「人口の中国史」を読んで

上田 信著「人口の中国史」が出ていたので、買ってきて読みました。

その理由は、中国の人口史のデータが今までは、ほとんど皆無だったからで、10年以上前に、調べたときには、和書では、「羊の歌」が唯一で、その前のレポートは、なんと、満鉄調査部のものしかない状態でした。

日本の人口については、歴史人口学が出てきて、お寺の過去帳のある時代については、かなり、実態がわかってきたのですが、中国は皆無でした。

日本の人口を調べた最大の関心事は人口変動の大きさで、特に、飢饉や内乱の要因が知りたかったことです。

というのは、FAOをはじめとして、食料危機を予測する機関は多いのですが、過去の実績については、ふれられることがないからです。

中国では、毛沢東時代の大躍進政策で、2000から3000万人が死んだことがわかっています。しかし、過去の王朝末期には、大混乱が起こるのが中国の歴史ですから、混乱時に多くの人が死んでも不思議ではありません。

また、経済学者のアマルティア・センはインドのベンガル飢饉の分析を通じて、飢饉の主な要因は、食料の需給バランスではなく、アクセシビリティにあることを明らかにしています。

この本を読んで、王朝時代には、太平天国の乱の前後しか、使える人口データがないことがわかりました。

人口は微分方程式でかけるので、経済学や工学では、人口問題はパラメータ推定問題なのですが、そうした視点で書かれているところは少ないです。また、著者は「合散離集」と言っていますが、ストックとフローが混乱しているように思われます。また、人口分布は人口GISデータの推定問題です。地理的なフローはmigrationが共通用語としてありますから、migrationで整理して欲しいです。でも、そうして視点でみると、学校でならってきた歴史は、いったい何だったのかと思います。つまり、微分方程式や、データサイエンスの目で見ると、今まで歴史学は何だったのかが明確に分かります。筆者は、そうした目で読んので、非常に面白かったです。言い換えると、数学やデータサイエンスでみて、歴史学が何を言っているのかがわかるはじめての本であると思います。データが少ない場合でも、データサイエンティストは、ベイズ統計の書式で、事前確率(主観)と事後確率(データの反映)を分けて記述します。この本を読むと、こうした定式化の長所がいかに大きなものであるかが、分かります。

人口の中国史――先史時代から19世紀まで (岩波新書) (日本語) 新書 –

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