戦争の条件の変化(2)

前回は、戦争の費用について考えました。今回は、便益について考えます。

ちょっと、テーマが大きすぎるので、とりあえず、前半と後半に分けて考えます。

戦争の便益(前半)

戦争を行う場合には、戦争を仕掛けて、勝利した方に経済的なメリットがあることが普通です。しかし、第1次大戦のドイツの戦後処理のような膨大な賠償を請求することは難しくなっています。

ここでは、過去の征服戦争の例を見て考えています。

1.収奪

スペインやポルトガルが、植民地征服の初期に使った手法です。ベルギーのコンゴでのゴムの収奪もこれに相当します。なんでもかっぱらう方法です。この方法の問題点は、一度収奪すると、その後では、便益がでなくなってしまう点にあります。

2.追放

戦闘能力に圧倒的な差がある場合で、土地が不足している場合には、追放が起こります。

米国のインディアン追放、日本のアイヌの追放、オーストラリアのアボリジニの追放などがあります。追放される方の民族は、農耕民族ではないことが多く、問題が表面化しにくい特徴があります。このため、表面化しているものはごく一部と思われます。米国のインディアンの場合には、インディアンが、馬や銃などの征服者側の兵器を使いこなしたため、大規模対立になりましたが、これは、例外と思われます。山岳民族が結果として、消滅する例は多くあります。これは、言語分布の研究をみればわかります。これが追放にあたるかは微妙と思われます。

 

3.鉱物資源

鉱物資源が取れる場合には、資源の占有を廻って戦争が起こります。中東やアフリカで戦争が多く発生する原因は戦争に勝てば、石油や金などの鉱物資源の占有の便益が期待されるためと思われます。日本の場合には、過去に金や銀がそれなりの算出をした時代はありますが、植民地化が進んだ大航海時代以降では、資源が枯渇しました。日本が征服されたことがないのは、ひとえに、鉱物資源がなかったためであるという意見もあります。尖閣諸島等の海洋の鉱物資源に価値が見いだされれば、状況は大きく変わります。

 

4.奴隷

戦争に負けた側が奴隷として売り飛ばされるという事例は、古代からあります。しかし、それは、収奪と同じで、1回かぎりです。より大きな問題は、奴隷貿易のシステムです。このシステムは、武器と奴隷の物々交換で成り立ちました。戦争によって占有した土地は、海岸沿いの砦だけです。このシステムは、管理費用の最少をめざして、あえて内陸部を征服していません。

 

5.プランーテーション

イギリスやオランダが行った方法です。長期的に収益が期待できます。ただし、それなりの費用と手間がかかります。農園労働者を直接支配することは出来ないので、中間管理職を介して、支配することになります。イギリスの場合には、英語が通じるインド人を中間管理職として使ったので、世界中にインド人が広がりました。

 

6.属州化

ローマ帝国が使った手法です。プランテーションよりは管理が、緩やかで、収益も小さいですが、管理に必要な手間は少なくて済みます。

 

中間まとめ

鉱物資源は現在も戦争の大きな要因であると思われます。

それ以外は、分かりにくくなっています。

例えば、中国が台湾に戦争を仕掛けて征服した場合に、どのような便益が生じると期待できるのでしょうか。

次回は、もう少しグレーゾーンを考えてみます。