灌漑効率の話
ウォーターフットプリントの話をする前に、灌漑効率について、おさらいしておきます。
視点は2つあって、
第1は、どのくらい効率が低いか(改善できるのか)
第2は、効率を上げても環境へのインパクトがないか
です。
第1の問題
水田を思い起こしていただけばわかりますが、水田の水のうち、稲の植物体に吸収される部分は、1%以下です。ほとんどが、プールの蒸発と地面への浸透に使われています。
そもそも、水田に、なぜ、水が必要かはわかっていません。どうして、そんな基本的なことがわかっていないかといえば、科学的と言われる研究方法論に問題があるからですが、ここでは、その点には、立ち入らないことにします。
わかっていることは、水があると、雑草が生えにくいこと、渇水に対するリスクが低くなることです。また、寒冷地では、保温効果があります。
なお、グリーンウォーター、ブルーウォーターの区分は、灌漑用水の水源の分類にかかわるもので、この1%の数字の大小を問題にしてはいません。
また、ダムから、水田に配分される水の50%は配送途中で、失われます。
ですから、ここにも、効率改善の余地はあります。この分野の技術は、ダムに見られるように、1000年以上前の技術が継続して使われています。
一方、バーチャルファーミングなどの最新の植物工場では、光、温度、水分、湿度の制御ができれば、水の量は、植物生理学的に必要なレベル近くまで下げることができます。
簡単に言えば、1000年前の馬車と、最新のEV自動車が混在しているような状態です。もちろん、20年前であれば、水田のようなフィールドでは、通信するだけでも、かなりの費用が必要でした。しかし、5Gになれば、通信費はほぼゼロです。スマートメーターも量産されて、価格が下がります。つまり、近未来に、この2つの山の間の谷はなくなると思われます。それが、全て、バーチャルファーミングになるのか、中間的な技術が出てくるのかは、わかりません。ただ、アフリカでは、数百年の変わらなかった通信環境が、10年くらいで激変しましたので、灌漑効率も、短期間に、激変する可能性があります。
第2の問題
水や、水に溶けた物質、水とともに移動する土砂は、自然界の物質循環の一部です。ダムを作ったり、水力発電をすれば、エネルギー効率や灌漑水量の面では、改善されますが、もともとの循環を乱して、生態系に影響を与えます。そのツケはどこかに出てきます。この影響は無視できません。
よく知られている例に、エジプトのアスワンハイダムがあります。砂漠に、ダムを作った結果、蒸発が増えて、雨が増えて、4000年前の遺跡の保存に影響がでています。
もっと極端な例は、アラル海でしょう。
特定の視点のメリットだけに注目して、効率性を追求して、循環を乱せば、環境破壊が起こります。
ここ10年くらい、日本では、森林をつぶして、太陽光パネルを設置していますが、その結果、蒸発散が減っているはずです。また、蒸発熱が小さくなるので、気温も上あがっているはずです。これも循環を乱しています。
人間が、生活する以上、循環を乱したり、環境破壊をすることは避けられませんが、被害を最小限にする工夫はできるはずです。
水田の水の灌漑効率が悪いことは事実です。今後のイノベーションで改善はできると思います。しかし、改善して、生じた余剰水をすべて、流域から取り出して使うことは、環境破壊のリスクが高いのです。
環境保全は、最終的には、どのような環境が善であるかという倫理の問題に帰着します。そして、倫理は、効率より優先することになります。
よく、科学は、価値を扱わないといわれますが、環境科学には、その公式は当てはまりません。では、科学は、価値を扱うことができるのか、あるいは、科学はどのように、価値を扱うべきが、重要なテーマですが、国内では、ほとんど検討されていません。
ただし、国際的に、見れば、流域生態系については、議論はかなり収束しつつあります。
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