排他関係と包含関係の違い

二項対立の間違い

ソクラテスの事例のところで、知識レベルを「知」と「無知」に2分することは間違いで、知識レベルは連続分布をもつはずだと申しあげました。今回は、同じ問題を、排他関係か、包含関係かで考えてみます。

最近、よく問題に取り上げられる事例に、AIが人間の仕事を奪うという予測があります。

ここでは、「全ての仕事は、AIがする仕事(AIJ)と人間がする仕事(HUJ)に分けられ、AIが仕事をすれば、その仕事は人間がしない」ということが前提になっています。集合AIJと集合HUJは排他的で、この間には、積集合はない(AIJかつHUJ=空集合)という前提が置かれています。

包含関係による一般化

積集合がないと言う仮定を断りもなく導入することはできません。

積集合の場合には、仕事はAIJとHUJを組み合わせて行います。集合の演算は2値になってしまうので、ここで、連続変数を導入します。重みαを導入すると、積集合の仕事は次のようにかけます。

α×AIJ + (1-α)× HUJ

ここに、0<α <1.

αは、生産に必要な費用等AIJとHUJで共通に利用できる指標であれば、なんでもかまいません。

ここで、

α=1であれば、仕事は全てAIJになります。

α= 0であれば、仕事は全てHUJになります。なので、両端をいれた一般化仕事(GLJ)を次のように定義します。

GLJ = α×AIJ + (1-α)× HUJ

ここに、0=<α =<1.

こうすればすべての仕事はGLJで表されます。つまり、GLJの包含関係を考える方が、一般化できます。(注1)。

AIの進展を考えます。最初はAIがないのでα=0です。それから、次第にαは増大していきます。つまり、多くの仕事は、人間がAIを使いながらこなしていくことになります。

例を増やします。次にAIJをAIがする仕事ではなく、自動車を使ってする仕事に置きかえてみます。

α=0は自動車がない時代です。自動車が増えて、道路が整備されると、αは大きくなります。しかし、永久に1にはなりません。なぜなら、自動車だけでできる仕事は多くはないからです。もちろん、自動車が出てきた結果、飛脚は失業します。だからといって、皆が援助して飛脚を温存することは馬鹿げています。

AIについても、実測データからαを推定できるのは、特定の機能AIに対するαだけです。そして、その分野については、自動車と同じような変化が生ずると思います。

そうではなくて「問題にしているのは、汎用のAIだ。」という反論が出されるかもしれませんが、それは、技術の特性を無視した空論です。全ての技術は最小コスト(最少エネルギーに近い)を目指します。必要な目的を決めて、それに特化した技術だけが生き残ります。また、これは、地球環境にも優しい選択です。ですから、シンギュラリティを一般化して論ずることは馬鹿げています。

問題は、AIを使いながら仕事をする場合に対して、現在の教育が絶望的に立ち遅れていることです。100人考えると、ある仕事を100人全員がAIを使いながらできるわけではありません。2項で考えず、何人ができ、何人ができないと考えなくてはいけません。どうしても、AIと共存できない人が何人かはいます。その場合には、失業します。これは、自動車運転ができない人が、自動車と共存した仕事ができないことと同じです。失業リスクを減らには、教科の時間や部門別の定員を組み替える、IT副専攻を必修にするなどして、カリキュラムを変更しないといけません。現状は、既に、手遅れになりつつあります。

 

紙の書籍と電子書籍の場合

言葉による2項対立の間違いを避けるためには、図や数式(図形言語です)を導入する必要があります。

とはいえ、数式が嫌いな人もいます。なので、別の例をあげます。(だからと言って、数式やプログラムなどの図形言語を使わないことは、間違った結論に達するハイリスクな選択であることは認識してください。)

よく取り上げられる例題に「紙の書籍と電子書籍の比較」があります。ここでも、紙の書籍は電子書籍と排他関係のあるように、無意味な前提が置かれています。紙の書籍は、電子書籍の一部です。

  • 紙の書籍でできることは、全て、電子書籍でできます。

  • 電子書籍でできることのごく一部しか紙の書籍ではできません。

この場合には、電子書籍は紙の書籍を含む包含関係にあります。

このブログでは、darktableというRAW現像ソフトの使い方も説明しています。

darktableのマニュアルは、WEBまたはPDFの電子書籍しかありません。

マニュアルには、日本語版がないので、英語版を使うことになります。現在のこのブログの原稿はMarkdownエディタで書いています。このエディタはWEBにも対応しています。まず、マニュアルの読みたい部分を、darktableのWEBからエディタにコピーします。その時に、リンクもコピーされますので、マニュアルの写真もまったく劣化せずにコピーされます。つぎに、エディタの中で、英文を日本語に翻訳します。このとき、英文は残しておいて、間に日本語を挿入します。どうしても訳しにくい場合には、その部分をプリンタで印刷して、紙を見て考えます。電子書籍でもプリンタがあれば印刷できる場合は多くあります。

これらの作業を紙の書籍を使って行うと考えたらぞっとします。

よく新聞などで、紙の新聞や本が重要であるという恐ろしい論調を目にします。つまり、「紙の書籍は、電子書籍より優れている」と言いたいわけです。30年くらい前までは、印刷物は、活字を組んでいて、ゲラを修正していました。現在の紙の出版で、活字を組んでいることはないと思います。電子版組が便利なことは、紙の新聞や本を出版している人が身に染みて分かっているはずです。つまり、現在の紙の書籍は電子書籍の技術がなければ、そもそも存在していません。

ですから、このテーマは真面目に検討するには、値しないのですが、包含関係の事例にはなります。

 

注1:

こうした、排他的な対立関係を包含関係に入れかえる一般化をヘーゲル先生はお気に召さないかもしれません。