応用科学が役に立たない理由

データサイエンスと相互不可侵条約

大学はUniversityで、全ての分野の知識を包括する建前になっています。

各学部、学科は独立しており、相互不可侵条約が結ばれています。

これは、学会等の専門分野と結びついており、場合によっては、各学科に対応した学会があるという完全な縦割りが保たれています。

こうした縦割りの問題点には次があげられると思われます

  1. 専門分野(学科、学会)の再編が進まない。

  2. 独立性の前提が崩れる場合に、学問体系が総崩れになる。

1.は政治的な色合いが強いので、今回は扱いません。

ここで取り上げたい問題は2.の方です。

相互不可侵条約は日本の大学の中で破られることはまずないと思います。これは、文部科学省のお墨付き体系でもあります。しかし、国際的な学会のレベルでは、そもそも相互不可侵条約がないか、極めて弱い場合があります。お気づきとは思いますが、データサイエンスは日本国内では、学問分野や学会としては非常に脆弱です。言い方を変えれば、データサイエンスは主に米国の学問の枠組みで進んできており、相互不可侵条約は考慮されていません。データサイエンスには、統計学が含まれるので、データサイエンスの興隆によって統計学が元気になったという見方もできます。しかし、従来の統計学を、コンピュータ科学が侵略したものがデータサイエンスであるという見方もあります。ベイズ統計の興亡を考えると、こうした見方にも分があると思われます。

データサイエンスは、コンピュータ科学が統計学の領域に侵略して作った学問とみなした場合、侵略は、統計学だけでなく、非常に広い学問分野に及んでいます。特に、因果律の問題は、影響が大きいので、今回はこれを取り上げます。

応用科学の方法論上の欠陥

従来は学問分野は、対象別に区分されていました。例えば、人間の病気を対象にする学問は医学です。建物を対象とする学問は建築学です。

ある対象を定めて、対象を調べたり、対象について調べた結果を整理して保存すれば役にたつだろうというものが応用科学の素朴な学問の方法論です。

物理学は次の方法論を提示しました。

観察ー>仮説の設定ー>実験による検証ー>仮説の承認または修正

しかし、多くの学問では、これほど単純な手順に収れんさせることは出来ませんでした(注1:)。

応用科学は有益な対象を研究することで、人類の福祉に寄与することを前提としています。

今回は分かりやすい例として、水産資源学を取り上げますが、同じような問題は、非常に多くの応用科学に共通の課題であることを事前に断っておきます。

水産資源学では、研究対象は食べられる水産資源です。魚であれば食べて美味しい魚を対象にします。

サンマ、アジ、ウナギ等の研究に対しては、研究費がつきます。一方では、例えば、タツノオトシゴの研究をしたいと申請しても、それは、水産学ではなく、生物学に申請してくださいと言われます。

サンマが取れるためには、エサがあることが必須の条件です。さらに、エサを競合する他の魚種とのバランスもあります。これらは生態学におけるエネルギー循環の一部で、エネルギーを通じた因果関係が形成されています。

30年くらい前には、魚種間の餌の取り合いの問題は水産資源研究の前提になっていませんした。その結果、特定の魚種だけをしらべた水産資源研究は全く使える成果になりませんでした。最近では、3種類ぐらいの魚種をセットで考えているようです。しかし、エネルギー循環で考えれば、基本的には、有機塩類ー>植物性プランクトンー>動物性プランクトンー>魚類という因果があります。つまり、競合魚種の問題は別にしても、プランクトンのデータがないとある魚種が今後どの位とれるかはわかりません。しかし、漁獲量の経年統計データはありますが、プランクトンの継続的なデータは、ほとんどないと思います。これは、人間はプランクトンを直接食べないので、研究に値しないとして予算がつかないからです。

このように、応用科学は、役に立つという基準で、その分野が基礎科学にない価値を有すると主張するのですが、因果律を考えれば、研究計画や資金(予算)配分に無理があります。

特定の魚種の漁獲量が減る現象は、30年以上前から、起こっていました。こうした現象が発生すると漁師は食べられなくなるので、新聞記事になります。

最近でも特定の魚種の漁獲量が減る現象が起きています。魚がとれない原因には温暖化などの当て推量が書かれています。問題は応用科学の方法論の欠陥にあります。直接目に見えて役に立つ(食べられる)対象だけを研究しても、因果律になりません。

データサイエンスの目でみると、現在の水産資源学研究を因果律に結びつく生態系研究に大きくシフトしなければ、あと何年研究しても、漁業資源問題の解明に達しないのは自明と思われます。

今回は、分かりやすい例として、水産資源を取り上げましたが、「データサイエンスの目でみると、現在の__研究を因果律に結びつく__研究に大きくシフトしなければ、あと何年研究しても、__問題の解明に達しないのは自明」のアンダーラインに当てはまる応用科学は多数あります。応用科学は、このままでは役にたたないことも多いのです。

 

 

注1:

物理学の成功によって、物理学の方法論は色々な学問分野で準用されました。リフォームして利用されたのです。これは、非常に多くの功罪を生み出していますが、筆者は罪の部分に関する分析が圧倒的に不足していると思います。