コロナウィルスとビッグデータ疫学(2)

疫学と構成主義科学

疫学や、EBM(根拠に基づく医学)が大学の医学教育で確固たる位置を占めるようになったのは、今世紀に入ってからです。それまでは、経験に基づく医学や、構成主義の医学が幅を利かせていました。疫学が重視されたのは、こうした従来のアプローチが行き詰ったためです。

従来の構成主義の医学の典型は、コッホの3原則です。病気には、特定の原因があり、その原因を取り除けば、病気はなおるか、病気にかかることを防ぐことができるという前提で医学が進みます。

しかし、ガンや生活習慣病には、単独の特定の原因があるわけではありません。薬を飲んで治療する(病気を治す)よりも、病気にならないように健康に配慮する方が費用もかからないし、効果が高いことが多いです。

現在、死亡者数の多い病気は、特効薬がない病気が多く、特効薬がない理由は、単独の原因で病気が引き起こされないためです。さらに、厄介なことは、今まで単独の原因と思われてきた病気が、必ずしもそうは言い切れない事例があることです。典型例は結核で、予防接種で、感染の広がりを防ぐことが、日本では国策で進められてきましたが、WHOのインドでの追跡調査(疫学調査)の結果、栄養状態が良い場合には、予防接種をしなくとも、重症になることはほとんどないことが分かっています。病気の原因は、はっきりしていますが、それよりも、栄養状態の方が、発症や死亡には大きく寄与するのです。健康状態が良い場合には、病気にかかっても発症することがなく治ってしまうのであれば、栄養状態を管理する方が、予防接種よりも、望ましい対策になります。栄養状態の良い人にBCGを打っても、打たない人に比べて有意な差が見られなければ、無駄な治療をしていることになります。

コロナウィルス対策では、現在もっとも有望視されているのが有効なワクチンの開発です。最近の発表では、ファイザーは暫定値で90%の人に効果があるといワクチンの治験データが得られつつあるとしています。本当に効果があるワクチンが開発されるとよいとおもいますが、状況証拠をみれば、効果があるワクチンができるかは疑問です。というのは、特に、死亡者をみれば、高齢者で体力の弱っている人に集中しています。つまり、データは、コロナウィルスも結核の場合と同じように、発症や死亡に、栄養状態や、体力が大きく効いていることは間違いありません。このような場合、治験データに、偏りが生じます。

おそらく、若年層の半分以上は、発症せずに、自然治癒していると思われます。90%のワクチンの効果があるのは、自然治癒しないひとを分母にした場合でないとありえない数字になります。母集団を明示しない90%という数字は無意味なのですが、マスコミでは、視聴者が統計が理解できないと考えているように思われます。仮に、自然治癒しない人を対象にワクチン接種をするのであれば、1億人全員に接種する必要はありません。さらに、重症なるリスクの高い人に集中して接種するのであれば、パレート比で考えて、2000万人くらいに接種すれば十分と思わます。

まとめますと、次になります。

コロナウィルスが発症の原因であることは間違いありませんが、コロナウィルスが重症化の原因ではありません。疫学的な知見を用いれば、重症化のリスクを抑えることができますし、ハイリスクグループに優先的にワクチンの接種をすることもできます。ワクチンの接種による予防は、仮に、良いワクチンが開発できても、ウィルスが変異すれば、新たなワクチンを接種しなければ効かなくなる、抗体が長続きしないなどの問題が発生する可能性があります。これに対して、疫学的なリスク管理は、こうした問題の影響を直接はうけません。ですから、ワクチンだけにたよるのではなく、疫学的なリスク管理を併用すべきです。

問題は、半年以上たっても、疫学的なリスク管理がほとんど、進歩していないように思われる点です。