カメラマウントのデータサイエンス

マウントの上位互換性

ニコンが赤字で企業の継続が危ぶまれています。

既に、オリンパスは、カメラからの撤退を発表しています。

カメラに詳しい人は、非常に多くのコメントがありますが、ここでは単に、マウントをIT規格として考えます。

ミラーレスカメラのマウントの概要は表1になります。フルサイズとAPS-Cの双方が使えるマウントはE,L,Zだけです。ソニーのEマウントは2010年ですから、この中では、規格を決めたのが早いこと、規格が公開されていることで際立っています。つまり、IT部品の上位互換性を考えれば、設計思想がコンピュータとしては、まともです。m4/3も、Xマウントも上位互換性を考えていません。m4/3が出た2008年までは、フルサイズのセンサーを自社調達できたのはキャノンとコダックだけだったので、フルサイズのことは考えられないにしても、ASP-Cへの上位互換性は考えられたはずです。FujifilmのXマウントの2011年であれば、フルサイズセンサーが広がっていたので、フルサイズへの上位互換性を考えてもよかったはずです。つまり、IT部品の上位互換性の点からみれば、ソニーのEマウントの一人勝ちは予想できます。

センサーサイズとレンズ開発要員の関係

2019年のデータでは、金額ベースで、フルサイズのレンズ交換式カメラが4分の1、それ未満が4分の3です。台ベースでおそらく、1:10くらいになると思います。ミラー付きカメラの時には、フルサイズもAPS-Cも同一マウントでしたので、最初にAPS-Cを購入して、後で、フルサイズに乗り換えても、トリミングはされますが、手持ちのレンズは継続して使えます。ミラーレスでこれができるのは、実際のラインアップからすれば、ソニーのEマウント一択になります。

つまり、今まで、ニコンやキャノン、ミラー付きカメラで宣伝してきたAPS-Cで始めて、上手になったらフルサイズが可能なメーカーはソニーだけになりました。まるで、今まで、ソニーのために、キャノンとニコンが宣伝してきたようになりました。キャノンとニコンはこうした宣伝で今までカメラを売ってきました。その結果、今まで売ったカメラの9割以上はフルサイズ未満です。

コンピュータですと、メモリとCPUをアップするだけですので、性能アップに何が必要かは明確です。カメラの場合には、レンズが入るので、単純ではなくなります。この点は、上位互換性では説明できない点なので補足しておきます。

  1. 各カメラメーカーでレンズを開発できる要員は限られます。センサーサイズが1種類の場合には、そのサイズに合わせたレンズのみを開発すればよいのですが、複数ある場合には、要員配置の問題が生じます。簡単に言えば、フルサイズセンサー向けのレンズを開発する要員とAPS-Cサンサー向けのレンズを開発する要員の割り当てです。カメラの販売台数はAPS-Cが多いのですが、多くのAPS-Cのユーザーは、比較的安価なレンズは購入しないか、そもそもキットレンズしか使わず、追加のレンズを購入しません。フルサイズのユーザーは数は少ないですが、プロのように、価格にとらわれずに、性能が良ければ購入してくれる人がいます(注1)。ですから、メインの要員はフルサイズに割り当てられます。

  2. 同じマウントと2種類のセンサーサイズのカメラを売っている場合には、フルサイズ=高性能、APS-C=価格相応の性能にラインアップを整理して、ある程度コアユーザーになったら、フルサイズへの移行を促して、売り上げを増やしたいと考えています。つまり、「ASP-Cのカメラの性能が上がりすぎて、フルサイズはいらない」となってしまってはまずいので、そうならないように、製品のラインアップを調整します。

以上の2要素が働くと、複数センサーサイズをサポートしているマウントでは、フルサイズセンサーのカメラとレンズには高価だが充実したラインアップがある一方、ASP-Cのカメラとレンズの性能は劣ることになります。同じセンサーサイズのXマウントに負けているのはやむを得ないにしても、m4/3にもかないません。しかし、レンズ交換式カメラで、ユーザー数が一番多いのはフルサイズカメラメーカのAPS-C機を購入している層です。実際には、フルサイズ未満であれば、Xマウントとm4/3マウントの性能が良くなります。しかし、素人はカメラのことは詳しくないので、ブランドイメージで、キャノンやニコンAPS-Cを購入してきました。筆者もその一人です。

この点をかんがえれば、XマウントがAPS-Cにこだわることは正しいと思います。ただ、ここでの指摘は、上位互換性を規格として、持っておくべきだったということにつきます。

カメラメーカーは、エビデンスに基づく性能ではなく、ブランドイメージで、製品を売ってきました。一時期のコンデジの画像競争が典型例です。現在のフルサイズカメラの宣伝もブランドイメージにすぎないと思います。(注1参照)その点では、ビジネスを改善すべき時期にきていると思います。

 

注1:写真を発表する手段が再構築されています。WEBで1辺1000ピクセルで見るのであれば、フルサイズには、各段の意味はありません。写真コンテストは依然としてダイナミックレンジの狭い紙ベースですし、完全に時代に取り残されています。エビデンスで考えるのであれば、最初に評価基準を明確化する必要がありますが、現在は、センサーの改良などで、できちゃった高性能を無理やり押し付けて商売しているように思われます。

 

表1 ミラーレスカメラのマウント

マウント メーカー 制定年 公開 フルサイズ ASP-C m4/3 1inch 備考
M4/3 パナソニック 2008 X     X   2015年ライカLマウント併用
  オリンパス             2020年オリンパス撤退
Eマウント ソニー 2010 X X X      
EF-M キャノン 2010     X     2018年RFマウント
Nikon1 ニコン 2011         X 2016年撤退
X Fujifilm 2011 X   X      
L イカ 2015 X X X      
Z ニコン 2018   X X