計算論的思考と人文・社会科学(4)~帰納法と演繹法をめぐる考察(11)

計算論的思考と人文・社会科学(4)

基準化とユーザーインターフェース

今回は、基準化とユーザーインターフェースの問題を取り上げます。

基準化

基準化とは、規格を定めて、製品の互換性を確保する手法です。規格は、複数あって構いませんが、類似の性質のものは、一つにまとめます。メーカーは、規格に準じた製品を開発する義務はありませんが、現実問題として、規格外の製品のマーケットは小さいので、経営的には不利になります。

  • 消費税の表示

3月末を越すと、商品の価格は、税込みで表示するようにしなければならないようです。しかし、基準化の考え方をすれば、基準を決めることと、基準にあった製品を作ることは別です。これを消費税に当てはめれば、例えば、次のよう基準を作ればよいと思われます。

  • 消費税込みの価格 999円のように、価格の数字をそのまま記載する。

  • 消費税を含まない価格 (999)円のように、価格の数字を()で、囲む。

スマホのアプリであれば、()付きの数字を、レンズで読み込めば、消費税込みの価格を表示することは簡単です。基準化をしないで、強制的に表示方式を統一させることは、横暴です。

  • m43マウント

レンズ交換式カメラの場合には、マウントと呼ばれるレンズの規格があります。残念ながら、基本は、各社独自の規格で、非公開が多いです。数少ない公開された規格にm43があります。この企画は、主に、オリンパスパナソニックが作ったのですが、カメラとレンズが、ハード的に差し込め、レンズが電気的につながっているだけで、それから上位の互換性はありません。たとえば、オリンパスのカメラに、パナソニックのレンズを取り付けた場合、自動焦点は作動しますが、レンズについている絞りリングは無効になります。ズームレンズの場合に、パナソニックのレンズは、本体がパナソニックの場合には、ズームしたときの画角は、カメラに表示されますが、オリンパスのカメラでは表示されません。レンズについている手振れ防止機能は、レンズとカメラが同じメーカーでないと作動しません。

インターネットの通信規格は、OSIの7レイヤーで、規定されています。一番下は、ハードが接続できること、次が電気信号のレンジのレベルで、最終的には、ソフトウェアで制御できるレベルに達します。この考え方は、USBの規格にも反映されています。カメラで通信を行う器具は、リモコンとストロボですが、この2つは、まったく基準化されていません。メーカーによっては、2グループのリモコンを販売している例もあります。カメラメーカーが弱小になると開発リソースが制限されて、リモコンやストロボは選択の余地が少ないことが多いです。サイドパーティのリモコンやストロボもありますが、規格が公開されていないので、メーカーの純正品とどこまで互換性があるのか不明です。

カメラメーカーは、基準化の効果を理解していません。弱小メーカーであれば、基準化のメリットは大きいはずです。リモコンやストロボは自社で開発すべきではありません。通信規格を基準化して、公開すれば、スマホアプリで、使いやすいリモコンソフトが出てきて、それに対応したカメラの販売も可能なはずです。例えば、スマホの画面を見ながら、複数のカメラのレンズを連動してパノラマ動画を撮影するアプリをつくることも可能です。

ユーザーインターフェース

ユーザーインターフェースは、マウスや画面のタッチ操作で、パソコンやタブレットを操作することを思いうかべると思います。しかし、ユーザーインターフェースには、認知科学的な意味もあります。たとえば、このブログでは、RAW画像の現像ソフトを紹介しています。モジュールの操作で、パラメータの数字を設定する場合には、スライダーを使います。キーボードから、直接数字をいれることもできますが、オプション的な扱いになっています。これは、数字を覚えるより、スライダーの位置を覚える方が人間には、はるかに優しいからです。人間の認知には限界があり、あまり複雑なものを、取り扱い、覚えることができません。ユーザーインターフェースは、視覚に訴えることで、この限界を緩和してくれます。

  • 消費税率の区分

消費税が10%に上がった時に、食料品の税率は8%のままに据え置かれました。その結果、コンビニで、同じ食品を持ち帰る場合には、税率が8%、イートインで食べる場合には、税率が10%になりました。しかし、この制度は、ユーザーインターフェースを無視しています。ユーザーインターフェースの悪い製品や制度を作れば、誤操作や事故が続出します。これは、計算論的思考では、仕様設計のミスです。

自衛隊が軍隊か、あるいは、合憲かという議論が昔からあります。これも、計算論的思考で考えれば、ユーザーインターフェースの仕様設計の間違いです。筆者の意見は、どちらでもよいです。問題は、不適正なユーザーインターフェースでは、事故が多発します。しかし、この点が、議論されることはありません。

  • 土地利用計画

土地利用計画は、都市計画の中心をなす制度です。この法律は、都市の拡大に伴う農地のスプロール化を契機に、本格的に導入されましたが、過去にまともな成果を全くあげていません。今世紀になっても、依然としてスプロールが繰り返されています。計算論的思考にたてば、土地利用関連法規のユーザーインターフェースは最悪です。規制の抜け道が多数あります。簡単にいえば、劣悪なユーザーインターフェースで、事故が多発している事例です。

  • まとめ

認知的に人間が処理できるパラメータの数は最大で7つと言われています。プレゼンで使えるパラメータの最大数は3つと言われます。平面図に書いて関係が理解できるのは2次元、つまり、パラメータが2つまでです。非常にパラメータの多いシステムを作ると、認知できないので、事故のもとになります。パラメータが多い場合には、次元縮約をおこない、メインのパラメータを3つ程度に絞ります。それ以外のパラメータは、通常は固定して運用します。これが、ユーザーインターフェースの裏にある認知科学に合理的なシステム仕様の考え方です。現在の法制度の多くは、意図的に理解できなくするために不必要な複雑さを導入しています。そのための専門家も多数いますが、ユーザーインターフェースがまともであれば、これらの専門家はほとんど不要のはずです。つまり、労働生産性の向上に寄与していませんので、日本が貧しくなる原因でもあります。

今回のタイトルには、人文・社会科学が入っています。これは、人文・社会科学では、計算論的思考は、異端であるという意味です。今回の「基準化とユーザーインターフェース」の事例でも、その意味が理解できるはずです。