写真1が、柳沢柳坦(1864~1924)の石碑の案内板です。「柳旦」と書くこともあるようです。
野田礼子氏が、霞38号に、次のように、書いています。
近代の土浦に関する資料をひもとくとき、発行元としてよく目にするのが「柳旦堂」です。柳旦堂の主人は 柳沢鶴吉(1864~1924)といい、父柳旦のあとを継ぎ、医薬や書籍販売を生業(なりわい)としました。
鶴吉は書籍の販売だけでなく、編著者として本の作成に携わりました。明治 34(1901)年には霞ヶ浦沿岸 を自ら実地踏査し翌年『霞浦唱歌』を発行、その後土浦町付近より更に筑波地方を調査し、同 35 年には『筑 波山と霞ヶ浦』を刊行しました。従来の名勝記は水戸を中心としたものが多く土浦地方及び南部の勝地が詳しく紹介されたものがないことを、刊行理由としました。同 41 年に刊行した『名勝古跡 常山総水』の序文で は次のように述べています。
(中略)
郷土の歴史や風景を出版し広める―『名勝古跡 常山総水』の3分の1近くは商家や商店の広告で、柳旦堂 で扱う医薬や書籍の広告も多く、鶴吉は広告宣伝に積極的でした。名勝古跡の紹介記事には、所々に家業の傍 ら俳諧の道に精進した父柳旦の俳句も添えられています。自らも二世柳旦として土浦俳壇に足跡を残した鶴吉 は、郷土の歴史や風景と、それらを詠んだ文芸もともに記録し伝えようとしたのでしょう。 (野田礼子)
これを読むと、柳沢柳坦は、1世と2世の2人いたことがわかります。
2世の柳沢柳坦は、薬局の他に、出版社、作家でもあったようです。
国立国会図書館のデジタルコレクションで「柳沢鶴吉」を検索すると、次の資料が公開されています。
国立国会図書館デジタルコレクション
1 近世土浦小史 図書 柳沢鶴吉 著 (常南通信社, 1906) 2 現代之土浦 図書 柳沢鶴吉 (担堂) 著 (柳旦堂出版部, 1911) 3 酒醤油桶容量早算表 図書 柳沢鶴吉 著 (柳沢鶴吉, 1897) 4 常山総水 : 名勝古蹟 図書柳沢鶴吉 編 (柳旦堂東京出張所, 1908) 5 土浦の地理学者 図書 柳沢鶴吉 著 (放光堂柳沢浩, 1913)
出版の一番古い「酒醤油桶容量早算表 」は数表で、樽のサイズごとの容積を計算したものです。
つくば市北条の宮本家も醸造業でしたから、このころ醸造業は大きなビジネスでした。
野田礼子氏の記載に「従来の名勝記は水戸を中心としたものが多く」とありますが、
「吐玉泉と玉龍泉」を紹介した時の資料は、「常磐公園攬勝図誌 松平俊雄 編述 1885年」でしたので、このような案内を指していると思われます。
さて、柳沢柳坦一世ですが、調べられたのは、「明治俳諧の評価」に出ていた、次の記載だけです。
2.3.16 『茨城俳句史(1)史料編』
昭和60(1985)年12月刊の茨城俳句の会編『茨城俳句史(1)史料編』(茨城俳句の会)には「茨城の俳壇年譜」があり、そこには、他の資料に記載のない次の俳誌の刊行が記されている。
明28.05『柳の影』宝寿軒柳旦遺句集 明28.06『常陸土浦 宝寿軒柳旦居士小祥忌追福併不争軒柳旦二世更嗣号披露発句集』
これから、柳沢柳坦一世が、俳人としては、「宝寿軒柳旦」を名乗っていたこと、明治28年までには、亡くなっていたことがわかります。
写真2が、句碑です。製作年の記載がないので、時期は不明です。ただし、俳人としては、柳沢柳坦一世が、柳沢鶴吉(柳沢柳坦二世)より著名ですから、写真1の生没年が、間違っている(つまり、作者は柳沢柳坦一世)気もしますが、野田礼子氏が「自らも二世柳旦として土浦俳壇に足跡を残した鶴吉」とも言っているので、これで、間違いはないのでしょう。
なお、霞38号には、M40年頃の「土浦風光」という名前で次4枚を並べるとパノラマになる絵葉書がのっています。
①「土浦市街の一」②「土浦市街の二」③「霞ヶ浦々頭」④「霞ヶ浦沖宿崎」
矢口家住宅では、延焼のリスクが気になりましたが、「土浦風光」を見る限り、土浦の町は、小さそうです。
江戸時代から、明治時代まで、都市の死亡率は、農村より高く、都市は拡大できませんでした。その主な原因は下水道であると言われています。ですから、東京は別格として、明治時代は、都市は小さかったのです。
柳沢鶴吉は、1924年に亡くなりますが、その1年前の1923年に関東大震災が起こります。その頃は、渋谷村には狸もでたようですから、土浦市街が小さくて当然だったのです。
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霞 38号 H29/05/13 土浦市立博物館
https://www.city.tsuchiura.lg.jp/data/doc/1497143769_doc_44_0.pdf
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明治俳諧の評価
http://www.asahi-net.or.jp/~cf9b-ako/haikai/hyoka.htm
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