東京都の感染者数の予測モデルのチェック~コロナウイルスのデータサイエンス(226)

8月3日の感染者数が、3709人と出たので、7月20日起点のモデルのチェックが可能になりました。

自宅療養者も増えています。軽症が多い場合には、自宅療養自体は、当然と思いますが、米国で、既に普及したAIチャットボットアプリと、その次の遠隔医療の診察が、日本では、全くできておらず、政府は往診で対応するといっていますので、そのツケは大きいと思われます。2021/08/03 の朝日新聞の伝えている「在宅で酸素吸入ありえる」という対策は、医師会の抵抗にあって、AIチャットボットアプリと遠隔医療の診察を行ってこなかったツケを払うことになります。

8月1日のNHKのように、「入院した“感染経路不明”の人 多くが感染リスク高い行動 」という指摘もありますが、そもそも、行動データを集めて、分析していませんので、統計的には、信頼性は低い主張です。分析するよりも、予防アプリが不十分であった点が問題です。

また、オリンピックで、「プレーブック(規則集)違反」で、参加資格を取り消された選手がいますが、メダルは剥奪されていないそうです。これでは、参加しなくても(参加資格がなくとも)、メダルが取れることになります。公平性の点で、大きな汚点を残すことになります。

ともかく、データをとって、エビデンスに基づいて、公平に処理するつもりがあるとは感じられません。「プレーブック(規則集)違反」で、メダルを剝奪されないのであれば、飲食店は、ルール違反で、アルコールの提供をしても、飲食店は、営業の参加資格を取り消されるだけで、営業はできることになります。おそらく、皆、そんな風に、感じているのではないでしょうか。

「令和3年7月30日 新型コロナウイルス感染症に関する菅内閣総理大臣記者会見」では、菅首相は、「治療薬についても、大きな進展があります。これまで軽症者や中等症者には効果的な治療薬がありませんでしたが、こうした方の重症化リスクを7割減らす画期的な治療薬が今月19日に承認されました。既に使用を希望する全国の2,000を超える医療機関が登録されており、要請に応じて順次配送してまいります」と発言していますが、これは、「新型コロナウイルス向けの治療薬『抗体カクテル療法』」のことのようです。

中外製薬によれば、処置群n=736、対比群n=748、イベント(死亡)発生数7対24です。「現時点において、ロナプリーブは日本以外の国では薬事承認されていない」そうです。

その理由は明白と思われます。

「2種類の強力なウイルス中和抗体であるカシリビマブおよびイムデビマブは、ウイルスのスパイクタンパク質の受容体結合部位に非競合的に結合することで、SARS-CoV-2に対して中和活性を示し、ヒトの集団で発生したスパイクタンパク質に変異を持つウイルス株に対しても効果を示すことが期待されます」とありますように、「ウイルスのスパイクタンパク質の受容体結合部位に」働くわけです。これは、mRNAワクチンと同じ方法です。ワクチンの場合には、2回打てば、そのあとは、抗体を継続的に生産しますが、「抗体カクテル療法」は、投与した時にしか効果がありません。つまり、投与するタイミングがずれれば、効果が落ちます。さらに、時間をおいて、追加投与する必要があります。

簡単に言えば、ワクチンが十分にあれば、医療資源をひっ迫させる「抗体カクテル療法」を選択する理由はありません。これが、「日本以外の国では薬事承認されていない」理由と思われます。したがって、「抗体カクテル療法」は、手放しで、喜べる治療薬ではありません。ワクチン接種が進んでおらず、感染者数が少ない場合には、選択肢になりますが、医療資源がひっ迫している現状では、非常に問題が多いです。

さて、話を戻します。

図1に、いつものトレンドグラフを示します。7月31日版のGoogleの8月28日の予測は平均22860人(1日は、28135人)です。なので、グラフのスケールは、Google予測に合わせていません。

図2は、変異株率で、70%に達しています。

図3は、モデルの計算結果です。

8月3日で、実測平均3337人に、近い部分を黄色で塗ってあります。

増加率は、次の2種類です。

1.5+0.4=1.9

1.65+0.1 =1.75

7月31日の「東京都の感染者数の短期予測の評価~コロナウイルスのデータサイエンス(224)」では、増加率は、1.65から1.75でした。今回は、1.75から1.90で、3日で、少し増加していますが、妥当な範囲と思われます。

8月10日の予測は、5574から6314人です。

8月17日の予測は、8739から10368人です。

Googleの予測は、平均値で、8月10日が、5822人、8月17日が、9354人なので、筆者の予測と、ほぼ一致しています。

IOCも、JOCも、政府も、オリンピックの開催とコロナウイルスの感染の間に、因果関係はないと主張しています。しかし、この主張は、何と何を比較するかに依存します。

現状のコロナウイルスの感染拡大が十分に許容範囲内であると考えれば別ですが、現状で、感染拡大を抑えるには、ロックダウンをするしか、手はありません。ロックダウンすれば、当然、オリンピックは中止になります。オリンピックを中止にしたくないがために、ロックダウンが遅れれば、因果関係になります。その因果関係を作っているのは政治決断の手順ですから、統計処理する以前の問題です。つまり、政府やIOCは、因果関係を作り出している利害関係者です。利害関係者が、関係がないという場合には、「関係があると都合が悪い」ということを言っているだけです。それ以上の意味は、ありません。問題は、この利害関係が許容範囲にあるか、否かだけです。筆者は、ロックダウンには、賛成しませんが、役に立たない緊急事態宣言の判断基準以外の許容限界を明示してもらえないと、判断ができません。感染者数が、1万人はOKで、2万人はNGなのでしょうか。

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図1 東京都の感染者数の推移(左軸:人、感染者数、経路不明感染者数、右軸:%、Google Transitデータ、7月28日版Google予測データ)

 

 

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  図2 変異株率

 

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図3 モデル推定

 

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210801/k10013174281000.html?utm_int=all_side_ranking-social_004

  • 五輪関係者の参加資格剥奪処分は6人 プレーブック違反で 武藤事務総長「大変残念」 2021/08/01 デイリー

https://news.yahoo.co.jp/articles/72125e79b5a3cab33a83119196d4e561c5b5b390

https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2021/0730kaiken.html

抗体カクテル療法「ロナプリーブ点滴静注セット」、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対し、世界で初めて製造販売承認を取得 中外製薬 2021/07/19

https://www.chugai-pharm.co.jp/news/detail/20210719220000_1129.html

  • 感染増と五輪 組織委・武藤氏「総理は因果関係ないと」2021/08/01 朝日新聞アピタ

https://www.asahi.com/articles/ASP814D4ZP81UTQP00P.html

  • 報道発表 令和3年 8月(都内の変異株スクリーニング検査の実施状況)

https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2021/08/index.html

  • COVID-19 感染予測 (日本版)7月31日版

https://datastudio.google.com/reporting/8224d512-a76e-4d38-91c1-935ba119eb8f/page/4KwoB?s=nXbF2P6La2M

  • NHK特設サイト

https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/

  • 都内の最新感染動向

https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/

https://www.google.com/covid19/mobility/ Accessed: <2021.8.3>2021-08-01version.

 

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