デジタル教科書とクラウド・エデュケーション(1)

デジタル教科書の課題

読売新聞を見ていたら、デジタル教科書の導入が話題になっているようです。ですが、その内容を見ていたらあまりに時代錯誤なので、絶句してしまいました。問題をデジタル教科書に矮小化すべきではありません。今回は、IT化で今後の教育がどう変わるかを考えてみます。

とはいっても、問題を、デジタル教科書から起こすことにします。

読売新聞によるデジタル教科書の要点をまとめますと次になります。

  • パソコン等の端末を一人1台準備する。

  • 紙との互換性:デジタル教科書は紙の教科書の内容をデジタル化したものである。教科書の定義が制度的に紙にしか対応していないので、こうした信じられないことが起こります。

  • 有償:デジタル教科書は、有償で紙の教科書より高価である。

基本的に、江戸時代に迷いこんだような話になっています。

ここでは基本事項のみを確認しておきます。

紙との互換性

デジタル教科書は紙の教科書と互換にすべきではありません。デジタル教科書であれば、喋る英語の教科書、計算する数学の教科書を簡単につくることができます。講義や実験のビデオもデジタル教科書に入れることができます。デジタル教科書は、狭義には、epubやPDFなどの電子フォーマットの教科書ですが、広義には、ネットワーク上のリンクやクラウドを含むものになります。教科書は、必要に応じて、毎月、アップデートすべきですし、コロナウィルスの拡大や、今年のノーベル賞受賞者などの最新の話題も取り入れるべきです。教科書の検定自体が必要かどうかわかりませんが、仮に検定するとしたらクラウドサービスを使って、毎月のアップデートに合わせられるように、アップデートデータ作成から、遅くとも1週間以内に指摘と修正を終えるようにする必要があります。これは、特に速いわけではなく、現在のIT企業の普通のビジネス速度です。

有償

義務教育は公共経済学でいう公共財です。誰もが、ただで教育を受けられることが、国民経済的に合理的です。例えば、識字率が低いと、企業は労働者に、文字で指示をだすことができません。これが、経済発展を阻害することは明白なので、税金を使って教育することが合理的なのです。高等学校の無償化が議論されていますが、公共財の視点からは、その前に、就業前教育の無償化や演習書を含んだ教材の無償化が優先する課題です。これが、優先しないのは、選挙の票になりにくいためと思います。

義務教育の教科書や教材は本来は無償であるべきです。教科書や問題集が購入できないことで、教育格差がつくことは、公共財の面で非効率であるだけでなく、教育機会の平等性の面でも望ましくありません。現在の教科書が有料になっているのは、無償にしてしまうと、企業が教科書を印刷して販売すると赤字になってしまうので教科書が供給されなくなるからです。紙媒体の教科書では、印刷製本に実費がかかりますので、それに見合った価格を付けているわけです。義務教育では、政府が購入しるので、無償ではありません。

デジタル教科書の場合には、印刷製本費用はかかりませんので、教科書を無償にしても供給されないことはありません。教科書の作成にかかる編集費用は配布数にかかわらず一定です。著作権の問題が生じますが、これは試験問題が著作権の対象外であることと同じように例外規定を作るか、ダウンロード数にかかわらない一括支払いができるようにすべきです。また、その費用は税金で支払うべきでしょう。また、義務教育に使うということであれば、著作権を部分的に放棄する人も出てくると思います。

なお、フリーのデジタル教科書は、米国ではすでに多数で回っています。例をあげておきますが、「K12、textbook」などのキーワードで検索すればわかります。

日本語では、フリーの教科書は、大学の先生が講義ノートを公開しているものくらいしか、見当たりません。少なくとも、米国のように複数の人間がチームを作って、フリーのデジタル教科書を作っている事例はほとんどありません。教育関係者で、この点を問題にした人をしらないのですが、問題になっていないのでしょうか。

次回は、クラウド・エデュケーションについて考えます。

 

  • Openstax: K-12 Free Digital Textbooks

https://www.merlot.org/merlot/viewMaterial.htm?id=887590

  • Michigan State Free School Textbooks K-12

https://freekidsbooks.org/michigan-state-free-school-textbooks-k12/