洋上風力にみる温暖化対策の技術開発の課題

来年度の予算編成が決まりました。ひたすら、お金をバラまくだけの予算です。これは、病人であれば、ひたすら治療費を増やせば、病気が治るという考え方です。病人を治すには、データを集めて分析して、原因を取り除かなくてはなりません。メタボになったら、しっかり、トレーニングして、余分な脂肪を取り除く必要があります。いかに、高いビタミン剤を飲んでも、メタボは治りません。

日本の産業構造は、メタボ構造になって、IT化に対応できていません。対応するために、お金をばらまくことは無駄です。現在は、まともな企業であれば、ファンディングで、必要ならお金を調達できます。予算が必要というのはまともでない企業が多いはずです。

温暖化対策もお金が一人歩きしています。最近、政府は温暖化対策に、洋上風力を開放する方針に切り替えました。この問題を例に、温暖化対策の技術開発を考えてみたいと思います。

洋上風力の入札には、日本の企業が、EUの企業と組んで応募したようです。どうして、日本の企業が単独で入札できなかったかというと、その理由は、技術がなかったからです。これは、企業の技術者がさぼっていたというわけではなく、技術を育てる場がなかったからです。

海洋エネルギーの場合には、実証試験を洋上で行う必要があります。ところが、洋上は、漁業権が設定されていて、漁業者との調整が必要です。より、正確に言えば、日本では、洋上は国のものですが、漁業者が歴史的に洋上で魚をとって生計をたてていた経緯があるので、一般的には、洋上の権利としては、既存の漁業者の漁業権が優先的に設定されています。洋上で実験をする場合には、漁業者の了解を得る必要がありますが、漁業者が洋上を所有しているわけではないので、漁業者も主体的に調整に応じられる立場にはありません。今回、洋上風力が許可される予定ですから、政府が漁業権の調整に動いたことになります。

EUでは、2010年くらいから、グリーンエネルギーの技術開発をするために、政治的にいろいろな便宜が図られています。イギリスの場合には、海岸の半分以上は国王(女王)の所有物で、ローヤルエステイトという組織が実質管理しています。漁業者は、国王から、洋上を借りていることになります。この漁業権の調整を企業がバラバラに行うことは非効率で、グリーンエネルギーの技術開発の阻害になるということで、スコットランド政府が2010年ころから調整を始めて、コクニー諸島の沖合に、海洋エネルギーの実験場を設定しました。実証実験をしたい企業は、政府に、実験場の使用料を支払えば、時間のかかる調整をすることなく、技術開発ができる環境が整備されてきたのです。海洋では、およそ想定外の外力が働くこともありますから、実証試験をしないと実用化に耐える施設の設計技術が育たないのです。今回は、実証試験ではなく、いきなり実用化プラントの設計ですから、日本企業でこれに耐えられる技術を持っているところはないわけです。

それでは、日本では2010年頃にできなかったことが、どうして最近できるようになったのでしょうか。おそらく、最大の原因は人口減少と漁業者の減少、漁船の減少と思われます。ここ10年で、漁船の登録台数は20%くらい減っています。つまり、反対者が減ったから動いたと思われます。

温暖化対策の自然エネルギーで最も有望なものが、地熱発電です。これは、国立公園内に適地が多いこと、温泉との競合が考えられることから、開発が進んでいません。このような場合でも、開発か、保全かはなく、できるだけ他に与える影響の小さい地熱発電の技術を開発するような実証試験エリアを設定すべきと思われますが、現在の施策は、どのように技術を育てるかという視点が欠けていて、お金をバラまくことに終始しています。しかし、この方法では、外国企業の売り上げを伸ばすだけで、国内の企業が技術を伸ばすことはできないでしょう。