極上のジェノベーゼの作り方(2)

なぜバジルが大切か

ジェノベーゼにこだわる理由は、イタリア料理では、バジルがないと始まらないと考えているからです。

今回は、その理由を説明します。

現在の日本のイタリア料理では、日本人のカリスマシェフが腕を振るっています。イタリア料理が日本で広く受け入れられたのは、バブルの前頃からです。筆者が子供の頃は、イタリア料理は、ミートソーススパゲティとイタリア風日本料理のナポリタンくらいしかありませんでした。ピザが出てきたのは学生になったころです。

米国でも状況は似ていて、ヨーロッパの料理は、前後に、最初は、フランス料理が、そのあと遅れて、地中海料理が入ってきます。この辺りの話は、別の機会にしたいと思いますが、米国の場合には、地中海料理は長寿になるということで、広まった点が日本と違います。米国で地中海料理を広めた方は、イタリアに移住してしまいますので、地中海料理の中心はイタリア料理ですが、スペイン料理ギリシア料理も、地中海料理とみなされています。

さて、日本にはじめてイタリア料理レストランを開いた人はアントニオ・カンチェーミさんといわれています。この人は、イタリア海軍最高司令官の専属料理人だったのですが、戦後、日本人の女性と結婚して、日本に定住します。アントニオ・カンチェーミさんは1950年に西麻布にイタリア料理専門店「アントニオ」を開きます。この時に食材としてのバジルが入手できないという問題が生じます。このため当初は「アントンニオ」ではバジルを栽培して自給していました。

筆者はこの話を聞いたので、イタリア料理を作るのであれば、バジルを十分に入手できることが前提になると考えています。「アントンニオ」が開店したころと違って、現在では、スーパーで、バジルを入手することができます。しかしながら、パッケージの量が少ない上に、価格も安くありません。販売している方は、サラダの付け合わせや、マルガリータピザ(トマト+バジル)に使うような利用を想定しているらしく、1パッケージではジェノベーゼはつくれません。

このため、筆者は夏の間は、家庭菜園でバジルを自給しています。大袋に入ったバジルはたまに見かけることがあります。今まで確認できた販売店は、食品店の地元野菜のコーナーと道の駅だけです。家庭菜園は、温室ではないので、冬はバジルがつくれません。昨年の冬は、たまたま、スーパーで、バジルを安売りしていたので、パッケージを4つ購入して、ジェノベーゼを作りました。

ということで、ジェノベーゼソースを作るためには、どこで、生バジルを入手するかという問題をまず解決しないと始まりません。

筆者は、試してみて、家庭菜園が一番簡単であると思っています。ただし、今年は、コロナウィルスではありませんが、バジルに伝染病が発生して、葉が枯れ落ちてしまいした。なので、期待した量の3分の2くらいしか収穫できませんでした。

ジェノベーゼソースを作るときのバジルでは、水は禁物です。バジルの葉に、水が付くと、黒く変色してしまって風味が落ちます。ジェノベーゼソースでは、バジルの葉は、オリーブオイルにつけられています。油漬けになると変色はしませんが、その前に葉をぬらしてしまうと、台無しです。ですから、収穫した葉は洗わずにそのまま使います。レシピ本には、汚れが気になる場合には、ぬれふきんで拭くように書いてありますが、バジルの葉が痛まないように拭くことは至難です。その代わり、庭のバジルを収穫する場合には、泥が跳ねる地面に近い部分の葉は使わないようにしています。こうすれば、ぬれふきんは不要と思います。

バジルにはいろいろな種類があります。シナモンバジルとか、レタスバジルとかです。ただし、ジェノベーゼソースにはノーマルな風味が良いと思います。ノーマルな風味のものには次の3種類がありまます。

  • 葉が小ぶりなもの

  • 葉が大きくて丸いもの

  • 葉が大きくて縮れているもの

風味は、葉が小ぶりなものは一番いいです。ただし、収穫に手間がかかるので、その手間とのバランスを考えてまで、葉が小ぶりな種類にするメリットはないと判断して現在は栽培していません。葉が大きいものの2種類の間には風味の差はないと考えています。ただし、上記のように、葉を洗いたくないので、ゴミが付きにくいという点で、葉の丸い品種(クラシコ)があれば、それを勧めます。

バジルの和名は「メボウキ」といいます。種を水につけると周囲にゼリー状のものが出てきます。このゼリーが目に入ったゴミを取れるということで、「メボウキ」を呼ばれるようです。このゼリー状の食感を楽しんで、デザートに使うためのバジルの種を食材としてうっています。グラム当たりの単価は、園芸店で買うものより食材の方が安いと思いますが、発芽試験はしたことがありません。蛇足ですが、食材用のコリアンダーは蒔いたら発芽して、園芸店のものより安かったです。

バジルのゼリー状のものには、発芽抑制剤が含まれていますので、発芽させるには、最初はまめに霧吹きなどで水を吹き付けて発芽抑制剤を取り除かないと発芽率が低くなります。簡単な方法は苗を買ってくることで、バジルの種が安いので、1鉢に30本くらいのバジルが入っていたりします。この場合には、苗を分けて、増やせば、1鉢で、10本くらいのバジルを育てることができます。また、バジルはトマトと相性のよいコンパニオンプランツとも言われています。とはいえ、トマトはすぐに大きくなるので、脇芽を取らないと、影になってバジルが育たなかったりします。

ということで、たかが、バジルですが、ジェノベーゼを作るには、まず、ここをクリアする必要があります。