課題は何か」。その答えを持つ顧客に(最も適した)解決支援策を提供する。


AIで検索した結果、経団連の「AI 活用戦略」や類似の報告書が雨後のタケノコ状態であることがわかりました。委員会の形式をとっている場合には、著名人がリストされていますが、実体は、受注したコンサルタントが、発注者の意図を組んで作っているだけの実効性を考えないレポートです。内容は、AIの歴史です。検索するとDXの問題点がわかります。経団連川崎市のレポートには、用語説明ものっています。

この手の将来ビジョンは、各省庁が毎年のようにつくり、影響があったのはごく一部だけなので、現代史の資料と考えています。

検索結果で、一番関心したのは、2月に行われた「ラウンドテーブル2020~未来を探る円卓会議 / 経済同友会シンポジウム」の対談の一部(2021/05/13に経済同友会のHPに掲載)です。

このシンポジウムには、ピーター・ティール氏も参加しています。

その対談は「グレートリセット後の未来 分科会2-A『医療データ』」で、 楢﨑 浩一氏は、ここで、次のように発言しています。2021年2月18日時点の発言です。


たとえばワクチンを取り上げてみます。今、恐らく、ワクチンを世界一うまく接種できているのはイギリスだと思いますが、実は後ろ側でパランティアが支えているんです。どこでどうワクチンを仕入れて、どこに配って、どのように冷凍保管するか。使用期限が短いので、どれだけの人をどういう順番で集めて、どうやって打つか、現場でどのような人の流れにするかといった話......それこそサプライチェーンなんですけれど、これをパランティアが全部後ろで見ています。これを日本でも何かご活用いただけないかという点については、今各所にご提案をさせていただいているところでございます。


7月13日の記事にも書きましたように、2021/03/02のケータイWatch自治体向け「ワクチン接種記録システム(VRS)」を、次のように伝えています。

ワクチン接種データの信頼性(VRSとLEBER) 2021/07/13


政府は、2月26日付で、ワクチン接種記録システムのデータ入力支援業務に関して、NTTドコモおよびNTTコミュニケーションズ(NTT Com)と随意契約を締結している。データの入力でタブレットを用いることになる。ドコモがタブレットの準備と通信回線の提供、端末管理を担う。ドコモと政府の契約金額は37億180万8000円。


また、7月13日の記事では、VRSは「スマホがあれば、Googleレンズ+1ページのアプリで済む」のではないかと申し上げました。2021/04/23の日経XTECHを見ると、VRSの読み取り精度は、非常に悪く、Googleレンズのレベルとは程遠いようです。

 


政府が開発した自治体向け「ワクチン接種記録システム(VRS)」。タブレットの内蔵カメラで接種情報を読み取りにくい不具合が頻発した。接種歴を迅速に入力する主要機能だが、検証が不十分だったとみられる。自治体関係者はアジャイル開発での品質確保が不徹底と指摘する。一方でデジタル庁への前哨戦として異例の取り組みを評価する声もある。

(中略)

 VRSではワクチン接種を受けた住民の接種歴の入力を効率化するため、接種対象の住民に郵送した接種券にあるバーコードや、接種歴を記録した18ケタの番号である「OCRライン」を、タブレット端末の内蔵カメラを使って読み取る。ところが複数の自治体のIT担当者によると、タブレット端末の内蔵カメラで接種券の情報を読み取る際に時間がかかったり、誤認識したりする場合があるのだという。カメラで情報を読み取れない場合、タブレット端末で情報を手入力する必要がある。

 ある自治体のIT担当者は「読み取り精度が悪く、医療機関に使ってもらえるレベルではない」と指摘する。

(中略)

 IT室は日経コンピュータの取材に「タブレット内蔵カメラのオートフォーカスが合わないケースがある」と話し、読み取り方法の説明を追加したり動画を作成したりしている。

(中略)

一部の自治体は接種開始に間に合わせるために、別途外付けバーコードリーダーを独自に購入して、タブレット端末を使う医療機関への配布を始めた。


IT室の「読み取り方法の説明を追加したり動画を作成したりしている」という努力は、ブラックジョークに見えてしまいます。

ちなみに、Open CVを使った1次元バーコードの読み取りは、2020/09/24のQitaでみれば、20行で、1時間(あるいは、15分)あればできますが、精度が良くないと書かれています。VRSは、このレベルと思います。また、1次元バーコードより、2次元のQRコードの方が読み取りエラーが少ないので、エラーが心配であれば、QRコードを使うべきです。

