春闘とIT化に関係はありますか(失われた30年の脱出方法)

失われた30年の脱出方法

 

ここでは、失われた30年の脱出方法を考えてみたいと思います。

 

ものを考えるとき、テーマ設定は重要です。

脱出方法が、すぐにわかるわけではありませんが、テーマ設定をすると、潜在意識が、それに対して、働きますので、設定しない場合とは、大きな差が出ます。

とはいえ、この問題は、既に、多くの人が検討していますから、素手では、勝算はありません。そこで、ここでは、次の2つの方法論を使うことにします。

 

第1は、因果モデルです。

少子化問題、高齢化問題など、今の社会で、重要と思われる問題は、リストアップされています。しかし、問題のキーワードは、結果に対して、与えられていることが多いです。重要なことは、結果ではなく、原因に着目することです。例えば、少子化問題と高齢化問題は、出生率と平均寿命の問題に分解できます。また、高齢化問題が、社会保障の問題につながるのであれば、これは、雇用問題に分解できます。対策を考える上では、原因に着目しないと、解決は、難しくなります。

 

第2は、認知バイアスです。

これは、厄介な問題ですが、気が付いたところから修正していくしかないと思います。特に、年功システムの雇用による認知バイアスは広くあります。エリート中のエリートの山口真由さんも、米国留学で、初めて、認知バイアスに気付いたと言っていますから、バイアスがない人を捜すのは、困難なレベルです。

 

表現形式は、Q&Aが読みやすいかと考えています。今までとは、書き方が違いますが、今回は、この形式で試してみます。

 

タイトルを見て、自分なりの解答を考えてから、読んでいただければと思っています。

 

なお、順番は、思いついた順です。

 

ある程度溜まったら、整理したものを整理して、混乱を避けるため、別のサイトに投稿するつもりです。これは、ここで、書いている他の原稿も同じで、読み返して、再利用に値するものを、順番を入れ替えてまとめたいと考えています。

 

 

春闘とIT化に関係はありますか

 

ジョブ型雇用で、IT化が進んでいる社会を考えます。(注1)IT技術が進歩すれば、最新のIT技術を習得した若い労働者と、一時代前の技術しか使えない労働者の賃金はどうなるでしょうか。賃金が成果主義で、出来高払いで支払われるのであれば、新しい技術を持った労働者の賃金は高く、古い技術を持った労働者の賃金は低くなるはずです。(注2:)つまり、成果主義の賃金体系であれば、賃金は、毎年減って行くはずです。春闘とは、全く逆です。

 

成果主義では、基本賃金は毎年減少する。(公式1)

 

これが、自由主義社会の自然な姿です。

 

それでは、古くから働いている労働者は、どうしたら、賃金を上げることができるでしょうか。その方法は、一旦、退職して、再教育を受けることです。再教育を受ければ、賃金が回復します。これは、古くなったパソコンを使い続けると、取り残されることと同じです。退職して、再教育を受けることは、次の賃金アップのチャンスですから、労働者には大きなモチベーションがあります。

 

人生100年計画で述べられている、学習と仕事のサイクルを繰り返すというのはこうした状態を言っています。年々生産性が低下しているのに、賃金が上がり続ければ、ITなどを再学習するモチベーションはありません。

 

つまり、春闘とIT化は両立しないのです。

 

注1:

ジョブ型雇用で、IT化が進んでいる社会は、論考の基本になるので、ジョブ型IT社会という名前をつけておきます。

 

注2:

もちろん、読むだけで、直ぐに理解出きる人もいます。その場合には、再教育を受けるまでもなく、技術進歩についていけるでしょう。しかし、こうした人は、少数の例外なので、ここでは、対象外としています。

 

 

ジョブ型雇用で新卒の初任給を上げれば、DXに対応できるでしょうか

 

DXに遅れて、技能のある新卒の初任給を上げる企業が出てきています。しかし、ここには、大きな認知バイアスがあります。

 

公式1を再度取り上げます。

 

 

成果主義では、基本賃金は毎年減少する。(公式1)

 

この公式では、IT企業では、採用時の給与が一番高く、後は、再学習しないと、給与が下がり続けることになります。しかし、実際には、IT企業でも、賃金が下がり続ける訳ではありません。

企業活動を行う上で、求められるスキルは次のようなものでしょう。

 

  • 汎用スキル(G)
  • G1:理論の習得
  • G2::理論の応用(実務)
  • 個別スキル(S)
  • S1:ルールの理解
  • S2:ルールの応用(実務)

 

つまり、公式1は、G1に対応する給与です。このほかに、G2に対応する部分は別です。これですと、賃金が毎年減少する訳ではなくなります。この混乱を避けるために、公式1では、賃金ではなく、基本賃金という単語を使っています。しかし、G2は、年齢が上がれば、自動的に上がるものではありません。おそらく、3から5年程度の実務があれば、後は、年数に関係なく、その時の実績が、給与に反映します。これは、開業医の収入体系をイメージすれは理解できます。このG2に相当する部分を応用賃金と呼ぶことにします。

 

成果主義では、応用賃金は実績を反映する。(公式2)

 

成果主義でも、アウトカムズが出るまでには時間がかかります。ですから、全ての賃金が、アウトカムズで評価はできません。この場合には、スキルに応じた基本賃金が支払われ、成果依存部分は、成果が出てからの変動部分になります。一見すると日本のボーナスの変動に似ています。しかし、ボーナスは、広く、全被雇用者に支払われるのに対して、成果主義は、直接的な関係者にのみ、割り増し賃金が支払われます。その割合も、基本賃金よりは大きくなります。さらに、転職する時には、前企業での実績が、最初の給与に反映されます。簡単に言えば、高いボーナスをもらっている人は、能力が高いだろうということで、引き抜かれ、再就職した企業では、前企業でのボーナスを含んだところから、給与の交渉が始まります。アメリカの企業のCEOの所得は高いですが、決して不合理に決まっている訳ではないのです。このように、転職を繰り返すことができれば、給与は上がりますから、転職出来ない人は、成果の上がらない人ということになります。

 

汎用スキル(G)と個別スキル(S)の違いは、他の業界に転職しても使えるノウハウが汎用スキル(G)で、使えないノウハウが個別スキル(S)です。

 

欧米の企業では、賃金は、汎用スキル(G)に対して、支払われます。なぜなら、労働生産性は、この部分にかかわるからです。IT化の進展で、Sの部分の占める割合は、ゼロに近くなっています。給与がGに対して支払われないことが、日本企業の問題点です。

 

年功型賃金(個別スキル)を採用している企業(多くの日本企業が当てはまります)で、ジョブ型雇用の新卒の初任給を上げるという中身には、汎用スキル(G)に依存するジョブ型雇用を理解できていないものが多くみられます。それでは、成果はあがりませんし、優秀な人材は確保できません。ここには、なんでも、一度は年功型システムに置き換えて、考えるという認知バイアスがあると思います。