アメリカ大統領選挙と囚人のジレンマ

大統領選挙が今週行われます。マスコミの調査では、バイデン候補が若干有利ですが、トランプ大統領が追い上げています。

統計的なサンプル調査が崩壊しています。まともなサンプリングは出来ないとサンプリングの改善が放棄されています。これは、データサイエンスとしては、由々しき事なのですが、解決の方法はないと諦められています。これは、大変なことなのですが、あきらめムードです。

個別のデータを見て判断することはもはや不可能です。そこで、ここでは、より大きな流れを考えてみます。

トランプ大統領は米国を分断するので問題だという指摘がありますが、この指摘には問題があります。

ゲーム理論では、有名な例題に囚人のジレンマがあります。A,B2人の囚人がいます。2人とも犯罪を自白しなければ、無罪になります。司法取引などで、例えば囚人Aが犯罪をしたと自白すれば、Aは無罪または罪が軽くなり、Bの罪が重くなります。相手が、自白するという疑心暗鬼になると、2人とも自白してしまい、2人とも有罪になります。つまり、参加者の内の1人がルール違反をすることが想定される場合には、ルールを守ることは、最適な選択ではありません。

トランプ政権が、中国に対して行った政策は、もはや、相手がルールを守るという前提で、政策選択はしないという意思表示です。今後も中国はWTOルールを守らないので、守らないことを前提に政策をおこなうという意思表示です。これに対する中国の反応は、囚人のジレンマの双方自白そのものでした。(注1)

フランスでもマクロン政権が反過激派イスラムを明白にしています。宗教的な価値が、国の主権を上回るようになると国家は維持できません。ここでも、囚人のジレンマで考えれば、今まで、フランスは、過激なイスラム教徒と対等な主権関係が築けるという前提で、行動してきましたが、その前提が崩れたと考えられます。

このように考えますと、世界中に分断が拡大していますが、囚人のジレンマで考えれば、ともに自白しない(ルールを守る)前提が取れなくなったことに相当します。ゲーム理論では、この場合には、裏切りと分断が最適戦略になります。つまり、現状では、分断政策が合理的なのです。

米国で黒人が殺され、暴動がおこった場合には、ともに自白しない(ルールを守る)前提が崩れたことになります。このような場合に、ゲーム理論では、ルールが守られないので、軍隊を用いるトランプ流は、非暴力を訴えるバイデンよりも、合理的です。結局、バイデンは、自白をしないことがいいことだと主張するだけで、解決策の提示ができていないのです。

囚人のジレンマ(不信感の伝播)の震源地は、どこかわかりませんが、現状では、コロナウィルスのように、世界中に蔓延しています。これからの世界では、やられたら、やり返すこと(ルール破りするものに対しては、ルール破りで対応する)が合理的になってしまったように思われます。もちろん、法治国家では、懲罰を課すことで、囚人のジレンマ(不信感の伝播)を防ぐことが原則です。つまり、逮捕して裁判を受けない限り、懲罰をうけません。しかし、過激な宗教や多国間の関係では、このルールは守られません。また、国内でも、暴動が起これば、法治国家の前提が揺らぎます。つまり、ルール破りの原則が常態化すると、法治が崩壊します。こう考えると、米国の大統領選挙だけが、例外になるとは、考えにくいと思われます。つまり、最近の世界の大きな流れからすれば、ゲーム理論で見れば、トランプの方が、バイデンよりも合理的です。

注1:

第1次世界大戦の戦後処理で、経済のブロック化が起こり、それが、第2次世界大戦につながっていきます。このため、「経済のブロック=戦争の端緒」という図式が出来ており、経済のブロック化は、悪であるという認識が広まっていると思われます。確かに、第2次世界大戦の後では、経済のブロック化が起こらず、グローバリゼーションの恩恵が広く受けられ、戦争の再発は、局所戦に留まっています。しかし、それが、可能であったのは、米国とソ連の圧倒的な軍事力があったからです。実際に、冷戦が終わるまで、世界経済には、資本主義と社会主義の2つのブロックが存在しました。冷戦が解消して、軍事的優位は米国1か国になり、グローバリゼーションが進みます。このグローバリゼーションのルールは、米国に有利であると批判されることもありますが、圧倒的な軍事力をもとに大幅なルール破りは起こらなかったことも事実です。中国などは、ルール破りをしていた可能性がありますが、経済規模が小さい国が、ルール破りをしても世界経済に与える影響は小さいので、お目こぼしをしてきてました。現在は、中国の経済規模、軍事力の規模が大きくなりました。ですから、米国と中国が歩み寄って統一ルールを作って守ることが出来なければ(不可能ではないですが、現実的には難しいと思われます)、第1次世界大戦の後のようなブロック経済が復活するはずです。この場合には、ブロック経済下で、平和を構築することが必要です。分断は悪であるというお題目には、効能がありません。これは、ゲーム理論から導き出される命題と思われます。