フュージョンと良い写真をめぐる考察(12)

ライティングのはじまりフュージョン

今回は、ライティングのはじまりについて考えます。とはいえ、筆者は、基本的には、ストロボや反射板を使わずに、ある光(Available light)で撮影しますので、ライティングのテクニックについては、語る資格はありません。

最初に次の命題からスタートします。

「どのカメラでも、良い写真は撮れる」

これは、筆者が言っていることではなく、カメラメーカーが言っていることです。それは、カメラのパンフレットやカメラを紹介するメーカーのHPの撮影サンプル画像を見ればわかります。どんなに、安価なカメラでも、良い写真がのっています。詳しく見ても、大きな傷はありません。カメラメーカーは、各カメラの宣伝にサンプル写真を掲載しています。Jpegであれば、データが公開されているので、筆者は、一時期、このJpegデータが撮影の参考になるのではないかと、ダウンロードして、眺めていたことがありますが、ほとんど、参考になりませんでした。その理由は、ライティングが完全であれば、良い写真をとるのにカメラはほとんど、関係がないからです。(注1)屋外の写真でも、晴天の光が良いときには、どのカメラでもよく写ります。高価なカメラでは、飛んでいる鳥の画像がのっていることもありますが、滑空状態が多く、羽ばたいている状態は少ないです。撮影してみれば、わかりますが、カメラの性能は、撮影の難しい場面での成功打率です。ライティングの良い状態で、被写体の動きが遅ければ、普通のカメラで、うまく撮影できて当たり前です。自動車の燃費性能は、10モードで評価されます。走行状態毎に燃費を計測して、重み付き平均を作ります。本来、カメラの性能も同じように、難しい撮影条件を設定して、各場面の成功率に重み付き平均にすべきです。(注2)こうした真面目な性能評価結果を公開してこなかった結果、カメラの購入は、自動車で言えば、燃費や走行特性のデータがなく、大きさとデザインだけで購入するような状態になっています。

では、どうして、ライティングが良いことが、前提になったかというと、筆者は、これは、フィルムカメラのレガシーを引きずったためと考えています。

フィルムカメラ時代には、ISOは100で、その後400が普及しますが、粒子が荒くて、画質が悪かったです。特殊な用途では、ISO800やISO1600が使われていましたが、画質を問題にできるレベルではありませんでした。黄色の色乗りの綺麗な、コダクロームはISO64で、更に感度が悪かったです。こうなると、晴天の屋外以外は、ライティングしないと写りません。室内写真では、ライティングして撮影するか、自然光では、F値の小さな単焦点レンズで、三脚を使って撮影する必要がありました。

写真1は、2004年に発売されたNikonの大型コンデジCoolPix E8400で撮影したものです。このカメラは800万画素ですが、WEBで見るには、写りに不満はありません。F5.7 、1/245secで撮影していますが、ISO50です。現在のデジカメの最低ISOは100か200です。このカメラは室内では、電球の光では不足で、ストロボをたかないと、写真がとれません。このカメラは、撮影データをいったん、バッファメモリーに保存してから、コンパクトフラッシュに保存しますが、保存するので20秒くらいかかり、その間は、モニターに砂時計マークが表示されます。このカメラは、綺麗な写真が撮れることと、広角24㎜相当の写真が撮れるので、筆者は気に入っていた。しかし、砂時計マークが出て保存に時間がかかること、室内では、一番安いコンデジ以下の性能になってしまうことから、周囲の人からは、筆者が、骨董品のようなカメラを使っていると思われていたようです。確かに、このカメラは、デジカメの性能から見ると異端ですが、フィルムカメラの性能から見れば、正統的な性能をもっています。おそらく、このカメラの設計者は、ISO100のフィルムカメラを越えることを狙っていたと思います。データの保存時間が長いことも、室内で、ストロボなしで撮影できないことも、デジカメから見れば異端ですが、フィルムカメラの基準で見れば、ストロボ必須、巻き上げは手動ですから、何の不満もないはずです。

つまり、いいたいことは、フィルムカメラ時代には、ラィテイング(とISO)については、目のフュージョンを考えて、写りの良さと写真の不自然さのバランスをとるという選択の余地はなかったということです。

