アレクサンドル・カントロフのショパンのピアノ協奏曲2番を聞いて

2019年チャイコフスキーコンクール優勝のAlexandre Kantorowは、コンクールでは前例のない第2番の協奏曲をひいたようです。ということは、普通に演奏しても、効果が上がりにくい曲を料理することが得意と思われます。CDも数枚出ているようですが、ショパンの協奏曲2番は、オランダ室内合奏団のバックで放送されたものです。既に、You tubeにも同じ音源がアップされていますが、筆者は、オランダラジオ放送で聞きました。

ピアノが始まる前のオーケストラの前奏部分で、既に、オケが粘って、細かな表情を付けてきます。ピアノが入ると、ピアノも負けずに細かな表情を付けて、ショパンの最初のピアノ協奏曲にも関わらず、大協奏曲の佇まいです。ショパンのピアノ協奏曲の今までの先入観を打ち砕くような演奏です。ここまで、細かなニュアンスを付けた演奏は、CDでは、 ツィマーマンとポーランド祝祭管弦楽団以来と思います。

前世紀の即物主義の影響が、1990年頃から薄くなり、音楽は演奏者の主観を反映するロマンチックな解釈に移ってきていますが、それでも今までは、例えば、ベートーベンであれば、ダイナミックが音楽の本質にあり、フォルテのないベートーベンはタブーでした。しかし、最近ではそうしたお約束よりも、演奏者のセンスを優先するように変化してきていると思います。この演奏も、従来のショパンの協奏曲のイメージで聞くと、まったく別の曲のように響きます。初恋の協奏曲のイメージはほとんどないと思います。

この協奏曲の演奏で、特異なものはフランソワによるもので、特に、第2楽章は、フランソワ独自の歌で紡いでいる感じです。これは、好き嫌いが大きく分かれる演奏と思います。カントロフの演奏は、独自のアクセントをつけていますが、それは、フランソワのような逸脱を感じさせることはありません。ただし、ショパンの協奏曲の解釈も新しい時代に突入しているのだということを実感させるものではあります。