世襲制政治とエコシテムの交代(1)

政治と経済のエコシステムを考えます。長いので、分けて書きます。

エコシステム交代の課題

日本の経済成長が、失われた30年になり、新しい企業が現れない状況は、古い企業が、新しいエコシステムから取り残されていく状況に対して、新しいエコシステムを活用した新しい企業が現れない状況と言い換えてもよいと思われます。

政府の成長戦略は、古い企業に、新しい部品を付け加えるという古いエコシステムから見た発想になっていますので、成功することはありえません。新しい企業の企業戦略は、新しいエコシステムのメリットを最大限に引き出して、競争優位に立つためには、どうしたらよいかという視点で設計されます。この場合に、古いエコシステムをどうするかということは、まったく配慮されません。より、正確に言えば、次の比較を考えればよいと思います。

企業A:新しいエコシステムを最大限に生かすサービスを提供する商品戦略をとります。組織マネジメントや、経営判断のためのデータ収集にも、あたらしいエコシステムを最大限使います。

企業B:古いシステムを温存しながら、新しいエコシステムを生かすサービスを提供する商品戦略をとります。古いエコシステムは、順次、新しいエコシステムに置き換えます。組織マネジメントや、経営判断のためのデータ収集も、順次、あたらしいエコシステムに置き換えます。

企業C:新しいエコシステムが普及しても、適応できないので、古いエコシステムで、ビジネスと組織マネジメントを続けます。この戦略は、歴史文化遺産として生き残る場合に有効ですが、マーケットは小さいです。

企業D:古いエコシステムに依存したビジネスと組織マネジメントを放棄して、新しいエコシステムに依存したビジネスと組織マネジメントに切り替えます。これは、組み合わせパターンとしてはあり得ますが、実際には、古い企業を倒産させて処理して、新しい企業に切り替えることになり、現実にはあり得ない手法です。

こうした企業Aと企業Bがあった場合に、企業Aは生き残り、企業Bは淘汰されます。企業Aのすべてが生き残るわけではありません。実際には、企業Aタイプの戦略をとる企業A(1)、企業A(2)、企業A(3)...が現れ、その中で、パーフォーマンスのよい企業だけが生き残ります。この状況では、比較劣位になる企業Bの戦略は、経営資源の配分ではありえない戦略になります。

新しいエコシステムは、古いエコシステムから、時間をかけて順次交代します。エコシステムが交代する間は、古いエコシステムに依存したサービスや商品が売れ続けます。古いエコシステムの代表は、新聞、紙の書籍、テレビ放送、ガソリン自動車、紙の選挙システムなどが当てはまります。

自動車を例にとります。

テスラは、企業Aタイプです。電気自動車は、充電できなければ走りません。テスラは、充電網の整備と電気自動車の販売をセットで行っています。つまり、エコシステムの整備と電気自動車の販売をセットで行っています。こうした販売方法は、古くは、レールを引いて、鉄道を走らせる方法でした。最近では、アマゾンがクラウドサービスのエコシステムの整備とネット販売をセットで行っている例が知られています。

トヨタは、企業Bタイプです。トヨタのハイブリッドは、ガソリンスタンドの古いエコシステムに依存しています。充電網の新しいエコシステムが整備されると、ガソリンエンジンは、車の価格を押し上げる無用の長物になります。ガソリンエンジンの開発チームも解散するしかなくなります。トヨタがテスラのように、自前で、充電網を整備することも可能かもしれません。これは、ガソリン自動車やハイブリッド自動車の開発費用の回収を困難にします。したがって、自社では、取りにくい戦略になります。簡単に言えば、クリスチャンセンのイノベーションのジレンマに達しています。

ここで、日本の輸送の歴史を振り返ってみます。

自動車の前の交通機関は、幹線は、舟運から、鉄道に代わり、その後、高速道路に変化します。末端は、馬車から自動車に代わります。

高速道路は、最近でも建設しています。また、田舎にいくと軽トラックしか入れない細い急な道がたくさんあります。こうしてみると、実は、ガソリン自動車の販売において、エコシステムの整備がセットで行われてきたわけではないことがわかります。実際に、自動車向けの道路整備は、揮発油税の導入によってすすめられました。(注1)つまり、商品を売って、そのあとで、利用可能なエコシステムを整備するという手法がとられてきたのです。これは、新しいエコシステムを構築しながら電気自動車の販売をするテスラのビジネスモデルとは大きく異なります。つまり、ガソリン自動車の販売は、エコシステムを乗り換えることで拡大したわけではないのです。逆に、自動車時代の前の古いエコシステムはそのままにして、まず、自動車を販売して、それから、エコシステムを順次調整する手順がとられました。この手順は、日本の都市計画や道路に大きな歪みをもたらします。これは、当時、発展途上国であった日本にとってはやむを得ない選択であったかもしれません。しかし、先進国である現在は、エコシステムを後回しすべきではありません。

このエコシステムの交代の問題には、政治が大きく関与するので、この点を次回に考えます。

まとめます。エコシステムの交代がある場合には、新しいエコシスムに適応した新しい企業だけが生き残ります。日本経済の復活には、エコシステムを中心にビジネスモデルを構築する新しい企業が必要と思われます。そのためには、こうしたビジネスモデルをサポートする政治が不可欠です。

 

注1:

揮発油税は、田中角栄が提案し、1953年にできます。道路特定財源としての揮発油税は2009年に廃止されています。