デジタルになって、目のフュージョンを考慮したライティングとISOの選択が可能になりました。さらに、長時間露光やマルチショット合成もできます。したがって、ラィテイングを中心にしたフュージョンには、フィルム時代の常識は通用しません。しかし、フィルム時代のカメラマンが撮影できなった自然光をうまく利用した傑作写真が撮れる可能性がありますから、チャレンジする価値のある分野です。

話は以上です。以下は、蛇足です。

暗所の撮影で、ISOを固定して、長時間露光にするのか、ISOをあげて、シャッター速度を稼ぐのか、どちらが良いのか、判断できないでいます。そもそも、長時間露光も、高ISOも目のフュージョンを越えているので、フュージョンをちょっと外した写真が撮影できれば、インパクトがありますが、外れすぎると顕微鏡写真のような印象になります。筆者は、フィルム時代のレガシーと言われそうですが、いまのところISO1600以上は使いこなせていません。また、以前も書きましたが、ISOが広がってしまったので、プログラム、マニュアルを中心にしたカメラのモード設定は不合理で使いにくいです。このモード設定を使うと、どうしても自動ISOを使うことが多くなりますが、これは、できれば避けるべきとおもっています。なぜなら、フュージョンを考えて写真撮影では、撮影時のISOは絞りや、シャッター速度と同じレベルで、意識する必要があるからです。とはいえ、モード設定を使うと撮影の失敗を避けるために、自動ISOは必要悪になりますが、筆者は、その場合でも、レンジをできるだけ狭く取るようにしています。

タイトルと異なり、ライティングについては何も書けませんでした。3点ライティングなどが効果があるのはわかるのですが、ライティングを完成させればさせるほど、自然さは失われます。これは、すっぴんか厚化粧かみたいな議論です。歌舞伎に見るまでもなく、伝統的な芸能は、厚化粧で、光の不足を補います。一方、映画では、製作者の意図で、かなりのばらつきがあります。むかしのハリウッド映画では、室内セットが今より多用されていたように思われます。これもライティングの問題かもしれません。スタンリー・キューブリックバリー・リンドン(1975年)では、プラナー50mm F0.7のレンズをつかって、ろうそく明かりのシーンが撮影されましたが、これは、例外的と思われます。ただし、現在のデジカメはセンサーの感度があがっているので、F1.2くらいのレンズがあれば、ろうそく明かりのシーンは撮影できると思われます。ライティングでは、適正な自然な影を作ることがポイントだと思われます。

注1:

キャノンなどのカメラメーカーは、撮影スタジオ向けに、ライティングが完全でも、微妙な部分で差が出る高級大型カメラをつくっています。ただし、差は小さいです。WEBでは、まず判別できないと思います。また、最近は追いつきましたが、一時期、キャノンのセンサー性能は、ソニーより劣っていました。しかし、そのことは、高級カメラの売上に影響しませんでした。これは、撮影スタジオのように、ライティングが完全であれば、センサー性能、特に、高感度特性は、写りに関係しないためと思います。

注2:

昔のキャノンのコンデジには、フォーカスブランケットがついていました。これは、焦点を標準、少し前、少し後にずらした画像を連射するものです。フォーカスを完全にすることで、シャッターチャンスを失うよりも、許容範囲であれば、フォーカスが不正確でもとりあえず撮影する方がよいという設計思想です。最近の瞳フォーカスの性能は驚異的です。カメラから見た、人間の鼻と目の高さの違いは小さいですが、犬の場合は、鼻が目よりかなり前にでていますので、最短距離で、焦点を合わせると、鼻に焦点があって、目に焦点が合わなくなります。高い瞳フォーカス精度のカメラでは、この問題が回避できます。筆者は、犬の散歩がてらに、犬の写真を良く撮ります。最近は、焦点のあった写真ばかり見ているので、少しでも、目に焦点のあっていない犬の写真は、ピントずれとして、消去します。しかし、ユージン・スミスの写真を見たら、最近の写真のようには、目に焦点があっていませんでした。目に焦点が合う(合いすぎる)と、見ている人は、そこに引き付けられますから、写真全体のバランスが変わってしまいます。写真全体をみてもらいたい場合には、目に焦点が合いすぎるのも問題です。この問題は、フォーカスとフュージョンとして、論ずべきかもしれませんが、現在は、瞳フォーカスが最強のソニーの機材は使っていないので、とりあえずスキップしています。

 

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写真1 ISO50の写真