「野口悠紀雄:中国が世界を撹乱する」を読んで

野口悠紀雄はWEBにいくつか連載を持っていて、それをまとめて本を出しています。本書は、2019年7月から2020年3月に現代ビジネスのWEBの掲載された記事をまとめたもので、2020年6月に出版されています。ですから、現在(2020年10月)は、出版から4か月が経過しています。WEBをまとめた本は、新鮮さが生命のところもあるので、購入するか否か、迷ったのですが、テーマが中国のAIであったので、読むことにしました。

読んでみて、大変参考になる事項が多く、良かったです。

エマニュエル・トッドは、現在の先進国の置かれている最大の課題は、民主主義が崩壊している点にあると考えています。野口悠紀雄の視点も同じで、中国が経済成長を続けたことは、民主主義に対する挑戦であるととらえています。そして、過去30年を見ると、中国の体制はある程度は成功していると認めざるを得ないと評価します。その過程で、野口は、過去の中国に対する評価を訂正します。この訂正は、本の中では、あっさりと書かれているので、一見すると何気なく見えます。しかし、次の点で、ここが論点です。

第1は、中国像の変化です。「覇権国の歴史の中で中国をどうとらえるべきか」ということが、ここ5年で非常に重要な問題になってきました。特に、外交政策の再構築が世界的に進んでいます。米国ではトランプ大統領が出てきて、特異な行動が注目を浴びていますが、大統領の個性とは別に、米国の中国政策は変化しました。以前は中国は豊かになれば民主化するだろうという前提で、外交政策が構築されていたのですが、現在は、民主化することのない国に位置づけが変わりました。野口も基本的に、米国外交を踏襲して、中国像をかえています。この本の中心は、今まで野口が持っていた中国像の再構築を図っている点にあります。

第2は、経済学的な世界観です。野口は経済学者なので、著書は、全て、経済学的な世界観に基づいて書かれています。この本は、中国像の本ですが、一方では、野口の経済学世界観の再構築に関する本でもあります。野口は多くの本を書いていますが、多くは同じ経済学的世界観の延長にあります。つまり、多くの本は、読むことで細部の情報を得ることができますが、大局はかわりません。しかし、この本は大局の再構築に関するもので、久々に読み応えがあります。

 

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