 

2021年2月18日以前に、パランティア日本は(おそらく、政府にも)プロポーサルを出したが、契約に至らず、政府は、2月26日に、NTTドコモおよびNTTコミュニケーションズ(NTT Com)と「ワクチン接種記録システム(VRS)」の随意契約を締結しています。この随意契約は、河野太郎内閣府特命担当大臣(行革担当、ワクチン担当)と平井卓也デジタル改革担当大臣のお墨付きです。ちなみに、河野太郎内閣府特命担当大臣は、「ラウンドテーブル2020~未来を探る円卓会議 / 経済同友会シンポジウム」の特別セッション2の登壇者でもあります。シンポジウムで、河野氏が、パランティアの名前を聞いている可能性は高いと思われます。河野氏は、2月の時点では、ワクチン配布問題を甘く見ていたのかも知れません。

 

まとめ

日経XTECHの記事を見つけて、話が脱線しましたが、言いたいことは、全国紙や委員会提言よりも、 JIJI Financial Solutionsや、シンポジウムの個人の発言の方がはるかに有益であるということです。

特に、 楢﨑 浩一氏の記事は、非常に、ビジョナリーです。

 

  • PythonQRコードとバーコードを生成して普通に読み取ったりOpenCV でリアルタイムに読み取る方法 2020/09/24 Qita

https://qiita.com/igor-bond16/items/0dbef691a71c2e5e37d7

  • ワクチン接種記録システム、わずか2カ月間で開発するも情報入力に不具合 2021/04/23 日経XTECH

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01157/042000034/

  • 【独自】不審船特定、AIで衛星データ分析し瞬時に…政府が監視システム構築へ 2021/08/15 読売新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/1203edbe99baebd870f4ec82a76088f3ffda54b8

  • 政策判断、AIで迅速化 米データ解析大手と協議―安保、コロナで活用視野・政府 2020/11/01 JIJI.com

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020103100378&g=pol

https://www.doyukai.or.jp/newsrelease/2021/210513a.html

  • 「経済同友」2021年3月号~特集:ラウンドテーブル2020~未来を探る円卓会議 / 経済同友会シンポジウム「持続可能な物流を考える」

https://www.doyukai.or.jp/publish/2020/march.html

  • 楢崎パランティア日本法人CEO:将来目標、数十社の顧客=コロナ危機、DXの機運 2020/11/02 JIJI Financial Solutions

https://financial.jiji.com/main_news/article.html?number=153

https://descartes-search.com/media/palantirtechnologies/

  • ピーター・ティールが立ち上げた謎のデータ分析企業「パランティア」の実態に迫る 2021/05/29 Courrier Japan (この記事は有料ですが、講談社現代新書「変貌する未来」でも読むことができます)

https://courrier.jp/news/archives/244139/

  • パランティア日本 - Palantir

https://www.palantir.com/japan/

https://pr.fujitsu.com/jp/news/2020/06/10.html

  • 我が国のAI ガバナンスの在り方 ver. 1.0 AI 社会実装アーキテクチャー検討会 2021/01/05

https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/pdf/20210709_2.pdf

  • 令和2年度規制改革推進のための国際連携事業 (AIの利活用及び開発に影響を与える 政策ツールに関する動向調査) GPAI(Global Partnership on AI)関連調査 最終報告書 2021/03 PwCコンサルティング合同会社

https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2020FY/000191.pdf

  • 激動の時代 未来に向けて今やるべきこと「AI時代の行政戦略」平成30(2018)年3月 川崎市

https://www.city.kawasaki.jp/170/cmsfiles/contents/0000097/97121/29seisakukadai.pdf

  • AI 活用戦略 ~AI-Ready な社会の実現に向けて~ 2019/02 /9 経団連

https://www.keidanren.or.jp/policy/2019/013_honbun.pdf

  • 平成29年度 人工知能活用調査 報告書=概要版=2018/03 株式会社 NTTデータ経営研究所 ライフ・ハ ゙リュー・クリエイションユニット

https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000337600.pdf

 

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