社員の採用に、女性優先枠を設ければ、女性比率は増加するのでしょうか(1)~失われた30年の脱出方法

 

 公務員の採用などでは、採用に女性の比率の目標が設定されていることがあります。この方法では、採用にジェンダー問題の配慮をしていると説明されることがあります。しかし、結論から言えば、この方法は女性比率の向上には効果がなく、全くのまやかしで、ナンセンスです。

 

長くなるので、2回に分けます。

 

以下では、その計算方法を順を追って、説明します。

 

女性優先枠の計算

 

日本のジェンダー問題は、ジェンダー格差が大きく、世界で120位に位置します。

ジェンダー差別の解消に有効な手法は、女性優先枠の設定です。

優先枠の比率も、問題ですが、ここでは、ひとまず、50%としておきます。テクニカルには、過半数ということで51%という議論もありうるとは思いますが。

 

衆議院議員

 

衆議院議員では、解散があれば、女性優先枠を設定できます。1人区で、女性を最低1人は優先させるという方法で女性優先枠を使うと、1人区は全て女性になってしまいます。これは、選挙としては不合理です。かといって、選挙区間の調整をするのは、不自然です。この対策には、1人区を廃して、最低人数を2人区からにすべきでしょう。

 

参議院議員

参議院には、解散がありませんので、女性優先枠の適用は、最長では、6年かかります。改選は、半数ずつになります。1回の選挙で、入れ替わる人の比率を入替率と呼ぶことにすれば、参議院の入替率は1回の選挙に対して50%です。平均年率では、17%(6分の1)になります。

 

大学の学生

 

大学の学生に占める女子学生の比率は、入学定員に対して、女性優先枠を設定することで実現可能です。全学生が、優先枠の適用を受けるまでには、4年制であれば、4年、6年制であれば、6年かかります。

4年制の場合の入替率は年率で25%です。以下では、断らない限り、入替率は年率とします。

 

さて、以上は簡単な場合です。

簡単な理由は、次の2点です。

  • 入替率が高い。
  • 完全なブロック入替である。

ここで、ブロックとは、大学で言えば、1年分の学生定員の塊を指します。大学では、留年または、退学しなければ、学年が1つ進んで、4年制であれば、4年生が完了する時点で、そのブロックは、新規入学者に入れ替わります。

 

退学者が発生した場合、その欠員を中途入学で埋めることは可能ですが、広く行われているとは言えません。また、留年が増えると、学年単位でみれば、定員をオーバーする可能性があります。これは、実験、実習をする上で問題になります。この2つの発生数が増えれば、4年制の入替率は25%とは言えなくなります。

 

企業の社員

 

次に、複雑な場合として、企業を考えてみます。

説明をわかりやすくするための工夫として、企業の社員が100人だったとします。また、社員数は100人で変化しないと仮定します。これは、退職者と同数の採用をするという条件です。この2つが一致している場合には、入替率で検討ができます。

計算に必要なパラメータは次の4つです。

 

入替率(c=0.1;10%)

女性優先枠の比率(ff=0.5;50%)

社員の女性比率(fr1=0.2;20%)

退職者の女性比率(fr2=0.2、0.5;20%、50%)

 

()の中は、最初の試算で使う数字です。

10人が退職した場合、社員の女性比率と退職者の女性比率が同じで、ともに20%と仮定します。採用者に50%の女性優先枠を設定すると、採用者に占める女性の割合は、5人になります。2人やめて、5人採用するので、差し引き女性は3人増えます。100人に対して、3人ですから、3%増えることになります。

 

次に、出産退職などの影響があって、退職者の女性比率は、社員の女性比率より高く、50%としてみます。この場合、退職する女性が5人、採用する女性が5人ですから、差し引きはゼロになり、女性比率に変化はありません。これから、わかることは、女性比率の変化は、採用する女性の比率と退職する女性の比率の差に依存することです。

 

以上の検討は、1年分になります。退職者の女性比率を20%に戻して、2年目以降を考えます。1年目と2年目の違いは、社員の女性比率が23%に上がっている点です。これに、合わせて、退職者の女性比率も23%に上がっていると仮定します。

3年目以降も同じような繰り返し計算になりますから、手計算ではなく、表計算ソフトか、プログラムを書いた方が簡単です。この処理は、次回に扱うことにします。

 

入替率(c=0.1;10%)

女性優先枠の比率(ff=0.5;50%)

社員の女性比率(fr1=0.23;23%)

退職者の女性比率(fr2=0.23;23%)

 

入替率の課題

 

以上の検討では、入替率を10%としていました。ジョブ型雇用では、入替率10%はありえない数字ではありません。しかし、年功型雇用では、入替率は低くなります。22歳で採用されて、52歳で定年になれば、30年働きますから、年率は3.3%(1/30)になります。1990年頃はこの数字です。最近は、70歳定年になると、50年近くなりますから、2%(1/50)になります。パラメータは以下です。

 

入替率(c=0.02;2%)

女性優先枠の比率(ff=0.5;50%)

社員の女性比率(fr1=0.2;20%)

退職者の女性比率(fr2=0.2;20%)

 

 

繰り返し計算は面倒なので、女性優先枠の比率が1.0の場合を考えます。この方針は、女性比率が目的値に達するまでは、女性のみを採用するということに相当します。定年で、退職すると考えれば、新規採用差の女性比率が増えて、社員の女性比率があがっても、退職者の女性比率は変わらないと仮定します。

 

入替率(c=0.02;2%)

女性優先枠の比率(ff=1.0;100%)

社員の女性比率(fr1=0.2;20%)

退職者の女性比率(fr2=0.2;20%)

 

 

この条件で考えると、毎年0.4人の女性が退職し、2人の女性が採用され、差し引き1.6人女性が増えます。100人当たりで、1.6人ですから、比率は、1.6%です。

1年目の女性は20人です。これを50人にあげるには、30人増やす必要があります。その年限は、18.75年(30/1.6)です。

 

同様に、概算ですが、女性優先枠が100%ではなく、50%の場合には、1年あたり0.6人しかふえませんので、50年(30/0.6)かかります。現在行われているジェンダー改革というまやかしは、この方法です。

 

入替率が3%の場合も検討して見ます。

 

入替率(c=0.03;3%)

女性優先枠の比率(ff=1.0;100%)

社員の女性比率(fr1=0.2;20%)

退職者の女性比率(fr2=0.2;20%)

 

この条件で考えると、毎年0.6人の女性が退職し、3人の女性が採用され、差し引き2.4人女性が増えます。100人当たりで、2.4人ですから、比率は、2.4%です。

1年目の女性は20人です。これを50人にあげるには、30人増やす必要があります。その年限は、12.5年(30/2.4)です。

 

同様に、概算ですが、女性優先枠が100%ではなく、50%の場合には、1年あたり0.9人しかふえませんので、33.3年(30/0.9)かかります。

 

つまり、女性優先枠は、入替率が低い場合には、効果はないのです。これから見れば、年功型雇用は、ジェンダー差別を温存する原因であり、人権侵害です。