東京オリンピックとコロナ感染者数~集団思考の事例研究(6)

フレームワーク

フレームワークの議論という手法があります。自然科学のニュートン力学であれば、観測すべき変数と、方程式にのせるべき変数は、自明です。(注1)したがって、議論する場合には、観測データの精度や、方程式に見落とした変数がないかをチェックして、これらが、共通であれば、だれが、計算しても同じ答えが得られます。(注2)

社会科学の場合には、残念ながら、そこまで、共通の変数や方程式はありません。このため、議論を始める前に、変数と方程式の取り方に関する議論を行います。これが、検討のフレームワークの議論と呼ばれるものです。議論を進める場合、どちらの主張が通るかは、このフレームワークの取り方で、大勢が決まってしまいます。ですから、フレームワークをどのように設定するかは、交渉の場で、きわめて、重要な意味を持ちます。

残念ながら、日本は、国際交渉の場面で、フレームワークを有利に組み立てるということにほとんど成功していません。

政府が、政策目標にした、カーボンニュートラルも、こうしたフレームワークの一つです。後から、フレームワークに参加するとそれなりのコストを支払うことになります。例えば、テスラは黒字ですが、それは、カーボンの排出権の販売による収入が大きく寄与しています。その部分がなければ、現在でも、赤字のはずです。

さて、なぜ、フレームワークの話を持ち出したかというと、オリンピックの開催を、どうして決めるのかというフレームワークの議論が全くなされないからです。

NHKの特設サイトを見ると「各地の感染状況 5つの指標」がのっていて、「感染状況を示す4つのステージのうちどのステージにあるか判断」しています。しかし、これは、医療崩壊のレベルを示す指標だけです。

もちろん、この指標が、軽度のステージ1か、ステージ2にあるのであれば、コロナウイルスの配慮は不要ということですから、これでだけで、十分かもしれません。

しかし、ステージ3,または、ステージ4になると、コロナウイルスに配慮しないでは生活できません。

その場合には、経済や、失業者の状況、または、それに対する救済措置の状況など、考慮すべき要因の一部は明らかです。

残念ながら、特設サイトをみても、フレームワークは明示されていません。

知事の退院と東京都の感染者数予測

NHKに、よりますと、「過度の疲労のため6月22日から入院していた小池知事は6月30日に退院し、7月1日からは登庁せずにテレワークで公務を行って、7月1日の東京都のモニタリング会議に自宅からリモートで出席」しています。

「東京都のモニタリング会議で、専門家は、現在の増加比が続くと2週間後の7月14日には1日およそ724人となり、3回目の緊急事態宣言が出された4月下旬とほぼ同じレベルに、さらに、4週間後の7月28日には1000人を超えておよそ1043人と、年明けの第3波とほぼ同じレベルになると分析」しています。

日テレは、HNKと同じ内容を報道した後で、次のようにいっています。


さらに、厳しい予測もあります。オリンピックが始まる今月第4週にかけて人流が増え続けたうえ、オリンピック期間中に5%人流が増加するというシナリオでは、先程の試算よりも1000人に達するタイミングがやや早まります。そして2000人に達するのは、今月23日、オリンピックの開会式ごろになります。


7月2日の感染者数も660人で、13日連続で、前の週を上回っています。これから、感染が拡がったらどうなるのでしょうか。全く、不明です。

読売新聞は、次のように伝えています。


政府や組織委は、チケット販売が「5000人以下」に収まっている競技などについては、観客を入れられないかどうかを検討している。


この記事をきくと、うんざりします。というのは、意思決定のフレームワークが設定されていないためです。

フレームワークがあって、非公開ならまだしも、フレームワークなしに、短時間でまともな意思決定をすることは不可能です。フレームワークのある場合と比べれば、データの処理量が数倍になるので、時間当たりの処理能力は数分の一に落ちているはずです。これは、緊急事態に対応した意思決定方法ではありません。

