極上の焼き芋の焼き方(41)

温度と反応の課題

おことわり:

健康料理法に関する本は90%以上がポスト真実で埋め尽くされています。食事でガンが治ったという本はまず、100%ポスト真実です。焼き芋の焼き方に関するWEBや文献もやはり9割がポスト真実です。

化学反応を理解するには、移動速度論がわからないと話になりません。また、これは、微分方程式で、表わされ数値が求まりますので、プログラム言語に関する基本的な知識、数値計算法に関する基本的な知識が必須です。しかし、この条件をクリアしている人は、半分にも達していません。

ポスト真実を避けるには、裏をとる必要があります。ある文献を調べたら、矛盾した結果を提示している文献がないかをチェックする必要があります。この水準に達している文献は2割以下と思われました。

また、ポスト真実を避けるためには、内容をよく理解している人が、レビューを書く必要があります。焼き芋に関するまともなレビューは存在しません。探し方が悪いのかもしれませんが、誰もが引用する基本文献で、レビューに相当するものはありません。

それでは、お前がレビューを書けばいいだろうといわれそうなので、断っておきますが、ここまで、ポスト真実が多いと、外部の人間は、何を信じてよいのかわからないので、とてもレビューはできません。

ですから、今後も今まで通り、文献は当てにせず、実験で真実を確かめることに重点を置くしかなさそうです。

ともかく、今回は、なぜ、ポスト真実なのかを説明してみます。

 

  1. 化学反応と温度

文献によって違いますが、化学反応を起こしやすい温度がわかっています。

 

糊化 65.8から80度

糊化 76度から81度

糊化 50度から80度

糊化 72度から開始

βーアミラーゼ反応:60から65度で活性化し、75度まで働く

水溶性βーアミラーゼ反応(中心55度)65度で失効

不溶性βーアミラーゼ反応(中心75度)85度で失効

結合型β-アミラーゼは 70から80度で活性化

ペクチン-: 50から80度:硬化、80度以上:軟化、100度:分解

注意:以上温度で問題になるのは、糊化の温度と、βーアミラーゼの活性が失われる温度が接近していることです。おそらく、最適温度は、75度から80度の間の5度くらいしかないと思われます。なお、芋の品種で最適温度が異なるという文献もありますが、化学反応から考えれば、反応温度は一定のはずで、これはポスト真実と思います。もちろん、JAなめかたのマニュアルのように、加熱温度が異なるのは当たり前ですが、反応温度は変わらないはずです。

 

2.加熱制御の精度

2番目は、調理における温度制御の精度の問題です。簡単な制御では、気温の影響を受けてしまいます。

制御工学で言えば、多点の温度センサーの値をもとに、多点のヒーターを制御する方法が現代制御、1点のセンサーで1つのヒーターを制御する方法が古典制御です。古典制御の場合には、そのままでは、ハンチングが起こるので、積分によって安定化を図りますが、そうすると、温度制御が緩やかになる代わりに、温度のオーバーやアンダーが起こります。

いずれにしても、制御の精度はケースバイケースです。

 

3.温度分布の問題

加熱制御では、説明を省略しましたが、恐らく、最大の難点は、サツマイモの温度分布です。

例えば、図1は、品川(2012)にのっている加熱時間と温度の関係です。この実験は鍋にサツマイモを入れて、ガスで加熱しています。サツマイモの焦げ付きを防ぐために、サツマイモは2重にアルミホイルでおおわれています。図から、分かるように。鍋の温度は200度に達しますが、サツマイモの中央の温度は100度どまりです。

サツマイモの温度が100度を越えないのは、サツマイモに水分がある限り、気化熱で、温度上昇が抑えられるためです。ですから、加熱温度が100度を大きく超えるときには、加熱温度は、サツマイモの温度が100度まで上がる時間に関係するだけで、サツマイモの温度には直接関係しません。

図2は、同じ文献のサツマイモの温度と糖度の関係をしめしています。この図をみると、温度が30度を過ぎたところで、糖度があがっています。

しかし、これは、変です。なぜならば、温度が50度未満では、糊化が起こらないので、麦芽糖が生成されないはずです。また、結合型(不溶性)β-アミラーゼは 70から80度で活性化するので、これも効いていないはずです。

つまり、水溶性βーアミラーゼは糊化しなくとも作用すると考えるか、温度分布の問題を考えないとせつめいできません。

焼き芋の温度分布に関する文献は少ないです。図3は、松田(2010)にのっている、電子レンジの加熱のデータで、上が出力小の場合、下が出力大の場合です。試料は直径4cm、高さ4cmの皮をとった円筒形のサツマイモの切片です。r=0cmが中央、r=1.5cmが表面から0.5cmのところになります。

出力が小で、温度差は20度、出力が大で、温度差は60度あります。これは電子レンジなので、中央の温度が一番高くなりますが、ガス加熱の場合には、皮付近の温度が一番高くなるはずです。

図2の温度は中央ですから、中央が30度でも、皮近くの温度が60度以上になって糊化が始まっている可能性があります。

4.実験

電気鍋の保温モードはほぼ80度で一定です。サツマイモ(紅はるか)を洗って、ジップロックに入れ、電気鍋に水を張って、保温モードに設定して、温度が80度になってことを確認してから、サツマイモを入れた、ジップロックをお湯にいれて、3時間30分して引きあげてみました。結果は、焼き芋になっていませんでした。おそらく、ジップロックに入っていた空気が断熱作用をして、サツマイモが80度にならなかったためと思われます。

このように、一定温度にする方法は、規定温度に達しないと反応が進みません。徐々に温度を上げていく方法の方が、失敗はすくないと思われます。

 

 

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図1 焼き芋の温度変化の例

 

 

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図2 温度と糖度の関係

 

 

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 図3 中央と周辺の温度

 

  • 鍋加熱による焼き芋の簡易調理法の開発-ガスコンロの場合- 品川 弘子 東京聖栄大学紀要第4号(2012)

https://tsc.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=3535&item_no=1&page_id=13&block_id=45

http://id.nii.ac.jp/1342/00001059/