今回は、「カーボン・オフセット」と「カーボンニュートラル」を見ておきます。
カーボンオフセット
環境省の説明は以下です。
カーボン・オフセットとは、日常生活や経済活動において避けることができないCO2等の温室効果ガスの排出について、まずできるだけ排出量が減るよう削減努力を行い、どうしても排出される温室効果ガスについて、排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資すること等により、排出される温室効果ガスを埋め合わせるという考え方です。
(中略)
国内での取組が進み、取組件数も年々増加した中、海外では、従来のカーボン・オフセットの取組を更に進め、排出量の全量をオフセットする「カーボン・ニュートラル」が注目されるなど、新しい動きが見られました。このため、海外の動きも踏まえつつカーボン・オフセットの一層の活性化を目指すために、2011年4月より「カーボン・ニュートラル等によるオフセット活性化検討会」が設置され、我が国におけるカーボン・ニュートラルのあり方や、カーボン・オフセットの取組活性化に向けた方策が検討されました。
これから、カーボンニュートラルは、カーボン・オフセットの特殊な場合であることがわかります。
2050年にカーボンニュートラルといった場合、2049年までは、ニュートラルではありませんから、正確には、カーボン・オフセットというべきです。
急に、用語が、カーボンニュートラルになったあたりは、胡散臭い気がします。
wikiは、次のようにいっています。
取り組みの流れ
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特定の活動によって、排出される二酸化炭素の量を算出する。
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(排出される二酸化炭素の量を削減する努力をする)。
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どうしても排出されてしまう二酸化炭素の量を排出権(クレジット、オフセット・クレジットとも呼ばれる)などを用いてオフセット(埋め合わせ)する。
つまり、エコロジカル・フットプリントと同じように、原単位計算に依存します。また、カーボン・オフセットでは、排出権取引をすれば、実際のCO2の排出量を変える必要はありません。
Wiredの記事は、この点を、次のように批判しています。
企業がカーボン・オフセットのためにクレジットを購入すると、温室効果ガス削減を目指す社外のプロジェクト(例えば、ウシのげっぷやおならによって発生するメタンガスをバイオ燃料に変える巨大マシンの導入や、インドネシアでの植林活動など)に資金が投じられることになる。ただし、オフセットの買い手である企業自身が、ビジネスのやり方を変えるよう迫られることはない。
カーボンニュートラル
wiki(英語版と日本語版)の説明は、以下です。
環境省のカーボン・オフセット制度の定義によれば、「市民、企業、NPO/NGO、自治体、政府等の社会の構成員が、自らの責任と定めることが一般に合理的と認められる範囲の温室効果ガスの排出量を認識し、主体的にこれを削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量について、『クレジット』を購入すること又は他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動を実施すること等により、その排出量の全部を埋め合わせることをいいます。」となっている。
(中略)
歴史 2015年にパリ協定を採択したCOP21の本会議。
2016 年、オックスフォード辞書は、米国で「カーボン ニュートラル ワード オブ ザ イヤー」という用語を作成した。
パリ協定から5年後の2020年12月、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、パリ協定の国々が行ったコミットメントは十分ではなく、尊重されていないと警告しました。彼は、他のすべての国に対して、カーボン ニュートラルが達成されるまで、気候非常事態を宣言するよう求めた。
(中略)
2019 年以降、マイクロソフト (2030 年)、アマゾン (2040 年)、ロレアル (2050 年) など、2050 年までにカーボン ニュートラルを達成することを約束する企業が増えています。
2020 年、世界最大の投資会社であるブラックロックは、気候変動と持続可能性を念頭に置いた意思決定を開始し、「持続可能性に関連する高いリスク」を表すと考えられる資産からの撤退を開始すると発表しました。 活動家は、同社がまだ石炭会社にかなりの金額を投資しているため、グリーンウォッシングを行っているとして同社を非難している。 しかし、CEO の Larry Fink の 2021 年の年次書簡の中で、彼はさらに、2050 年までにカーボン ニュートラルを実現する方法について明確な計画を策定し始めるように企業に求めた。
ここで、気になるのは、カーボン・オフセットを、カーボンニュートラルに切り替えた、仕掛け人は誰かという点です。
通常の日本の対応は、世界の国の中で、一番あとの方になることが多いのですが、カーボンニュートラルは、2020年12月、アントニオ・グテーレス国連事務総長のコミットメントより前です。
wikiをみると、2021年時点では、カーボンニュートラルを宣言した国は多いですが、これは、2021年の集計なので、日本が最後の方ではありません。
また、政府は、カーボンニュートラルが、新産業振興になるという辻褄あわせのビジョンを出していますが、そのビジョンは単なる辻褄合わせにすぎません。
一例は、経済産業省の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」ですが、同様のものを、各省庁がすべて作っていますので、詳しくは見ていません。
H23年の環境省の「カーボンオフセットの現状とカーボン・ニュートラル」では排出権取引のことが問題になっています。「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」には排出権取引のことはほとんど書かれていません。
H23年の問題意識は、排出権取引をしても、今後のCO2が増加しなくなるだけで、現状より改善するわけではないので、環境が良くならないのに、不当に、排出権を買わされることで、経済が疲弊するのではないかという疑問です。
今回のカーボーンニュートラル政策において、この問題点に対する説明はありません。つまり、カーボーンニュートラルは、技術革新を阻害し、効果のない排出権を買わされる可能性があります。
もちろん、この問題は、10年以上前からわかっていたことですから、具体的な政策を提案してこなかった政府に責任があります。これは、十分な準備時間を有効に活用できないという、今回のコロナワクチンと同じタイプの問題です。
まとめますと、問題点は、エコロジカル・フットプリントと同じです。
第1は、原単位の計算の信頼性です。
第2は、技術革新戦略が含まれておらず、排出権の売買は、技術革新を阻害する可能性があるという点です。
それから、第3に、問題点ではありませんが、フィクサーがいるとすれば、フィクサーを推定して、フィクサーの意図を読み解くことが必要です。これは、次の一手の予測に、必須になります。
次回は、原単位の問題点として、ウォーター・フットプリントについて述べます。
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カーボン・オフセット 環境省
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/mechanism/carbon_offset.html
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企業が取り組む「カーボンオフセット」には、もろ手を挙げて賛成できない事情がある Wired 2020/02/10
https://wired.jp/2020/02/10/do-carbon-offsets-really-work-it-depends-on-the-details/
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Carbon neutrality wiki (English)
https://en.wikipedia.org/wiki/Carbon_neutrality
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2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 経済産業省 R2/12
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201225012/20201225012-1.pdf
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/mechanism/carbon_offset/mats/ap01.pdf