戦争の条件の変化(3)

便益検討の後半です。これは、ブログなので、考えるヒント、下書きです。まだまだ、見落としがあると思いますが、不完全でも、とりあえず書いてみることができる点が、ブログの長所と考えています。

戦争の便益(後半)

7.経済的属州化

第2次世界大戦が終わって、軍事大国は米国とソ連だけになります。その結果、この2か国は戦わずして、戦争に勝った場合に等しい影響力を世界に与えます。第2次大戦後に、政治的には、枢軸国から、各国は独立します。それどころか、1960年頃までに、旧植民地の多くが独立します。一方では、日本のように、実質的な占領軍の一部が残存している国もあります。これは、軍事的・政治的・経済的な属州化とみなすこともできます。ソ連の場合には、ハンガリー動乱のように、政治的な属州化が明確に表れたこともありますが、米国の場合には、経済的な利益が優先したと思われます。

現時点では、ソ連清算されて、周辺国の属州化を再度進めています。

米国の属州化政策は、軍事的優位が弱くなって、効果が限定的になってきました。

中国は一帯一路政策で、新たに属州化政策を展開し始めています。

米国が第2次世界大戦の後では、さらに、戦わずして、軍事的優位を示すことができました。その権威が揺らいだ事例が、スプートニクショック、キューバ危機、ベトナム戦争であったと思われます。米国がベトナム戦争に勝っていたら、カンボジアポル・ポト独裁政権ラオス社会主義化はなかったと思われます。現在、ラオスカンボジアは中国の大きな影響圏下にあります。

中国が経済的な属州化を図る場合に米国やソ連と異なるのは、第2次世界大戦の後のように、軍事力の大きさが自明ではない点にあります。現在は、軍事力を背後に、一帯一路政策で、債務を広げていますが、この方法は次の点で持続可能ではありません。

  • 中国自体の経済が落ち込んでローンを組めなくなるリスがあります。

  • 債務が焦げ付いて返却不能になったときの処理が不透明です。選択しとしては、軍事力を背景に、資源や、港湾施設を取り押さえる方法と、債務の返還免除をする方法があります。後者の比率は今のところ3%にとどまっています。軍事力の背景を誇示する必要がある場合には、どこかで、デモンストレーションのための戦争を行うかもしれません。近年に、デモンストレーションに近い戦争が行われた事例に、フォークランド紛争があります。

中国の習近平国家主席は2020年10月13日、広東省人民解放軍の精鋭部隊である海軍陸戦隊(海兵隊)を視察し、「戦争の備え」に全力を注ぐよう指示しました。中国は、いまのところ、経済的属州化政策に進んでいるようにみえます。

8.要衝の確保(ロジスティック効果)

これは、その地点の自体の価値というより、中継点としての価値がある場合です。パナマスエズ運河ジブラルタル、ロシアにとってのウラジオストックカンボジアシアヌークビルなど、そこを押さえられると、通商に支障が出る場合には、軍事力で占拠する価値があります。香港をイギリスが返還したのは、この点では、多くの人の予想を超えていました。おそらく、イギリスは、返還しても、要衝の確保としての価値が保全されると予想していたと思われます。通商上の中国にとっての香港の価値とイギリスにとっての香港の価値は大きく違います。おそらく、この想定外の発生は、イギリスの外交政策に変更を迫っていると思われます。

9.過剰人口の処理

これは追放と似ています。同じグループにすべきかもしれません。

移民、難民が生ずる条件は次の2つです。

  • 人口が過剰で、食べていけない。

農業が基幹産業の時代には、常識でした。工業化によって、製品を売って、食料を購入することが可能になりましたので、以前ほど、表面化はしませんが、国の中のエリアではあると思われます。例えば、中国では、農村で食べられなければ、農民工として、都市で働きますが、都市が吸収できなければ、海外移住になります。アフリカだけでも、100万人以上の中国人が働いていて、現時点では、外国人労働者扱いですが、華僑の歴史をみれば、長期的に中国に戻れるかはわかりません。

  • 国内にとどまることができない。

広い意味では、上記の「人口過剰」も、この条件に入りますが、ここでは、「人口過剰」以外の、短期的な問題を考えます。内乱や政治的な問題で国内にいられなくなる場合です。政治的亡命の大規模な事例には、ベトナム戦争の後の親米派の移民があります。

ウイグルチベットに対する人権侵害、ウイグル人やモンゴル人に対する民族浄化はこの辺りに入るのでしょうか。中国は、高齢化と人口増加の停止に入ってきているので、今後の展望が見えにくい状態です。とはいえ、人口自体があまりに大きいので、問題は簡単ではありません。

エマニュエル・トッドのように、日本は、移民に道を開くべきであるが、中国とのパワーバランスを考えると、中国人は除くという条件が必要であるという主張もあります。現在は、日本は、留学生の数を見ても、こうした点は配慮していません。

後半のまとめ

こうして並べてみると、唯一の要素に絞り込むことは不可能ですが、キーになるのは、経済的属州化ではないかと思われます。簡単に言えば、一帯一路政策が焦げ付いた時には、戦争の発生リスクが高くなると思われます。

次回は誰が戦争を仕掛けるのかという主体の問題を扱います。