実験のオブジェクト表現

前回は、科学と設計を対比して考えたのですが、実は、比較をする場合には、オブジェクトとメソッドを区別することが、問題を明確にする上では重要であると思っています。

科学や設計はメソッドです。オブジェクト指向では、メソッドは、オブジェクトとセットで考えます。メソッドとしての科学も、オブジェクトが何かで、メソッドの性格が異なります。ですので、オブジェクトの種類だけ、科学メソッドの種類があると考えると、思考に無理な抽象化が入ることを回避できます。

「オブジェクト.メソッド」の表記法を使えば、実験科学は、「実験.科学」と表記できます。あるいは、方法論として帰納法を用いますので、実験科学は「実験.帰納」と書けるかもしれません。しかし、これらの表記は、メソッドが、返り値を持つというルールを満足していないので、まだ、未完成な表記法です。とりあえず、実験をオブジェクトとして考えようということが明示されただけです。「実験.仮説」であれば、返り値は、trueかfalseになるので、メソッドの返り値の要件を満たしています。「科学は、仮説と検証(の集合体)である」といわれることがありますが、これは、「科学は、『実験.仮説』の継承である」と書いた方が正確であるとも言えます。

この表記は、実験のできない科学は、当面の検討の対象外であるという立場を示します。また、メソッドが返り値を持たなければならないという要請は、ポパーの検証可能性の要請に対応しています。

「実験.仮説」で注意を要する点は、実験は、「仮説を検証するように設計される」、あるいは、「仮説を検証するようにオブジェクトが抽出される」ことです。仮説がどのようにして作られるかは、ここでは問われません。

仮説は、観察から作成されます。観察の一番簡単なものは目視による観察ですが、じつは、これは、得られたデータが複雑な点で言えば、簡単とはいえません。目視のデータは、数値化されたデジタルでは、画像データであって、これから、意味のあるデータの抽出は簡単でないからです。とりあえず、「観察(データ).仮説」と書いてみます。ただし、この表記では、返り値の要請は満たしていません。

仮説の使える観察は、次の要件を満たす必要があります。

  • データが数値化されている。

  • 原因と結果の候補となる複数のパラメータが観測されている。

  • 出来れば、パラメータ間に独立性がある方が望ましい。

数値化されている要因の測定値が得られたとします。もっとも単純な事例は、1要因の1観測値の時系列ベクトルです。仮説は、「if原因then結果」という形式で書けますが、これに近いアルゴルズムは、相関係数行列を作成して、相関係数が最大の要因の組み合わせを抽出するものです。

ここまでをまとめますと、実験と観察は、観測が実験室で行われているか否かではなく、「仮説を検証する計測が実験」、「仮説を導出する観測が観察」と区別した方が良いと思われます。

仮説の導出過程は、良く分かりませんが、相関は使えそうです。

科学を実験オブジェクトに分けることで、検討がしやすくなると思われます。