問題の所在
昨年から検討しているエコシステムの課題のポイントは、次の2点です。
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エコシステムの交代の切り口で考えると、物事が整理しやすい。
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IT(データサイエンスもその一部)の進展によって、エコシステムの劇的な交代が起こっており、この流れを、止めることができない。
例えば、現在の仕事の半分以上は、将来入れ替わることが不可避と予想されるのですが、こうした情報を入手した場合の基本的な反応は、自分の仕事は当面は関係がないだろうという態度です。これは、カーネマーン流にいえば、現在の仕事は、ヒューリスティック(ファスト回路)で行っていますから、仕事をゼロから組み替える(スロー回路)を使うことはないだろうと考えます。その理由は、スロー回路を使うことは、エネルギー多消費になるからです。これは、コロナウィルスの感染が拡大しているという情報が入手できても、自分だけは当面はコロナウィルスにかからないだろうと考える場合にもあてはまります。
ところが、現在の仕事の半分以上は将来入れ替わるということは、半分以上の経営組織が組み替えになることを意味します。つまり、IT(データサイエンスもその一部)の進展後に生き残るために、組織改革ができるか、組織が存続できず解散して、新しい組織に乗り換えるかの2つの選択肢しかありません。そのままの組織形態では、IT(データサイエンスもその一部)の進展後のエコシステムに対応できないために、絶滅することになります。
新年最初のお題(テーマ)を何にしようかと考えましたが、以上のように考えますと、これからは、組織、特に、問題のある組織の改革はどうしたら可能かという問題が重要なことがわかります。この問題を、定式化したのは、アルバート・O・ハーシュマンです。そこで、今回は、ハーシュマンの定式化「離脱・発言・忠誠」とエコシステムの交代を考えてみます。
ハーシュマンのアイデア
ハーシュマンは次の2つの部分からなっています。
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組織に対する個人の対応は、「離脱・発言・忠誠」の3種類しかない。
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組織に対する個人の対応には、対象にかかわらず共通点があるはずなので、単純から複雑、簡単から困難に順番付けて検討できる。
多くの文献は1.のみを指摘していますが、筆者は2.もあると考えます。
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「離脱・発言・忠誠」はつぶれそうに傾きかけた組織では大きな問題になります。実際に、会社を首になるか、会社は倒産すれば、収入面で大きなダメージを受けます。しかし、これを直接の対象にすることは難しいです。そこで、スタートには、商品を購入する消費者の例が上がります。
ある商品を購入した人が商品に不満をもった場合に取りうる対応は3種類です。
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忠誠:不満はあるが商品を購入しつづける。
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離脱:不満があるので次回は商品を購入しない。
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発言:商品に対する問題点をメーカーに伝えて改善を促す。
これが、製品を作っている組織マネージメントの問題になると次になります。
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忠誠:不満はあるが組織の方針にしたがって、同じ製品(欠陥商品)を作り続ける。
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離脱:製品に不満があるので組織を離脱する(退職する)。
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発言:商品開発などの組織マネージメントについて改善意見を述べる。
ハーシュマンは解決策を示しているわけではなく、問題解決主体を考えると、3種類の道しかないこと、この点を考慮すると問題解決への道筋が見やすくなることを述べていると思われます。
例えば、郵便貯金の保険商品の不適切販売問題や、自動車メーカーの燃費データの捏造問題など、販売しているサービスや製品に問題が生じた場合には、対象者を処罰するだけでは、問題の再発を回避できないので、「発言」を製品開発や組織マネージメントに組み込んでいくことが必要になります。それが、不十分であれば、問題は再発するわけです。
学術会議問題や、官僚の人事問題で、「忠誠」を強要する一方で、IT化については、デジタル庁を新設するという政府の対応は、どう見ても、ハーシュマンの「離脱・発言・忠誠」の視点が欠如しているわけで、ハーシュマン流に言えば、うまくいくはずがないということになります。
次回はエコシステムの交代との組み合せを考えています。
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Albert Otto Hirschman
Exit, Voice, and Loyalty: Responses to Decline in Firms, Organizations, and States