デパートと大学の共通点

トヨタ自動車が新人の採用に大学の推薦枠を廃止するというニュースが流れてきました。

今回は、(総合)大学(University)とデパートの共通点を考えてみます。

デパートの売り上げの落ち込みは大きく、既に、デパートのない都道府県も出てきています。

ちょっと前までは、デパートに行けば、「価格は定価で安くはないが、高品質のものが、なんでそろう」ということで、一定の信頼を得ていました。

しかし、現在では、デパートには、普及品しかなく、何でもそろうのは、ネット販売になってしまいました。また、ほとんどの製品は、先進国ではなく、人件費の安い発展途上国で生産されていますので、デパートにいっても、日本製の製品が買えるわけではありません。つまり、たいして高品質でもない製品しか買えなくなりました。さらに、同じ製品であれば、ネット販売の方が安いし、すぐに手に入るようになりましたので、デパートの長所は消えてなくなりました。特に、百貨店として、売れない(回転率の悪い)製品をかかえていると、全体が割高になります。かといって、置いてある商品を限定すれば、百貨店ではなくなってしまいます。

同じような問題は、本屋さんも抱えています。しかし、本屋さんの場合には、目利きが言えば、一定のロイヤリティの高い顧客は残ると思われます。逆に、TUTAYAさんのように、ランキングの上にある本を棚に置く戦略では、ネット販売との差別化が難しくなります。

さて、話を大学に移します。(総合)大学でも、売れない(希望者の少ない、就職口の少ない)学科が存在します。この場合には、特定の学科や学部をやめてしまうと、(総合)大学ではなくなります。このために学科の希望者が少ないと定員を削減しますが、学科を廃止することはまれです。これは、デパートであれば、特定の売れない商品の売り場を廃止することに対応します。その結果、旧態依然とした学科が、定員を減らしながら、存続することになります。

例をあげます。獣医学科は1990年代に、国際獣医資格ができ、そのために必要な学習単位を現行の日本の大学では満足できなくなりました。そのためには、たとえば、A大学、B大学、C大学にある獣医学科を、A大学に集中して、教員数を増やして、講義数を増やす必要があります。この場合には、B大学とC大学からは、獣医学科がなくなります。獣医学科だけではなく、学科の定員が削減している場合には、大学を越えた学科の再編が必須ですが、これが進みません。アメリカの場合には、アイビリーグの大学の評価が一般には高いですが、学科別のランキングになると、アイビリーグ以外の大学で、特定の学科に資源を集中している場合も多く見られます。つまり、百貨店スタイルの総合大学は放棄している場合も多いのです。

トヨタが大学推薦をやめていますが、大学推薦で入社するのは、機械学科の学生だけではありません。工学部には、造船学科という船の作り方を研究、教育する学科があります。現在の日本の企業は造船業からほとんど撤退しています。つまり、まともに考えれば、造船学科に進学しても就職できません。実際に、造船学科の卒業生の就職策として、シェアの大きい分野は自動車産業関連企業です。自動車産業関連企業に就職するのであれば、自動車の設計や自動運転について教育を受ければよさそうに思われますが、造船学科では、こうした知識は教育されません。ある意味では、時間と、税金を含めたお金の無駄です。それが今まで通ってきたのは、企業が大学での教育に期待をせずに、採用後、企業内研修や、現場教育(OJT)で知識を身につけさせる方針をとってきたからです。しかし、AIや自動運転は、新しい技術ですから企業内研修や、現場教育(OJT)で知識を身につけさせることは不可能です。つまり、今までの、企業と大学の関係は崩れています。そして、この体制の維持を推奨してきたのが、文部科学省になります。企業が、大学卒業の学生が、即戦力になる生きた知識を身に着けていると確信できれば、推薦制度は維持できます。しかし、トヨタの判断は、卒業資格には、価値がないといっていることになります。卒業資格に価値を出すためには、知識のレベルが想定した水準に達していない学生を落第させるしかありません。しかし、現状では、落第する学生の比率が高くなると、教育指導が不適切ということで、補助金の削減対象になります。ですから、卒業資格には価値はありませんし、博士の学位にも、経済的な価値はありあません。

インターネットが広がる前は、専門知識は、専門書や専門雑誌にしか掲載されておらず、それらは高価でしたので、大学の研究者以外はアクセスできなかったです。大学の先生は偉かったです。現在は、専門知識にだれでもアクセスできます。特に、英語の文献が普通に読めれば、国内の日本語の文献は時代遅れで、問題外のことも多いです。英語のできない学生と英語のできない先生が、日本語で講義している授業は、半分以上が時代遅れです。これは、例えば、自動運転のシステムについて学習しようと思えばすぐに、理解できる現実です。

ということで、結論です。トヨタの今回の動きを見ていれば、デパートと同じような(総合)大学の余命はあまり長くないと思います。