利害関係者のスペクトラム

前回は、VRSの問題点を指摘しました。VRSの問題点は、因果で考えれば、発注者、または、発注組織の問題点になります。そうすると、組織の問題は、どこにあって、どうして、改善するのかが課題になります。 これは、VRSだけでなく、DXの欠陥にも共通して起こっていることです。

統計学やデータサイエンスでは、データの分布を考えます。基本は、連続分布です。正規分布は、計算のしやすさから、よく使われますが、現実にはあっていません。大数の法則は、母集団のサンプル数を大きくすれば、成立しますが、問題にしているのは、サブグループの分布なので、これには、大数の法則は、成立しません。ベイズ統計を使うと、任意の分布が使えますので、正規分布よりは少しマシになります。いずれにしても、データサイエンスでは、データの変化を連続分布形(スペクトラム)の変化としてモデル化して評価します。

VRSは、DX化レベルの母集団のサンプルの1つに過ぎません。つまり、組織のDXレベルをVRSのようなアプリレベルをサンプルとして、考えれば、各アプリのDXレベルにスコアをつけることができます。サンプルごとにスコアがつけられれば、ヒストグラムを作って、分布形を見ることができます。そして、DXの改善とは、この分布形をスコアの高い方に移動させることに対応します。

利害関係者と会食して、処分を受けた官僚がいます。利害関係者と食事をすることが問題になるのは、個人の利益が、組織の達成すべき目的よりも優先するからです。これは、組織の利益と個人の利益の比率を数値化すれば、スコア化できます。

 

個人の利益と組織の利益の優先順位が1:1なら、50点といった組織の利益優先のパーセントを考えるわけです。こうすれば、利害関係者のスペクトラムが得られます。データサイエンスで考えれば、問題解決は、連続分布形(スペクトラム)の改善になります。倫理規定違反で摘発された人を処分すれば、問題解決したと考えることは、スペクトラムを想定しませんので、データサイエンスでは、ありえない対応です。つまり、問題は、倫理規定に違反したことではなく、組織の利益より、個人の利益を優先しても良いという人が多いという組織の倫理感にあります。スペクトラムの一番スコアの低い人が、倫理規定違反をした場合に、減給などの処分をしても、スペクトラムのサンプルの極めて限定された部分にしか手が入りませんので、連続分布形はほとんど変わりません。倫理規定違反にならない範囲で、個人の利益を組織の利益に優先する人が多数いるはずです。

例えば、VRSは30億円以上、使っていますから、ポストの提供を受けるなどの便宜供与(個人の利益)につながる可能性があります。その場合には、VRSで、ワクチン接種を円滑に行うという組織の利益よりも、随意契約で、特定の企業に、ポストを得るという個人の利益が優先して、組織の本来の目的が達成できなくなります。

問題の赤木ファイルも、調査を利害関係者が行なっていますので、組織の利益が、個人の利益に優先している可能性があります。調査を利害関係者が行なっても良いとする判断は、個人の利益が、組織の利益に優先する判断です。

倫理規定違反にならなければ個人の利益を優先するスペクトラムの改善ができなければ、組織は崩壊します。官僚のトップが、忖度を求めるようになると、組織の利益より、個人の利益を優先することを強要しているようなものですから、DXの遅れではなく、個人の利益につながらないDXは、行動選択の優先リストに上がることありません。

データサイエンティストの見ているスペクトラムの世界は、政府や企業などの組織の利益を確保する点では、オーソドックスなモデルですが、政治家や官僚の行動との間には、大きなギャップがあります。

 

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