COCOAと公共の情報化(4)

COCOAの例

コロナウィルス接触アプリのココアのアンドロイド版が2020年9月28日版から2月中旬版(未だ未公開のパッチ)まで、陽性者と接触したにも関わらず通知されない不具合がありました。COCOAの開発・保守運用を行っている事業者からの報告により発覚しました。厚生労働省では、再発防止策として、事業者に対して品質管理の徹底を指示するとともに、同省側でも専門家の増員を予定しています。

クロスプラットフォームで開発されていなかった可能性が高い。(パッチに2週間もかかる。)

厚生労働省など関連省庁のコロナ陽性者と接触する可能性のあるセクションでは、このアプリがまったく使われていなかった可能性が高いです。

ここには、システム開発の冗長性がありません。

三井住友銀行ソースコード漏洩の例

1月28日、三井住友銀行SMBC)のシステムに関するソースコードが外部のウェブサイトに無断で掲載されていることが発覚しました。同じく委託先と思われる警視庁、NTTデータなども含まれていました。掲載したのはSMBCの委託先企業に勤めるシステムエンジニア(SE)でした。問題のSEは勤務歴20年だが年収は300万円ほどで、自分が作成したソースコードから年収を診断できるGithubのサービスを利用するために掲載したそうです。

銀行のシステムは、完全に時代遅れの可能性が高いです。年収300万円のSEでメンテナンスできるシステムは、体力勝負のCOBOLのシステムくらいしか想像できません。GitHubにソースをアップしたようなので、COBOLということはないと思いますが、よほどレガシーなシステムでないと、このレベルのSEさんでは務まらない(経済合理性がない)と思います。

ここには、システム開発の冗長性がありません。

自治GISの例

茨城県筑西市の都市計画図は、PDFで画像が公開されているだけでGISデータは公開されていません。また、公開の計画もありません。これは、筑西市だけの問題ではなく、多くの自治体も共通します。北陸や東北では、ツキノワグマに人が襲われることがあり、ツキノワグマの出没情報が公開されていますが、データテーブルは、tidyではなく、使うのは容易でありません。また、位置情報は、kmlファイルで公開している自治体が多いのですが、新潟県のように某GISの会社に、WEB用の専用アプリの開発を依頼して整備しているところもあります。その場合には、kmlファイルすら、ダウンロードできなくなっていました。これでは、本末転倒です。これは、3年くらい前の状況で、最近は、追跡していません。日本のGISデータの公開レベルは悲惨なレベルです。

10年くらい前に、赤毛のアンで有名なプリンスエドワード島に観光でいったときに、GPSのデータをどこで、作ろうかと検索したところ、GISデータが公開されていることがわかりました。日本の自治体では、GISデータの情報公開のタイムテーブルすらあがっていませんので、問題外と言えます。

そういえば、茨城県も、新潟県と同じように、わけのわからないGISシステムを取り入れています。こんなところにお金をかけているので、筑西市の都市計画図のGISデータが公開されていないのだと思います。情報化でコストダウンするには、標準化とデータ公開が基本で、閉鎖的な専用アプリを作るのは、PCが出てくる前の1980年代の発想です。

ここでも、やはり、システム開発の冗長性はありません。

まとめ

ここで、システム開発の冗長性といっているのは、2グループで、一部重複して、システム開発をおこなうという意味です。たとえば、COCOAであれば、開発・保守運用を行っている事業者の他に、他の業務を行っている業者にソフトのテストを依頼すれば問題は回避できます。あるいは、三井住友銀行ソースコードであれば、2業者を入れて、お互いに、一部重複させた仕事の依頼をすれば、情報管理の監視が相互になされます。GISでも、開発業者以外に、システムの設計や仕様をチェックさせれば、不必要な開発が回避されます。これは、「同省側でも専門家の増員」では解決できません。

この手法は、建築などでは広く行われています。設計を依頼している建築事務所から設計図があがってきたら、別の建築事務所にチェックやアドバイスを依頼する方法です。基本的には、間違いは起こりうるとして、手順を決める必要があります。無謬性を前提とすると、こうした冗長なシステム開発や業務の冗長性は無駄な経費と見なされるようになります。(注1)

公共事業の場合には、建設会社が、設計図通りに工事をするかが問題になります。鉄筋を抜いたり、施工しやすいように、セメントに過剰に水を加える(強度が出なくなる原因)ことがないかを、以前は、公務員が工事現場にいってチェックしていました。最近では、公務員はクレーマーが多い地元対応が大変だということで、建設会社の責任施工になって、工事中の証拠写真を添付する、後で、トラブルが生じた場合には、建設会社が無償で、補修する方法に切り替わっています。ソフトウェアの場合には、誰が責任をもってチェックするシステムになっていたのでしょうか。それとも、公務員の世界なので、仕事には、間違いはないという前提で、ソフト開発を行っていたのでしょうか。ソフトウェアには、バグはつきものなので、間違いはないという前提は、10年以上使われ続けた古参のコードを除けば、まず、ありえないと思いますが、そうした、計算論的思考の常識は通用しなかったようです。

注1:

公共施設には、稼働していて、機能はするが、明らかに、設計ミスと思われるものが多数あります。

 

  • Prince Edward Island GIS Data Layers

http://www.gov.pe.ca/gis/index.php3?lang=E

  • いばらきデジタルマップ

https://www2.wagmap.jp/ibaraki/Portal