2021/08/13のNHKによると、「分科会は、(人流を)緊急事態宣言前の5割減らさないといけないとしています。これがどれくらいかというと、2021年4月に出された宣言のあと、最も大きく下がった5月上旬並みの人出まで減らすことを求めています」この数字が、行動制限率ー50%です。
ポイントは2つあります。
陽性率
東京都の2021/05/05の陽性率は8.8%です。2021/08/11の陽性率は、22.8%です。
感染の接触確率は、陽性率に比例するはずです。したがって、ー50%では不足するはずです。
この話題は、過去の記事でも触れています。
2021/08/01
オリンピック効果
「オリンピックは東京都のコロナ感染を拡大させたか~コロナウイルスのデータサイエンス(233)」でものべましたが、オリンピックで、行動抑制が緩んだ可能性があります。昨日の記事では、最新のGoogleデータは8月8日まででしたが、今日は、8月9日のデータが手に入ります。オリンピックの始まる前の22日と、23日のGT(Google Transit)データは、-51%、-56%、終わった9日のGTは、-59%ですから、5割をこえています。オリンピックを介入と考えれば、7月25日から8月8日のデータには、オリンピックによる行動制限の緩みの効果が含まれています。
2021/08/12の日本経済新聞で、尾身氏は次のようにのべています。
政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身会長は12日、8日に閉幕した東京五輪の開催による足元の感染拡大への影響について問われ「絶対ないと思う」と否定した。一方で「人流という意味で、オリンピックの開催が人々の意識に与えた影響の議論でいえば、私たちはあったと思う」と述べた。
しかし、尾身氏は、「人流という意味で、オリンピックの開催が人々の意識に与えた影響の議論でいえば、私たちはあったと思う」の具体的な数字は示していません。
これは、RCTができない場合の因果分析の手法を用います。基本的な考えは、たとえば、オリンピックの間だけ、行動制限のポイントにバイアスがかかったと考えます。
バイアスの値は、7月23日と24日の間の24ポイント、8月7日と8月9日の間の23ポイントなどが候補になります。バイアスの大きさの推定値は、手法により異なります。また、定数ではなく、変動を与える場合もあります。ここでは、単純な定数バイアスモデルを考え、バイアスのレンジを小さい場合がー16ポイント、大きい場合が、ー22ポイントと仮定します。どちらが、正しいかはわかりませんが、正解は、概ね、この2つの間にあるでしょう。表1が、こうして、計算したオリンピックがなかったと仮定した場合のGTのポイントです。ー22ポイントでは、全ての日で、ー50%を下回っています。ー16ポイントでは、さすがに、全ての日で、ー50%を下回ってはいませんが、平均では、ー50%をクリアしています。
これから、考えると、今後のGTは、ー50%を下回るでしょう。つまり、GTで見るかぎり、人流が5割を切ることはさして難しくなさそうです。
しかし、これから、10日間、オリンピックで、人の流れが増えた影響が出てくると思われます。
まとめ
まとめると、今後、人流は5割以上減りますが、陽性率を下げられなければ、感染拡大は止まらないと思われます。
追記(8月14日):8月10日のGTはー40%で予想より大きかったです。7日平均値は下がっています。「人流5割削減」の予測の判断にはもう少し時間がいるでしょう。緊急事態宣言が、日常化して、エンドレスで、緊急でなくなってしまったので、同じネーミングでも、心理効果は全く変わっています。どうせ感染者数はさがらないのだから、行動制限しても始まらないという判断もあります。「人流5割削減」に効果があると思っている人も少ないはずです。感染者数が増えても、ロックダウンはしないと一方的に決めつけている人もいます。この発言は、感染者数が減らなくともよいというメッセージにもなっています。ロックダウンしないで済むように、行動制限してくださいという訳ではないのですから。
しかし、今後10日間は、オリンピック効果が出るので、感染拡大の停止はさらに難しいでしょう。
補足
2021/08/13の朝日新聞は、次のように言いています。
日々公表されている検査件数は、症状がある人や感染者と濃厚接触した人が公費負担で受けられる「行政検査」を対象としたものだ。一方で、症状がなく、感染の可能性が低い人が「陰性証明」のために自費で受ける検査は基本的に含まれていない。自費検査で医師の診断により陽性となった場合、医師が感染症法に基づき保健所に届け出ることになっている。だが、検査件数については届け出が義務化されていない。
(中略)
厚生労働省は先月、一部の民間検査会社から提供された自費検査の件数を公表し始めた。それによると、8月1~7日で計約46万件。この間の行政検査は約58万件。検査件数を提供していない機関があることを考えれば、すでに行政検査に匹敵する規模だ。
つまり、自費検査の場合、陽性になった場合だけが報告されていて、その数が、検査データの陽性者数に加ええられているために、見かけの陽性率が高く出ているといっています。しかし、検査データの陽性者数は、感染者数データより少ないので、その可能性はないと考えます。つまり、自費検査で、陽性になった場合には、そのデータは、感染者数にのみ反映され、検査データには、いれられていないと判断しています。
東京都が、自主検査の検査データを把握していれば、陽性率の数字の精度があがりますので、それは望ましいことです。しかし、陽性率は、緊急事態宣言の判断指標ですから、バイアスがかかるような集計を意図的に行っている可能性は低いと考えます。
この問題は、タイムラグはありますが、検査データの陽性者数と感染者を比較すればチェックできます。
2021/08/13
2021/08/08
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尾身氏「人流の意味で人々の意識に影響」 五輪巡り見解 2021/08/12 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA12AUQ0S1A810C2000000/
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なぜ5割削減?「東京などの人出を5割削減」分科会提言の理由 2021/08/13 NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210813/k10013199071000.html
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Google Mobile Report
https://www.google.com/covid19/mobility/ Accessed: <2021.8.13>2021-8-11version.
https://news.yahoo.co.jp/articles/cbc7ffdf4069a76bb0026c6fd388296efc6f65eb
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