どうしてバイデンは候補になれたのか

アメリカ大統領選挙の開票作業はまだ完了していませんが、メディアが当選確実を報道して、バイデンが大統領が勝利宣言をしました。

トランプ大統領が分断を促進していると原因が個人にあるという批判があったのですが、歴史的な変化に対する個人の寄与は小さく、背景には大きな流れがあるという見方もできます。データサイエンティストは、現実は、真実の世界のサンプリング結果に他ならないと考えますから、データサイエンティストにはこうした見方をする人が多いと思われます。

1990年代のアメリカ映画で、名前は忘れましたが、黒人の大統領が登場する映画がありました。このころは、黒人が大統領になることは考えにくかったのです。オバマ大統領が出現したころから、こうした前提が崩れます。次の候補者は、負けてしまいましたが、ヒラリー・クリントンで女性でした。トランプ大統領も、就任時の年齢は最年長です。今回、バイデン候補が、大統領になれば、最年長記録を更新します。また、女性の副大統領も初めてになります。

おそらく、オバマ大統領の頃から、アメリカの大統領選挙のルールが変わったのだと考えないと、こうした、例外の連続を説明することができません。大統領になれば、知名度が上がりますので、ほとんど場合には2期目も当選します。バイデン候補のように、最初から2期目を狙わない大統領候補も、最近では例がありません。選挙にかかる費用を考えれば、普通は民主党のほうで、2期つとまる候補に絞り込みをしてくるはずです。しかし、今回はそうした力学は功を奏していません。

老人も含めてマイナリティが大統領になりにくいのは、選挙で投票する人は、同じマジョリティグループに属する候補に投票する傾向があるためです。しかし、オバマ大統領の頃から、この公式が当てはまらなくなってきています。そのため、マイナリティの候補が頻出する状況になっていると思われます。今回も、マジョリティである白人の大半はトランプ候補に投票したと思われています。マイナリティの投票者を当てにした候補が勝つためには、投票者のグループ(ユニバースというらしいです)毎に、選挙対策を行い、複数のマイナリティグループを組み合わせて、SNSを使って、票を伸ばします。こうした手法は、オバマ大統領のころから導入され、前回のトランプ大統領の当選の時には、共和党がバックアップしたケンブリッジ・アナリティカの作戦が効果を発揮しました。今回の終盤のトランプ大統領の巻き替えしにも、同じような手法が使われていたはずです。これは、例えば、バートレット にのっています。

さて、テレビなどで、従来の政治の専門家は、隠れトランプ支持者がいて予想がはずれたといっていますが、民主党共和党選挙対策チームは、ビッグデータSNSは、織り込み済みのはずです。また、A,B,Cといった複数のマイナリティを組み合わせて、票を伸ばした場合には、当選後できることは次の2つのいずれかです。

  • マイナリティの票で当選しているが、政策はマジョリティに合わせて、普通の政策をすすめる。チェンジを掲げて、何も変わらなかったオバマ大統領の手法です。

  • 現実に、複数のマイナリティを満足させる矛盾した複数の政策を実行することはできません。しかし、マイナリティが、満足するようなポスト真実を与えることであれば、矛盾した政策が実現しているように見せることは可能です。これは、トランプ大統領の手法です。

バイデン大統領になった場合には、恐らくはオバマ大統領の政策を引き継ぐのかもしれません。しかし、オバマ大統領が何も変えなかったことで、南沙諸島の緊張が高まってしまったことは事実なので、選択肢は限られています。おそらく、バイデン大統領も、どこかでは、ポスト真実を使うと思います。これは、マイナリティを組み合わせて当選した場合には、避けられないからです。

マイケル・A・オズボーンは2015年に「未来の雇用」を出版し、10年後に2015年にある仕事の半分はなくなるか、大きく変質するといいました。それから、既に5年がたっています。このことをアメリカ大統領の政治学に当てはめれば、従来の政治学の手法では、大統領選挙の半分も説明できなくなっていることを意味します。オズボーンのいっていることは、10年経ったら、ある日突然失業するというのではなく、10年間の間に同じ手法を繰り返していると仕事をする能力が段々そがれて、飯を食えなくなるということです。もはや、ビッグデータSNSの活用が理解できないと政治学は役に立たなくなっているということです。

マスコミは学術会議の委員の選任の国会論議を報道しています。現在の学術会議の専門家は過去の業績で選ばれています。つまり、ほとんどの人は時代遅れで、あと5年したら、オズボーンの予測のように、半数は失業状態になっているのではないでしょうか。少なくとも、大統領選挙を見る限りは、オズボーンの予測は、今のところ正しいと思います。

 

  • 操られる民主主義: デジタル・テクノロジーはいかにして社会を破壊するか  ジェイミー・バートレット

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  • 人工知能AI等と「雇用の未来」「働き方・人材育成」岩本晃一 2018年

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