消費者物価の変化とエコシステム

5月の消費者物価指数 去年同月比+0.1% で、1年2か月ぶりに上昇に転じています。

経済システムはポストコロナの新しいエコシステムに、突入しつつあると思われます。

米中対立があって、貿易が制限されますので、インフレになっていくと思われます。

インフレになると、インフレによる資産の目減りを期待しない限りは、財政赤字の処理が難しくなります。

フレームワークと、エコシステムは、似ていますが、フレームワークは、人間が設定するのに対して、エコシステムは、人間が決める部分と、技術進歩などによって、人間が直接関与せずに、決まる部分があります。

学問の世界で、エコシステムの交代は、パラダイムの交代に対応します。

学問以外の世界では、パラダイムの交代というと、クーンの学説の拡大解釈として、怒られますが、細かな点にこだわらずに、エコシステムの交代の意味で使われることも、多いと感じます。

30年続いた、デフレがインフレになれば、これは、大きなエコシステムの入れ替えです。アメリカを見ればわかりますが、インフレの方が、デフレより、経済は早く回りますので、貧富の格差は拡大します。この格差は、個人のレベルだけでなく、産業の分野でも生じます。

Wikiによれば、1994年に、ベゾスが、アマゾンを立ち上げたのは、「電子商取引の年間成長率を2,300パーセントと予測する、あるインターネットの将来についてのレポートを読んだ」ことがきっかけであったそうです。1995年から2020年の間のS&Pの平均株価上昇が4倍未満にとどまっているのに、対して、アマゾンは1500倍を超えています。証券会社は、株価の時系列で、この倍数に注目します。しかし、時系列は因果律ではありません。コンピュータシステムを多用していれば、コンピュータシステムが進歩するたびに、労働生産性が、上がります。労働生産性が上がれば、利益が上がるので、結果として株価が上がります。これは、因果律です。ただし、この法則は、アマゾンのような会社が競争に勝って生き残れば、こうなるだろうと推論するだけで、どの会社が生き残るかは、説明できません。ただし、アマゾンタイプの会社の株価上昇が、S&P平均より高くなる原因は説明できます。

現状で、この法則に当てはまらないのは、テスラとスペースXです。こちらも、コンピュータシステムを多用していますが、アマゾンに比べれば、はるかにリアルの世界です。マスクの頭の中には、理論または、ビジョンがあると思われます。全自動のロボット工場が可能になりつつあります。こうなると、コンピュータシステムの周囲にあるリアルシステムは、コンピュータシステムと同様に、進化することが可能なのかも知れません。

新しいエコシステムに早く、順応することは、生き残り、戦略では重要です。

 

注1:

生物の介在する過程は、組み込まれていないため、エネルギー収支があわないこともあります。

注2:

温暖化の予測がぶれるのは、フレークワークが緩いためです。

 

  • NHK特設サイト

https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/

  • 東京「4週間後 1日1000人超も」小池知事 リモート出席で危機感 2021/07/01 NHK

https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/tokyo-corona/detail/detail_83.html

  • 東京都で感染再拡大“1日2000人”試算も…英サッカー観戦で対策しても感染続出 五輪は 2021/07/01 日テレ

https://news.yahoo.co.jp/articles/9cbe88bdc647ab8563f11ef0b9b005b5fcc8063b

  • 【独自】東京五輪、一部「無観客」で調整…チケット再抽選結果も公表延期か 2021/07/02 読売新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/ec889dfb8c3c9c616ba8e3d0cad9fd8d0cfea5cb

  • 2015年基準 消費者物価指数 全国 2021年(令和3年)5月分 (2021年6月18日公表)

https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/index-z.html

  • 5月の消費者物価指数 去年同月比+0.1% 1年2か月ぶりに上昇 日経 2021年6月18日

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210618/k10013090971000.html

  • 5月の消費者物価0.1%上昇 エネルギーが押し上げ 日経 2021年6月18日 9:50 (2021年6月18日 11:57更新)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA17DX20X10C21A6000000/

  • 消費者物価(全国21年4月)-携帯電話通信料の大幅値下げをエネルギーの上昇が相殺

https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=67819?site=nli 2021/05/21 斎藤 太郎

https://ja.wikipedia.org/wiki/Amazon.com

 

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